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異世界の好敵手≪ライバル≫へ  作者: 稲荷大明神
序章
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第四話「決着、そして更なる戦いへ(後編)」

 なんて威力だ。全身が焼けるような痛みに、オレ(レオ)は意識が飛んでしまいそうだった。


 吹き飛ばされた瞬間、とっさに全力の凍て付く防壁(グラキエス・ウォール)を張ってもこのダメージだ。体はボロボロだし、魔法もあと一発撃てればいい方だろう。


 だが、ここで諦めるわけにもいかない。レイラが泣いているんだ。こいつが泣かせたんだ。それだけで、オレはこいつに負けるわけにはいかない。どれだけ実力差が開いてたって、関係ないんだ。


 しかし残念だが、多分どう頑張ってもオレじゃこいつには勝てない。情けない話だが、オレはさっきからかなり手加減されている。それなのにオレは、あいつにかすり傷一つ付けることができないんだから。


 ……しかし、まだある。オレにはあいつをぶっ飛ばす方法が、まだある。


 それを使ってしまったら、オレは恐らく勝負には負けるだろう。結局ボロボロになった上に犬死で、レイラをまた泣かせるだろう。だがオレにも意地がある。同じ負けならせめてあいつに一撃を、デカい一撃をくれてやりたい。


 あいつをぶっ飛ばして、オレ達も捨てたもんじゃないんだって、レイラに言ってやりたい。


 そうだ。それならオレが迷うことなんて、最初からない。


 「う……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」


 雄叫びを上げ立ち上がる。目の前には、オレが立ったことに驚いているルークの姿。


 一気に距離を詰めルークに殴りかかる。だがオレの拳はことごとく、信じられないものを見るかのように目を見開いているルークにかわされ、空を切るばかりだった。


 「れ、レオ! 何でまだやめないんだ!? もうわかるだろう!? お前じゃ俺には勝てない!!」


 「黙れ! てめぇなんかに……! 自分も周りも否定するてめぇなんかに……!! オレは負けたくねぇんだよ!!!」


 いくら避けられたって関係ない。俺はルークの鼻づらに右拳を突き出すも、今度は掴まれてしまう。なおも殴ろうと左拳を引き絞った瞬間、オレのみぞおちにルークの拳が炸裂した。


 「お前に何が分かるんだ! いきなりぽっと出の才能なんかもらって、いきなり最強だなんて言われて! 正直最初は嬉しかったさ! でも蓋を開けてみればどうだ!? 何の努力もしないで、努力してる人たちを当然のように超えてて!! どんなに苦しくて申し訳なくて!! この力をどれだけ否定したいか、お前に分かるのかッ!!?」


 ルークはさっきまでとは打って変わりオレの顔面に、ボディに、次々と拳を打ち付けていく。反撃しようとするが全く手も足も出ない。オレが放った拳は全て避けられ、逆にルークの放った拳は全てオレに突き刺さった。


 だが、負けるわけにはいかない。いや……


 オレは、こいつに勝ちたい!


 「何とか言ってみろよ!? ちゃんと頑張って力をつけてきたお前に、いきなり身の丈に合わない力を背負わされた俺の気持ちが分かるんなら言ってみろよ!!」


 もう脚が震え、立ってられなくなったオレにトドメを刺すべく、ルークは拳を強弓のように引き絞り、そしてオレの左頬をめがけて撃ち放つ。オレはそれを、最後の力を振り絞って右手で受け止めた。


 「まぁ……そう熱くなるなよな……足元、見てみろよ」


 「何……ッ!?」


 ルークの、いや、オレ達の足元は凍り付いていた。そして周りを見渡したルークの表情が、空中に霧散するオレの氷を見てしまったルークの表情が明らかに曇る。さっきの霧氷迅雷(ライトニング・ダスト)を見て、オレの雷の威力を知ってしまっているからだ。


 「どうした……? 青ざめてるぜ?」


 「正気か!? ここで撃ったら、お前も巻き込まれるぞ!!」


 オレはフッとクールに、不適に笑ってみせる。やっと、やっとこいつに一撃加えられるんだ。この一撃で、どんなにボロボロになったとしてもお前をぶっ倒してやる。


 霧散していた氷が、吹雪のように荒れ狂う。そこら中からバチバチと火花が散り、これから繰り出される一撃の威力を用意に想像させる。もうビビらせるのは十分だ。決着、付けようじゃないか。


 「電光雪花(ブリッツ・ブリザード)


 その時、街中に雷鳴が響き渡った。




 あの一撃で、オレの意識が飛ばなかったのは不幸でしかないだろう。なぜならオレの目には、立てないながらも膝を突いて上体を起こせるだけの余力を残したルークが映っているんだから。


 なんであの一撃で倒れないんだ。強い魔力を持つものは、ある程度魔法の攻撃に耐性があるとアカデミーで習ったことはある。しかしあれだけの一撃を耐えられるなんてありえない。オレの電光雪花(ブリッツ・ブリザード)は低級なら最強種族のドラゴンですら一発で戦闘不能になるレベルなんだ。それを受けて意識を保ってられるなんて正気の沙汰じゃない。


 「ぐっ……! 冗談じゃないぞ……!」


 オレのセリフだ。何でオレですら耐えられない必殺の魔法を耐えてるんだよ。何で平然と喋ってるんだよ。何で、勝てねぇんだよ。


 「……お前はいいよな……! こんなに頑張って手に入れた力なんだ。自信にできて当然だ……! だがな、俺は違う! 突然、突然罪を犯したとか言われて、実は才能を持ってたなんて言われて、挙句に突然持ってもなかった才能を持たされて……! お前に分かるか? 自分の力に、自信なんて持てない俺の気持ちが……!」


 何を言ってるんだ。オレが持ちてぇよそんな才能。自分の力に自信が持てない? 強さに溺れてるだけじゃねぇか。何もしなくても最強だからっていい気になりやがって。


 ……だが実際オレじゃこいつには届かない。どんなに頑張ったって、オレみたいな凡人じゃこいつみたいな天才には勝てない。何を言ったって、オレのほうが弱いんだ。


 急に全身を毒が這っていったかのように痛みが迸る。負けを悟ったことで、きっとオレの中の痛みを抑えるところが役目を終えちまったんだろう。眠気も出てきた。おまけに寒い。ルークの後ろにいるガーゴイル達が助けてくれるんだろうが、死ぬってきっとこんな感じなんだろうな。


 …………ごめんな、レイラ。オレじゃ勝てなかった。もう体が言うことを聞かねぇんだ。心も折れた。


 徐々に意識が遠のいていく。目が覚めたら、目の前には誰がいるんだろう。ルークじゃなければいいんだがな。勝てないといっても、いけ好かない奴には違いない。


 苦すぎる敗北の味をかみ締めながら、オレは意識を……


 「レオ!! 立って! レオぉぉぉぉぉっ!!」


 手放せなかった。


 どこからかレイラの声がする。声のする方向へ重い目を無理やり動かすと、そこに確かにレイラがいた。


 息が切れている。走って来てくれたのか。そもそも、どうして来れたんだ。ここで戦うことは誰にも言わなかったはずだ。電光雪花(ブリッツ・ブリザード)の音で分かったんだろうか。


 ……どうでもいい。


 オレって奴は、本当に単純な男だ。


 気づいたら体が勝手に立ち上がっていた。心が熱く燃え上がっていた。


 「見てろレイラァ!!! オレは勝つぞォォォォォ!!!」


 視線をルークに向ける。拳を、正真正銘最後の一撃のための拳を握る。


 「な、何でだ……!? どうして立ち上がれる……!!?」


 立とうとするも動けないルークの元に、一歩一歩近づいていく。もう痛みは感じない。意識もはっきりとしている。ギリギリと強く握ったこぶしから血が滲んでいる。オレは、こいつに勝てる。


 「何故なんだ……!? 魔法でも剣でも、俺に勝てないことは分かっただろう!? なのに何故だ!? 何故立ち上がるんだ!!?」


 ルークが右手を突き出し、闇穿つ光の魔弾(フォトン・ブリッツ)をオレに放つ。オレはそれを右に倒れこむようにして回避し、再び立ち上がる。そして、今度こそルークに勝つために歩き出した。


 「確かにオレはお前には負けてるよ……何やっても多分オレじゃお前には勝てねぇ。だけどな!」


 公爵がカッと目を見開き、口をぽっかりと開けている。ガーゴイルが表情一つ変えずに、柵から身を乗り出している。レイラが、泣きそうになりながらもオレを真っ直ぐ見ててくれている。オレは決着をつけるため、ルークの胸倉を掴んで立たせる。


 オレは負けない。こんな奴に負けるわけがない。ただ才能に溺れるだけのこいつに、レイラを泣かせたこいつに負けたくない。


 いや、違う。もっと単純なことだ。勝てる勝てない、勝ちたい勝ちたくないの話じゃない。


 「それでも! オレは! てめぇに!!」


 拳を引く。決着のために。さぁ覚悟しやがれ。


 「勝つんだァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!」


 限界まで引き絞った右の拳はルークの鼻づらにクリーンヒットし、そのままルークは気を失ったのか倒れて何も言わなくなった。


 オレは、ルークに勝った。だがまだ終わらない。ルークに勝ちたかったのは、どうしても言いたいことがあったからだ。どうしてもレイラに伝えたいことがあったからだ。


 「レイラァッ!!」


 血を吐くように叫ぶ。どんどん意識が遠のいていく、もうそろそろ限界のようだった。


 「お前はすげぇよ! オレが言うんだ!! こいつに勝った! こいつより強いオレがッ!! だから自信持て! お前の今までは…………無駄なんかじゃないッ!!」


 目がかすんで何も見えない。レイラが駆け寄ってきてくれているのは何となくだがわかる。どんどん視界の中のレイラが大きくなっていくからだ。そして次の瞬間、レイラが視界から消えた代わりに体を小さい衝撃が走る。同時に、暖かい感触も。


 「うん……! ありがとう……レオ……!!」


 その言葉だけで十分だ。オレは、意識を手放した。




 「構えて! ワイバーンが来るわ!!」


 木に背中を置いて座らされていた(ルーク)がレオの拳の次に見たものは、俺達を守るように背中を向けるガーゴイルとレイラ。そして、物凄い速度で飛んで迫り来る一体のワイバーンだった。

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