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異世界の好敵手≪ライバル≫へ  作者: 稲荷大明神
第一章 トレイトン編
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第十九話「弱虫から強き者へ」

 一瞬にして飛んで来るカロンの横に振り払うような斬撃を、俺はバク転で回避する。しかしバク転の最中、ちょうど俺が逆立ちをしているような体勢のときに、今度は縦の斬撃が俺を襲って来た。腕の力で横に跳んでそれをかわす俺だったが、カロンの攻撃はまだ終わっていない。


 「雷撃砲(サンダー・キャノン)


 「闇穿つ光の魔弾(フォトン・ブレッド)!」


 音の速さを遥かに超えて飛来するその雷の弾丸を、光の弾丸をもって押し切る。しかしかなりの威力だったようで、俺の闇穿つ光の魔弾(フォトン・ブレッド)と数秒もの間完全に拮抗していた。どうやら奴の放つ雷はレオのそれよりも強力なものらしい。


 「迅雷の如し(ボルト・アクセル)


 「閃光の疾駆(フラッシュ・ドライブ)!」


 以前は完全に動きが見えなかったカロンの神速剣だが、新たに手に入れたこの魔法ならば見切ることも可能なようだ。数百もの斬撃が、たった一筋の剣筋に見えているのだ。


 しかし、流石はテオノルト様の秘密兵器だ。カロンの攻撃をかわすことはできるが、反撃の隙が一切ない。俺に剣がないというのもあるだろうが、間違いなくこの男は最初に戦ったときよりも強い。あの時ですら本気ではなかったのか。


 だが、このまま防戦一方ではまずい。リリーやルベルと違って俺は才能を与えられたとはいえ人間だ。当然魔力の量には限界があるだろう、そして魔力すら失えば、剣も魔法もない俺に勝ち目は全くなくなる。その前に、何としても決着をつけなければ。


 「光芒の爆槍(フォトンスティンガー)!!」


 世界が元の速度を取り戻す。どうやら閃光の疾駆(フラッシュ・ドライブ)は他の魔法と同時に使えないらしい。だがカロンは俺がその光を放つことを読んでいたかのように、全く見えない速度で俺の後ろに回りこむ。次の瞬間、がら空きになった俺の背中に剣を突き刺すように攻撃してきた。


 俺はそれを無意識のうちに空中に跳んで回避する。またこれだ、初めてこの男と戦ったときと同じ感覚。俺自身の目が、まだ俺の動きについてこれないこの感覚。これなら、もしかすると勝てるかもしれない。


 しかしそう思った矢先、俺の左腕に傷がついた。斬撃の傷だ。間違いない、カロンはあの時よりも速く、そして強い。このままでは、やられてしまう。


 「乱撃の魔光弾(フォトン・バルカン)!」


 俺は空中から、カロンをめがけ上から光の雨を降らせる。しかしカロンは超高速でその範囲から走って脱出すると、どこからか取り出した無数の短剣を俺が着地するだろう場所に投げつけてくる。


 「くっ……! 閃光の疾駆(フラッシュ・ドライブ)!!」


 着地と同時に世界の動きを遅くし、俺は横に跳んでナイフをかわす。しかしそれを狙っていたかのようにカロンが急接近し、剣を切り上げる。半身でかわそうとするが間に合わず、剣が腹を掠めた。あと少し避けるのが遅ければ、間違いなく殺されていただろう。


 「…………ッ!!!」


 俺はカロンに蹴りをいれ、その距離を離す。しかしこのままではまずい。魔力が尽きれば殺されるどころか、それまで俺が生きているかどうかすらも怪しいほど、この男は強かった。


 「どうです? もう私に勝てぬことはご理解いただけたはずかと」


 抵抗をやめるのであれば命までは取りませぬが。ゆっくりと俺に向かって歩きながらそう言葉を続けたカロンの目は、自身の勝利を確信していた。




 「原初の癒光(アルターヒール)


 ゼルバート様の元へたどり着いた(リリー)は、一旦ルベルを降ろして回復魔法を使う。すぐに傷が癒え、ゼルバート様が立ち上がる。そしてすぐにしゃがみ込み、一緒に倒れていた茶髪の女の人を抱え上げた。


 「た、頼むリリー! ロレッタを治してやってくれ!!」


 「は、はいっ!」


 すぐにロレッタさんという女性にも回復魔法をかける。ロレッタさんは完全に意識を失っているのか、回復しても目を覚まさなかった。


 「……助かったぞリリー。君が来てくれなかったら、我々は死んでいた」


 ゼルバート様はそう言うと悔しそうにロレッタさんの方を見やり、そして聖剣の刃を握ってその柄を、隣で座り込んでいるルベルに突きつけた。


 「無理に魔力を消耗させられているな。この剣を握るといい。エンシェントエルフからすれば微々たるものだが、少しは魔力を回復させられるだろう」


 柄を握ったルベルの顔色がどんどんよくなっていく。本当に魔力が回復しているみたいで、ルベルは自分でふらつきながらも立ち上がった。ゼルバート様はそれを見て満足げに笑うと、目をつり上げこう言った。


 「私はこれから、城の外でゴーレムと戦ってくる。君達はロレッタを頼んだ」


 ゼルバート様はそう言うと、光に包まれる。レオの魔法を防いだ時と同じ光、きっとあれが聖剣の加護なんだろう。そして、一瞬のうちに駆けて行き、城の外へと跳躍した。


 「……お姉ちゃん」


 ルベルが、私に話しかけてくる。人さらいが迫ってきた、あの時と同じ覚悟を秘めた言葉だった。


 「だめ」


 だから、先にそれをやめさせる。ルベルが今戦えば、きっと死んでしまうだろうから。


 「でも、あの人が……お姉ちゃんの友達なんでしょ? 僕があの人を助けてみせるから」


 私達の視線の先では、ルークが今も戦っている。見たところ、剣がないからルークは苦戦しているみたいだった。でも、ルベルを行かせるわけにはいかない。


 「うん。だから、お姉ちゃんが助けてみせる。ルベルも、みんなも」


 今まではずっと、誰かが私を助けてくれた。ルベルが私を守ってくれた。レイラとガーゴイルが、そしてレオが、私をルベルの元まで連れて来てくれた。今はルークが、私達を守るために戦ってくれている。


 だから、今度は私が。ルークを助けてみせる。ルベルを、守ってみせる。


 その時私の体から、信じられないくらい大きな魔力が噴き出てきた。今までずっと、魔法を戦いに使ってきたことはなかったけど、これなら、できるかもしれない。私は、ずっと昔にルベルと一緒に覚えた唯一の攻撃魔法を唱えた。


 「不滅の夜明け(ライジング・ブレイズ)!」


 


 突然、本当に突然のことだった。


 「こ、これは……ッ!!? この迸る莫大な魔力は……!!」


 (ルーク)ににじり寄ってきていたカロンが、突然うつむいて焦り始めたのだ。その直後、俺はその理由を知る。


 地面が、地面が赤熱し始めている。まだ燃え上がるまでには至っていなかったが、炎のような赤い色が、地面を覆っているのだ。ついに城が燃え始め、草木を伝ってここまで燃え広がってしまったのだろうか。


 いや、違う。周りを見渡すが、どこも燃えていないし、実際にここが燃えているわけでもない。ただ、地面を迸る赤い線が、何かを刻むように地面を熱く、ただ熱くしていた。


 「ルークさぁぁぁぁんっ!!」


 信じられないほどの大声で、リリーが俺の名前を呼ぶ。砲撃にも、叫びにも、何にも掻き消されることなく、少し遠くに居るリリーの叫びは俺に届いた。


 「私がその人を何とかします! だからもう少しだけ、頑張ってください!!」


 俺でも分かった、リリーからは莫大な魔力が放出されている。そしてそれを見た俺は気づく。地面を覆いつくす赤いものの正体を。


 それは、地面全体を覆いつくす巨大な魔方陣だった。リリーが俺を助けるために使った魔法が、今まさに発動しようとしているのだ。


 「発動させるわけにはいきませぬなッ!! 迅雷の如し(ボルト・アクセル)!!」


 瞬間、カロンの姿が消える。リリーを殺し、魔法の発動を阻止するつもりだろう。


 「閃光の疾駆(フラッシュ・ドライブ)!!!」


 すぐに俺も魔法を発動し、カロンを追う。しかし、追いつけない。このままでは確実にリリーの元へカロンが先についてしまう。一か八か、カロンを撃つしかない。


 「闇穿つ光の魔弾(フォトン・ブレッド)ォォォォォオオ!!!」


 スローモーションの世界が終わり、俺の光が真っ直ぐにカロンをめがけ光の速さで進んでいく。頼む、当たってくれ。


 「雷撃砲(サンダー・キャノン)!!」


 カロンが振り向きざまに放った雷が俺の光をせきとめ、その隙にカロンは真っ直ぐにリリーの元へ走っていってしまった。カロンの魔法も解けているが、それでも奴の速度は超人的だ。とても、今からでは追いつけない。リリーが殺される。


 「リリー!! 逃げろ!!!」


 しかし俺がそう叫んだ瞬間、無情にもカロンがリリーの目の前に現れ、剣を振り下ろしてしまう。ダメだ、殺される!! 俺が思わず目を瞑った、その時だった。


 「剣の練成(アルケミー・ブレイド)!!」


 金属がぶつかり合う高い音が響いた。恐る恐る目を開けると、カロンの斬撃をルベルが止めていたのだ。


 「る、ルベル……!」


 「まったく、しょうがないお姉ちゃんなんだから」


 ルベルはリリーに振り返りそう言うと、カロンに向き直り蹴りを入れる。カロンはそれを、高速で後ろに跳んで回避した。そしてその時、地面を迸っていた赤い光が急激にその強さを増大させる。


 「ありがとうルベル、後はお姉ちゃんに任せて!」


 「させるか! 迅雷の(ボルト)……」


 「闇穿つ光の魔弾(フォトン・ブレッド)!!」


 魔法で加速しようとしたカロンに、光の弾丸を放つ。カロンはそれを仰け反って回避したが、その瞬間、勝負は決した。


 突然俺達のいる地面から、巨大な炎の塊が現れたのだ。全てを飲み込む炎は、しかし俺達を焼くことは決してなく、カロンだけを飲み込み空に昇っていく。まるでそれは、夜を照らし朝を導く太陽のようだった。


 「こっ……これはッ……!!? グァァァァアアアアアアアアッッ!!!!」


 そして、リリーの打ち上げた太陽は空で爆裂する。そして、全身から煙を上げながらボロボロになったカロンが落ちてきた。もう動く気配はない。


 俺達は、いや、リリーは勝ったのだ。




 「薄氷の剣(ソリッド・サーブル)!!」


 「飛竜の爪(ドラゴニック・クロー)!!」


 外で巨大な爆音が響いた頃、オレ(レオ)の刃はテオノルトの左の手刀に折られ、更に右手に構えるテオノルトの槍を腹に受け吹き飛ばされた。纏っていた氷の鎧が砕かれ、地面に倒れ伏す。もう魔力はほとんど残っていない。全力で魔法を撃てるのはあと二回が限度だろう。体も、防いでいるとはいえ七星皇の攻撃を受け続けているんだ。そろそろ限界のようだった。


 「クソッ……! テオノルト!!」


 「纏わないのか? 氷の鎧を」


 オレは凍て付く鎧(グラキエス・アーマー)を使わず立ち上がる。オレに打てる手は、あと一つだ。


 テオノルトに喰らわせる。全力の電光雪花(ブリッツ・ブリザード)を。

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