たまねぎ大臣
「し、しまった!また1機撃墜されました!」
「大臣、ご命令を!」
事の発端は20XX年、人類は完全に死滅し、野菜国家となったこの時代に一つの幸運が舞い降りた。そう、かの有名な『お米国』が我々に毎年100万ベジを支給するという話である。我々は狂喜乱舞し、喜んで受け取る……はずであった。野菜国家は元々争いを好まないのだが、資金が絡んでくることにより、国内で戦争が始まり、社会格差も広がっていったのである。それにより野菜国家は3つの国に分断されてしまった。
「あの100万ベジは我々の物だ、誰にも譲らない」
と、唱えるのはジャガイモ国のジャガイモ大臣。彼らは手軽に炭水化物が摂れる事を主な強みとしてきたが、資金がかかってくることにより他国へのジャガイモ奴隷を制限。そして100万ベジを独占することを要求してきたのだ。
「100万ベジぐらい分ければ……ってあら、割り切れませんね!失礼」
そう言って失笑するのはブロッコリー国のブロッコリー大臣。豊富な栄養を手軽に摂れる事から様々な国から愛されてきたが、またしてもお米国の資金によって他国を煽り、増長する悪い国へと変貌を遂げた。
「では、貴方はどう思うのです?ニンジン大臣」
「いや……僕は……」
僕はニンジン国のニンジン大臣である。確かに栄養素は高く、万能食材ではあるが、人類消滅後の地球でもやはり人気が低いのがネックだ。なので今はやる気を取り戻すことができなくなっている、ただのヘタレ大臣だ。
「ニンジン大臣に聞くのはやめましょう?話が長くなるわ」
「やめなさい、ブロッコリー大臣。貴女だって、合併前の人気投票では最下位だったではないか。そう言って自分を棚に上げて煽るのは良くないぞ」
「五月蝿いわね!芋の癖にいい気にならないで頂戴!」
いつもこのような会議が中継されていると思うと何か国民に申し訳なく思う。大昔、『ニホン』という国でも会議が滞り、話が一向に進まなくなるといったことがあったらしいが――――。僕が考えを巡らしている所に警報ベルが鳴り始めた。
「し、しまった!巨大生物『キュウカンバ』の襲来だ!逃げろ!」
「えっ!?『キュウカンバ』ですって!?大変!早く国民の皆様は避難を!」
そう、この国には危険を脅かすキュウリ、通称『キュウカンバ』が現れるのである。何故キュウリなのかは置いといて、僕も急いで逃げようとするが、国民の安全の方が不安である。真っ先に僕は警告の放送を流す。
「皆様、避難を!避難をお願いします!」
逃げていくニンジン国の方々を横目に僕も逃げようとしたが、既にキュウカンバの魔の手が……と思えばキュウカンバの上に誰かが乗っている。そう、先程の会議に出席していた『ブロッコリー大臣』である。
「お前!何故キュウカンバに!?」
「貴方、知らなかったの?キュウカンバは魔導生物で、絶大なパワーの割に何でもかんでも信じ込んでしまう単細胞なのよ。まぁ、7~8割水分ならばそうなるわよね、キュウカンバ!やってしまいなさい!」
「キュウカンバ!」
僕が唖然としている間にキュウカンバは僕を殺そうと指を鳴らし始めている……待てよ、何でもかんでも信じてしまうなら。
「なぁ、キュウカンバ」
「キュウカンバ?」
やはり単純。キュウカンバは先程の殺気も忘れてこちらを眺めている。
「ちょっと!折角小生意気なニンジン大臣を殺せると思ってたのに早くやっちゃいなさいよ!」
「なぁ、キュウカンバ。悪ってなんだと思う」
「キュウ……カンバ?」
やはり純粋な僕の方に興味を持っている。僕は続けて彼を説得する。
「キュウカンバ、お前は今、誰とは言わないが悪い奴に操られている。どうせ僕を信じろと言っても信じないだろうから一つだけ君に有利な提案をさせてもらいたいけどいいか?」
「キュウカンバ」
何か罪悪感のある気もするが、正直こうでもしないとしょうがないだろう。説明を続ける。
「つまり、お前はお前が一番生き延びられる奴を信頼したいだろ?この世は力がある奴こそが正義。つまり、お前が盛大に暴れて一番最後に生き残った大臣に従えばお前の身も保証される。いい考えだろ?」
「ちょっと!何言ってんのよ!?そんな事したら全員共倒れじゃない!?」
「できるか?キュウカンバ」
「キュウカンバ!」
「よし、実行!」
僕の発言により、キュウカンバは暴走を始めた。ブロッコリー大臣は真っ先に死滅し、次々と人々が潰されていく。僕は正直プライドとかは無かったのでいっその事この怪物に世界を滅ぼしてもらおうと思った。運が良ければ生き延びてキュウカンバを支配する勢いで。そういう人生だったのだろう。
「しまった!今度は3機やられました!これ以上戦うのは絶望的です!」
「くッ……あくまでも我らは神風のキャベツ軍!ここでやられる訳には……ぐぁぁ!」
「キャベツ隊長……キャベツ隊長ぉぉぉ!!!」
「たかしー、もうカレーできた?」
「うん、結構上手くできたと思う」
「は?お前舐めてんの?サラダの具材をカレーにぶち込むとか有り得ないし、お前まさか学外研修のキャンプだからって浮かれてる?」
「いや、ごめん……なんかさ」
「ん?」
「野菜って面白いなって」
「何言ってんだお前」