お前は俺らを怒らせたの回ー前編ー
その人物は夜の職員室にて、とある数学教師のパソコンにUSBを差していた。
パスワードは把握してある。素早くキーを打ち込み、中のデータを確認する。
『ファイル114・数学中間テスト……514Kbyte』
その口元は不気味な笑みを浮かべていた。
オエーー!!!! ___
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/ ト、/。⌒ヽ。
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それは突然の事だった。
源「九頭先生の調査をしてほしいのよ」
埃っぽい空き部屋に置かれる、ピカピカに磨かれた茶器。赤いカーペット。なぜか優雅に広げられるティータイムの最中、肘を着いてのゲンドウポーズを取りながら切り出す源先生。
3人「what's??」
源先生「九頭先生よぉ」
ゲンドウポーズから、クワッと開かれる目。効果音に「プッツーン」とかついてそう。あと、スタンドとか出そう。
源先生「男子バスケ部の監督があの先生になってから、部の生徒達の成績上がるわ気品あってメチャモテだわイケメンやらで私、ハァハァよ!!私、あの人みたいに学校から信頼されたいわ! あなた達、調べてきなさい!!」
3人「えーーーー……」
それはまさかの顧問による、唐突な依頼だった。
依頼内容
臨時教師(英語担当)にてバスケ部の監督代理をしている九頭月の素行調査だった。
九頭先生は一言でいうなら爽やかなイケメン。若いがゆえに生徒とのコミュニケーションも取りやすく、特に女子からの支持率が高い。
運動も出来て、しかも他の先生方に対して控えめな姿勢を崩さない。
故に、教師生徒両方からの信頼を勝ち取ってると言えよう。
要は。教師生徒両方からの人気の無い(ついでにイケメン大好き)源先生は
九頭先生の人気っぷりが欲しい!!
そんな理由で、お抱えの部員3人に、九頭先生の人気の術を探るべく、調査依頼をしたのだった。
(V)(´(゜)∀(。)`)(V)
とはいえーー
空「真っ向から聞いてもゲンヤンの名前聞いたとたん、断られそうだし」
南「普段の源先生の信頼っぷりが見えますね(皮肉)」
真「まぁしゃーねーよ。こうしてバスケ部を覗いて、兄貴未満なイケメンの人気の秘訣を探ればいいんだろ? 簡単じゃねえか」
南「兄の評価に揺るぎ無いのは流石ですね…ところで何で私達は跳び箱の中に?」
3つ並ぶ跳び箱。1人につき1つ。
開きっぱなしの体育倉庫にて跳び箱に隠れてバスケ部の練習を覗き見。
空「まーまー!! 細かい事は気にするな!」
真「それにしても……」
バスケ部のトレーニングは見るからにハードだった。
走り込みが終わったかと思えば、次は筋トレ。それが終わったらまた走り込み……
ボールを持っての練習が許されているのは、レギュラーとして活躍している数名だけだった。
そうでない部員達は延々と筋トレ・走り込みを繰り返している。
南「ベンチ陣の扱い、少し気になりません?」
空「とは言ってもなぁ……九頭ちゃんになってからウチのバスケ部は一気に基礎体力がついて、地区大会でもベスト3当たり前になったらしいし」
南「しかし、彼らは見るからに疲労困憊でしょう」
走り込みを続ける部員を顎で指しながら南は言い放つ。
南「脱水症状を起こしそうな部員も見えますね。今すぐ止めるべきじゃ……」
??「誰がチンチラ走れって言ったぁ!!」
突如、ドスの効いた声が辺りを震わせた。部活動中のバスケ部員全員、直立不動の姿勢を取る。その硬い表情は何かに怯えてるように見えたのは、南達の気のせいか。
南「……?」
??「またお前か……一軍になれない上に、この間のテストも平均程度しか取れなかったクズがッッ!!」
3人は顔を見合わせた。この声。確か──
真「(え、九頭なん?)」
空「(あの爽やか王子の?)」
南「(意外とスパルタなんですかね……)」
九頭「沖野ぉ!」
ランニングしていた、貧弱で意思の弱そうな部員が体を震わせた。
九頭「お前は別トレーニングだ! ちょっと来い!!」
沖野「……はい……」
九頭「いいか! 俺が監督の間は! 勉強も大会も上位当たり前! そうでない奴は部にいらん!! わかったな!!」
バスケ部員達「は、はいっ!」
どこか怯えたような声色。真が「うへっ」と息を漏らす。
真「イケメンの素顔は鬼軍曹!……源先生に良いお土産が出来たねぇ」
南「……ですがこんな過酷なトレーニングでは体力が……勉強なんて、難しいでしょうに……」
空「監督がティーチャーだからねぇ。案外、塾みたいの開いてバックアップしてるかもよ?」
空と真は九頭の意外な一面に意識が向いている。
しかし南にはどうしてもわからない。
確かに、九頭のギャップには驚いた。
だがあれだけの豹変、直ぐに噂になるはず。
なのに誰も、彼の甘いマスクしか知らないなんて……
南「…………」
怯えた様子のバスケ部員達。
南にはどうしても、彼らの態度に何かが隠れているように思えてならなかった。