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序章編ーソリッドの回ー

  壮麗な鉄柵に囲われた壮大な敷地内に佇む豪華絢爛な名門校、ここは私立音藍(いんあい)高等高校ーー


  世の人々からは略して「ラン高」と呼ばれ親しまれつつ憧れの高校として名高いこの学校にて、日々学業に勤しみ友人達と戯れ合う幼馴染の3人の男子生徒がいた。


  これは、彼らが紡いでいくかけがえのない大切な物語である。


 ☆


  そんな学校内で、ある1人の顧問が小さい問題を抱えていた。事の発端は教師による役員集会でのこと、みなもと先生について談義されていた。


教師「源先生、最近の授業態度や部活での主任活動、ポイント制度をお忘れですか?数字にすれば0に近い評価となっていますが。このままだと来年の春には別の高校への移動も、考えざる負えませんね」


  とある教師からキツイ言葉が飛び跳ねる。その言葉に他の教師も首を静かに頷いていた。


  この学園における教師にとって最も生命線となるのがーー学校への貢献などで貰えるポイントを稼げるシステム制度だった。


  私立というのもあり、ポイントが高いと教師内のカースト、待遇等に融通が利きやすくなる。逆に低いと、「学校への貢献意欲が無い」と見なされやすく、規定のポイントを下回るとクビ・異動の対象にされやすい。


  今議題に出された教師の源は、既に規定の数値を下回っている状態になっていた。


 源「私なりに頑張ってるつもりよ!それでポイントが不足だなんて……可笑しいじゃないの!?」


  源先生はダンディな見た目の男性だが、口調と素振りは女性のオカマである。しかし性格はとても優しく、一部の生徒からは慕われている。しかし、それに見合わない普段の行動や実績から、今回キツく談義されていたのだ。


ナナ「そ、そうです!源先生は生徒思いで優しくて、それから……とても努力家です!」


源「な、ナナせんせー……」


  フォローに入った白衣の男性、体育保健科担当の教師だった。見た目は女性のように可愛いが、実は性別は男である。みんなからは『ナナせんせー』と親しまれている。



教師「優しかろうと努力家だろうと数字で結果が見えているのですよ?源先生、このままだと転勤の話、上に通さずにはいられませんが……」


源「い、嫌よ!私、この学園(の生徒)が大好きだもの!クビだなんてゴメンだわ!」


教師「この状況でよくそんな大口が叩けるものだ。異端ですよ。この空気を見て気づきませんか?我々教師の誰一人とて、貴方に期待などしていないのですよ」


ナナ「そ、そんな言い方っ!」


源「ナナちゃん、いいの。大丈夫、私に任せて」


 ナナせんせーの激怒に手を伸ばす源先生。元々生徒をまとめることに不向きと自覚していたが、まだ時間はあった。ポイント制度の次の更新日までに実績を残すことが出来れば、規定の数値まで伸ばすことが出来たのなら、ラン高の教師として生き残ることが出来る。源は拳を大きく握り締めた。


源「ポイント制度の更新日はまだ20日間以上有余はあるわ!それまでにポイント貯めれば、今回の件、揉み消してくれないかしら!?」


  最後の悪あがきとも思えた発言だったが、その発言の後、教師は周りの教師と目だけを合わせては会話するように軽く頷くと、デスクにある書類をまとめ、小さく片付けを始めた。


教師「ならば、もし活動が目に余るくらい頑張ってくれるのならば、源先生を再評価し、この学校の顧問として存続を考えます。ただし、もし30日までにポイントが足りない場合は、慈悲なく転勤とさせて頂きます」


源「それで構わないわ。もしダメなら……諦めてこの学園を出るわ!」


ナナ「み、源先生……」


 啖呵を切る源の姿に、気を揉むような視線で見つめるナナせんせーの顔、それを見つめる源先生が☆を飛ばすように可愛くウィンクをした。集会は解散となり、皆が去って直ぐ、再び席に座るとため息が溢れてしまう。


源「困ったわぁ。特に作戦がある訳じゃないのよね……ポイントを稼げるいい方法でもないかしらねぇ」


 ☆


 その頃、保健室では……とある3人が反省文を書いていた。


 放課後、ここは保健室ーー純白のシーツ。埃ひとつない清楚な空間。そして、仄かに香る消毒液の匂い。


 ラン高の保険医・ナナ先生は保健室の仕切りの隙間に指を差し込み、わずかな隙間から、ベッドにてスヤスヤと眠る生徒達を見て聖母のような優しい微笑みをたたえていた。


 ここには具合を悪くした生徒達が休息を取るために来ている。


 そう。心身に安らぎを得るために。


 机に着いてコーヒーを淹れる。湯気が立ち上ぼり、ほろ苦い香りと共に保健室に漂う。


空「反省文12枚……それも1人12枚……」


 彼は名前は空。


 寝癖の残ったボサボサの黒髪に眼鏡と糸のような細目が、強いて上げられる特徴といういたってモブ顔の男だ。


真「忌々しい。嗚呼、忌々しい。忌々しい」


 そして彼は幼馴染である真広だ。


 目立つ赤い髪色にも負けないくらい顔は爽やかなイケメンタイプなのだが、その中身は完全なる超ド級の変態でいわゆる残念イケメンというやつだ。


 真広の兄も彼を超える程のイケメンぶりなのだが、残念ながら変態度合いも比例してつり上がっている。

つまりは、変態一家というところだ。


南「……やってしまったことは事実だし、真さんのは字余りです」


 彼の名前は南。


 彼もまた2人の幼馴染でもある。短髪を茶色く染めた髪型をしている上品な雰囲気の男子生徒、真面目な性格で風紀委員に所属、クラスのまとめ役でもあった。


 そんな3人の会話がベッドの一角から聞こえてくる。その言葉に、ナナ先生は微笑んだ。


南「 しかしホント、ここ最近は反省文ばかりですね……」

空「キサマは今までに書いた反省文の数を覚えているのか?」

南「だまらっしゃい」

真「俺は降りるぜ!サラバダー!」

南「ダメに決まってるでしょ。そもそもお前らが騒がなきゃこんなことに……何故私まで反省文を……」


 学校では日常茶飯事の3人の行動、問題ばかりを起こしては反省文を書く毎日だった。自由すぎる彼らの行動に生徒指導の教師たちに目をつけられてはいる。だが彼らに反省の色などない。あるのは、好奇心だけだった。



真「ところでどうだ? 腹、減ってないか?」

南「少し……」

空「じゃあこれなら食べれるぞ?ほら」

南「…………」



 保健室にて飲食は厳禁。いくら仲の良い保健教師のナナせんせーでも見過ごせない。

 コーヒーカップ片手にナナ先生は、声のする一角の仕切りを開いた。


 すると…………



南「いやいや!さすがにこれは駄目でしょう」

空「良いんだよ。腹減ってるんだし」

真「これなら食べやすいし」


  この学校の問題児3人。保健室にこもるチーズフォンデュを開始していた。



ナナ「ちょっ何してるの?!!」

空「ナナちゃん。やっほー」

ナナ「やっほ……じゃなくて!! チーズフォンデュ?!!」



 カセットコンロの火加減を見ながら問題児の1人、真広が淡々と説明する。



真「カロリーを手軽に摂取出来るチーズフォンデュを食べれば元気になると思いまして」

南「すみません、先生……止めようとはしたのですが」



 南が頭を下げる。



真「あと、ウインナーと絡めたら【自主規制】っぽくて……」

ナナ「卑猥!! いや、保健室は飲食が……他に寝てる子もいるのよ?!!」

空「まーまー!!」



 真が頬を紅潮させ、潤んだ瞳で見上げた。

 日頃から好感を抱いている大切な生徒に上目使いで見つめられたナナ先生は「うぐっ」と息を飲んでしまう。



 南「2人とも。先生が困ってるでしょう」

 空「へいへい。色目遣いはそこまでだ」

 真「空。少しチーズが硬いかも」



 小さくて安っぽい鍋(家庭調理室の物品)の中身を箸でかき回しながら、真が空を見る。



 空「あ、じゃあ入れちゃう? イれちゃう? 挿れちゃう?」



 ニヤリと笑いながら空が取り出したのは、白ワインのボトルだった。


 *注意* 彼らは未成年です



ナナ「……空くん? それ……」

空「ジュースです」

ナナ「いや、明らかに……」

空「チーズのフォンデュを更にフォンデュするジュースです!!」

ナナ「ワケわからないんだけど?!!」



 ナナが吠えるも虚しく、空は



空「震えるぞハート!! 燃え尽きるほどヒート!!刻むぞ、白ワインのビート!!」

ナナ「酒って認めたよねぇ?!!」



 白ワインの中身が鍋に一気に注がれる。

直後、熱を受けたワインは火の手を上げ、ボンッ! と保健室の天井を舐めるように弾けた。


空「あっ」

真「いっ」

南「うっ」


 熱と煙が火災報知器のセンサーに引っ掛かり……


3人「……えっ?」


ナナ「Oh,マイゴーーーーーーーーッッッドッッッ!!」



 警報器がブーーーと鳴り渡り、消火用のスプリンクラーが作動。水のシャワーが降り注ぐ中、ナナ先生の悲鳴がこだました。



ナナ「ゥゥリリリリリリリリリリリリィィイイイイッッッッ!!!!!」

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