ときの風
あなたにとって風はなんですか。
穏やかな春一番は
たんぽぽのわたげを吹き飛ばした。
白く宙を舞うわたげは春の白い光の一部になって輝きを放つ。
わたげはたんぽぽの可能性であり、生命の始まりでもある。
ときに風は命を繫ぐ。
駆け抜ける夏の風は入道雲を作り上げた。
青い空の中に浮かぶ夏のひとつに変えられて。
子供たちは目に焼き付ける。
その雄々しい姿を、自身の夏の思い出として。
ときに風は記憶を繋ぐ。
語り継ぐ風は秋の街に吹いた。
人々は冬の香りの混ざるのを嗅ぎ分け、コートを重ねて空を覗く。
色は濃くなり葉は色づいて、秋は冬を伝える。
ときに風は季節を告げる。
冬の粉雪を風が運ぶ。
灰色の空は白さが差して。
光は色を失う。
木々は枯れ果て雪に色づく。
寂しい大人の咳を運ぶ。
衰えた体からすべてを、ぬきだして。
ときに風は命を運ぶ。
風は時であり、沈黙なんですね。