姫様のために動き出すか
パタン。
ドアが閉まって、訪れる静寂。
「あーあー。尻尾ふっちゃって。あれでばれてないなんて思ってんのかねー?」
「思っておられるのでは?実際姫様は気づかれませんし。」
「…姫はどんな好意も気づかない。」
「そういや、ふたりともスルーされてたよね。マジうける。」
「「うるせぇ」」
俺はいい。今はワイフ一筋だ。というか、一筋にならざろうえない。お国柄、女性は口説くものとして育てられてきた。生まれたてから墓場まで。愛をささやかなくてどうする。姫様に対しては、かなり本気で口説いた。会うときはもちろん、会わなくても。もちろん流された。きれいにきれいに流された。しかし、年頃になり、政略も含めての結婚をし、さすがに会ったときだけ口説くようにした。あわよくばなんて思っていない。しかし、ワイフからすれば違ったらしい。いつの間にか姫様との関係性を調べあげ、姫様のもとに乗り込んだ。直接行く辺りが、ワイフの素晴らしいところだが。
ワイフいわく、「色々あったけど、姫様素敵ね」っていって、今や茶飲み友達だ。色々の辺りは、俺の精神上聞くのをやめた。うん、触らぬ神になんとやらだ。それから、姫様にも言われ、社交辞令と思われる程度で女性を口説いている。姫様に真剣に説得されるとは思わなかったー。
今やここにいるメンバーみんなにも知られてるが、夫婦で姫信者をしている。
しかし、やつは違う。今は婚約者もいるが、姫が一声かけたら、即解消だろう。騎士か!?って言いたくなるのは俺だけではないはず。
そして、一番厄介なのは、姫と一緒に出ていった男だ。あいつは、ガチだ。ふたりの出会いに居合わせたが、あり得ない連続だった俺たちはひとつの部屋に集められ、各々遊んでいた。俺はもちろん女性陣を口説き、やつは電車のおもちゃを勝手に分解していた。そしてあの男は、ひとりパソコンに向かっていた。あり得ない早さのタイピングは、ここに来る前に親父に気を付けろと言われていた相手だとすぐにわかった。確か、遊びでやったネットサーフィンで、某国の国家秘密サイトまでたどり着き、ニコちゃんマークを張りつけたらしい。騒ぎになり、すぐとらえられたが、あまりにも幼い少年に暴かれたとなって、揉み消されたとか。そんな男がなぜここにいるのかはしらない。ただ、姫様が部屋に入ってきて、盛大にこけたとき、一目散に駆けつけ、起こしたのはあの男だった。そして、男が初めて声を発したのもその時だ。
仲良くなってから、あの頃をからかったことがあるが、「お前でも助けたさ」何て言いやがる。絶対助けないな。踏みつけるどころか、なかった存在として扱われたはずだ。もしかしたら、気づきもしなかっただろう。
あの男にとって、「運命の出会い」だったのかもしれないが。
女性陣はどうかわからないが、ここにいるみんな姫に対して好意を寄せ、崇拝している。盲目とまでは言わないが、姫の義兄いわく、宗教に見える時があるとのことだ。否定はしないが。
「ねぇ、そろそろ本気で考えませんこと?」
「あー、抹消のことー?」
「…姫が怒る」
「それがね、大分気持ち離れてるみたいよ?」
「何でわかるのさー?今日だって俺らよりあのクソ優先しただろうが」
「ガトーショコラ出したときにおっしゃっていたことですわね?」
女性陣いわく、今までも「運命」報告の時に何かしら菓子を持ってきていたらしい。そして、そのあとに姫と会うとその菓子を分けていたと。ただ、今までは婚約者の話しか聞けなくて、その場では食べれず、そのときにいたメンバーと一緒に食べていたとのこと。それでも、はじめの方は口もつけれていなかったらしい。それが、今日は婚約者とあっている時に、目の前でガトーショコラを食べたらしい。
ここにいる奴らは、アレルギーのことを知っている。
だからこそ、ガトーショコラを美味しかったとすすめた、姫の変化に気づいたと言う。
どんな心境なのかは、本人にしかわからない。
でも、楽しいことを考えるのはいくつになっても楽しい。
個別で連絡とることを約束し、時間差で部屋を後にする。
ワイフに話をしなくてはならない。
「そろそろ動き出しますかー」
ワイフは喜ぶだろう。あ、婚約者仕留めると言って物色していたライフル買うのは、飽きられてくれればいいな。
ブックマーク有難う御座います。とても励みになっております。