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異世界の好敵手≪ライバル≫へ  作者: 稲荷大明神
序章
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第三話「決着、そして更なる戦いへ(前編)」

 「なんで手を離したんだ? ガーゴイル」


 この世界の準備運動なんだろうか。上体を捻りながらアキレス腱を伸ばすような運動を始めたレオを名乗る男をよそに、(ルーク)はガーゴイルにそう質問した。


 ドルフレッド様が俺とレオの決闘を認めてくださるか考えている間にガーゴイルはレオを拘束していた手を離し、親指を立てて激励までしていた。決闘になることそのものに不満はない。アカデミーでの周りのリアクションを考えるに、十中八九俺が勝つのは明らかだ。だが、なぜガーゴイルがレオの手を離したのか。それだけは理解できなかった。


 ガーゴイルは俺の声を黙って聞き、そしてやはり一言も発さずに屋敷の中へ入っていった。


 「……何故なのだろうな。昨日からガーゴイルが意思を持ったかのように……」


 不思議そうにドルフレッド様が呟く。どうやら昨日までは、あのガーゴイルに意思はなかったようだ。俺が転生してきたことと何か関係があるのか……?


 「なぁ、どこで戦うんだ? オレもちょっとばかり忙しくてな」


 その場で軽く跳びながらレオが口を開く。どうやら準備運動もあらかた終わったようだ。瞳の中に、先ほどまでとは比べ物にならないほど闘志が満ちているのがわかる。


 「あぁ、付いて来るがいい」


 ドルフレッド様が先導し、山のほうへと向かっていく。ふと振り返ると、屋敷からガーゴイルが木剣やら木槍やらを持って走ってきていた。腰に下げたパンパンに膨らんでいる鞄の中には薬草でも入っているのだろうか。どうしてあんなにやる気があるのかは分からないが、その半分くらいの量で十分足りるはずだろう。


 「まぁ、何にせよ初めての戦いだ。何か掴めるかもしれないチャンスだと思おう」


 太陽が西に傾き始める。今日もドルフレッド様の屋敷に泊まるのは申し訳ないなと思いつつ、俺は戦いの場所へと歩いて行った。




 「ここだ」


 ドルフレッド様に連れられたどり着いた場所は、緑豊かな草が生え、木の柵で囲まれた牧場のようなところだった。かなり広く、なるほどここなら心置きなく戦えそうだ。


 「ここは先日まで家畜を飼っていた場所だったのだがな。運悪く野生のワイバーンに食い尽くされてしまったのだ。ここなら存分に戦えるであろうよ」


 「そんな危険な奴がいるなら、俺達が戦うより先にそいつを倒したほうがいいのでは?」


 ドルフレッド様の説明に疑問を投げかける。俺の曖昧な記憶が正しければワイバーンは竜だ。もしも俺達が戦いで疲弊しきったところにそんなのが現れたとしたら、最悪全滅してしまう。


 「それは問題ない。ゼルバートが既に討伐している」


 そういえばここに落ちてきた時も聞いた名前だ。竜を倒せるなんて、そのゼルバートという騎士は本当に強いんだろう。いつか俺も会ったときに、何か教えてもらいたい。


 「流石は海皇ゼルバートだな、ワイバーンくらいわけもねぇってことか」


 「うむ、余の誇る最強の騎士だからな。ワイバーン程度、まさに一撃のもと斬り伏せておったわ」


 レオもゼルバートの名前に反応している。どうやら本当に有名な騎士らしい。俺がもといた世界でいうところのアーサー王伝説の騎士みたいなものなんだろうか。


 「……さて、やろうぜルーク。さっきも言ったが、オレはお前が気に入らない。大事な友達が泣かされてるんだ。ちょっとばかり痛い目見てもらうぜ」


 レオは十歩分ほど間合いを離し、虚空を掴むように手を伸ばす。すると、そこにガーゴイルの用意した木剣が投げ込まれ、レオはそれを見事にキャッチしてみせた。何故こんなに息が合ってるんだ。ドルフレッド様もやれやれと言いながらも椅子まで使用人に用意させ、この決闘を楽しみにしている様子だ。


 ここまで来てしまったらもうやるしかない。俺の全力を試すいい機会だ。そう思うことにして、俺は構えをとった。


 「仕方ないか……来い、レオ」


 「行くぞルーク! 氷柱連撃(セリオン・バースト)!!」


 レオの背後からおびただしい数の氷塊が現れ、俺をめがけて飛んで来る。全てを避けるのは難しそうだ。


 「光芒の(フォトン)……爆槍(スティンガー)!!」


 なら、避けなければいい。俺の放った一条の巨大な光は、レオの氷塊をことごとく蒸発させそのまま進行方向の山の形を変え、虚空へ消えていく。レオはすんでのところでそれを回避したようだが俺の魔法に驚いているのか、目を見開いて冷や汗を流している。


 「おいおい……テストの時は本気じゃなかったな? 信じられねぇ……」


 「……もう降参しろ。お前じゃ俺には勝てないぞ」


 「くっ……!」


 レオは悔しそうに歯を食いしばり俺を睨みつける。正直、俺の胸は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 こいつらと違って、俺は何一つ努力していない。魔法の才能に至っては俺の力ですらない。確実に冥皇を倒して罪を償うためにこの才能を貰ったが、いざ手にしたこの才能は、想像以上に辛いものだった。


 自分の実力を否定するわけじゃない。多分だが、俺はあのアカデミーの誰よりも、少なくとも魔法においては強いはずだ。でもそれは何の努力もせずに手に入れた借り物の力だ。何一つ意味がない。そればかりか、こいつらの努力まで否定してしまうようだ。


 「……本当に悪いと思ってるんだ。俺の持つ意味のない力が、お前達の努力まで否定してしまって」


 「力じゃねぇ! その嫌味ったらしい謙遜があいつを傷つけたって分からねぇのか!!」


 レオの瞳に、再び闘志の炎が燃え上がる。今度は剣を構えて俺に突っ込んできた。今魔法で迎撃すれば簡単に決着を付けられるだろう。しかし、もうこの魔法をこいつらに撃ちたくない。俺は剣を構えた。


 「舐めんな撃ってきやがれ! てめぇのチンケな光でオレを撃ち抜けると思ってんなら、やってみろよ!!」


 「……! 乱撃の魔光弾(フォトン・バルカン)!」

 

 そうだ、手を抜くべきじゃない。ならせめて、この一撃で決めてしまおう。


 そう思って放った俺の光は、しかしレオを撃ち抜くことはなかった。


 「爆滑走(スリップ・ブースト)!!」


 突然レオの足元から俺の足元までが凍りつき、レオはそこにスライディングし俺の懐まで、文字通り滑り込んでくる。全く予想のできなかった動きに、俺にほんの少し隙ができる。レオはその隙を見逃さず、そのまま剣を振り上げ斬りかかって来た。


 しかし、俺はその剣を半身でかわし、隙だらけの脇腹に木剣を差し込むようにして突く。


 「グフゥ……ッ!!」


 レオは蹲るようにして一瞬倒れるが、すぐに脚払いをかけてくる。それを俺はジャンプで回避し、そのままレオの脳天をめがけ木剣を振り下ろす。レオは首をかしげることで頭への打撃は回避したが、俺の剣は左の鎖骨に直撃する。骨を折ったらしく、レオは顔を苦渋の色に染めた。


 しかし、この程度ではレオは諦めないだろう。俺は決着をつけるべく、立ち上がろうとするレオの胸元に思い切り剣をなぎ払った。ウッとうめき声を上げ、数メートル吹き飛ばされるレオ。流石にもう立ち上がれないだろう。


 「……さぁガーゴイル。薬草か何か持ってきてるんだろう? 彼を治療してやってくれないか?」


 俺はガーゴイルのいるところに振り返り、レオの治療を頼む。しかしガーゴイルは眉一つ動かさずに首を横に振り、それを拒否する。そして、倒れているであろうレオのいるところを指差した。


 「なぁオイ……! 勝った気になんなよな……?」


 声のするところに振り返る。そこには、ふらふらになりながらも立ち上がるレオの姿があった。


 「この程度大したことはねぇんだよ……!」


 レオはなおも剣を振り下ろし俺に斬りかかる。俺はそれを剣で受け止め、鍔迫り合いの形になった。しかし、しばらく俺達が押し合っていると突然、鍔迫り合う二つの剣が凍りついていった。


 「氷結粉砕(フリーズ・ブレイク)……!!」


 このままでは剣を握る俺の手までも凍り付いてしまう。俺は咄嗟に剣を離し、一歩間合いを離した。


 するとその直後、凍りついた二つの剣が音を立てて粉々に砕け、空中に霧散する。そして更に次の瞬間、砕けた氷の破片からバチバチと音を立て始めた。すぐに何か、攻撃が来る。


 「闇穿つ光の魔弾(フォトン・ブレッド)!!」


 「霧氷迅雷(ライトニング・ダスト)!!」


 俺がとっさに放った光は、霧散した氷から突然発生した雷を打ち消し、空の彼方へ消えていった。


 あと一瞬反応が遅ければ、俺は雷に貫かれていただろう。俺の魔法が一瞬勢いを弱めるほどの力だ。当たっていれば負けていたかもしれない。


 今の雷は、恐らく粉々になった氷同士がぶつかりあって溜めた静電気を集めてぶつけたのだろう。これだけ魔法の工夫をしているレオは大した奴だ。こういう奴にこそ、才能はあって然るべきなのに。


 「まだまだ行くぞ! 薄氷の剣(ソリッド・サーブル)!!」


 レオは氷で剣を作り、俺に突っ込んでくる。さっきからこれだけの種類の魔法を使ってくるのだ。やはり相当勉強を積んでいたのだろう。


 俺はまだ剣を生成する魔法を持ち合わせていない。このまま戦い続ければ、レオにもっと酷い怪我をさせてしまうかもしれなかった。


 「なぁレオ、もうこの辺りでやめにしよう。このまま戦えば、お前はボロボロになるぞ!」


 「構うか! オレはお前が許せねぇんだ!!」


 レオは俺に斬りかかってくるが、正直ガーゴイルよりも少し速いくらいの攻撃だ。俺はそれを紙一重でかわし続ける。しかし、流石にいつまでも避け続けるのは無理だ。もう、この辺りで決着をつけるしかない。


 「……レオ、最後の警告だ。もうやめてくれ」


 「やめさせてみろ! オレは絶対に降参なんかしねぇぞ!!」


 レオの斬撃が徐々に速くなっていく。このままでは俺が負けてしまうだろう。しかし、きっとそれでは誰も納得しない。俺が本気じゃないのは明らかだからだ。


 もう、こうなったらやるしかない。俺の本気で、こいつに勝つしか決着の仕方はない。剣はもう俺の手にない。正直気が乗らないが、ここは魔法で決着をつけよう。俺はレオのみぞおちに手のひらを当て、呟くように唱えた。


 「光芒の爆槍(フォトンスティンガー)……」


 直後、レオの全身を山を消滅させる光が飲み込んだ。


 光が過ぎ去った後には、見る影もなく削られていった地面と、そしてそこにボロ雑巾のように転がるレオの姿があった。全身が焦げるようなダメージを負っており、間違いなく立つことはできないだろう。


 「……ガーゴイル。今度こそ治療してもらうぞ、放置していたら最悪死ぬぞ」


 やりすぎたか。そう思いながらも俺はガーゴイルに向き直り今度こそ、レオの治療を頼む。しかしガーゴイルは文字通り石のように固まっていて、動く気配はなかった。


 「おいガーゴイル。治療しないならせめて薬草をくれ、俺がやるから」


 しかしそれでもガーゴイルは動かない。レオのいる方を食い入るように見つめている。何があるんだ。ガーゴイルの視線を追う。


 直後、俺もガーゴイルのように思わず固まった。


 レオが、腕を立てて立ち上がろうとしているのだ。

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