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総合魔法学苑購買部  作者: 安藤きつね
8/8

開店(3)

 この購買を開店させてから約三週間の時が流れた。開店当初は懐かしさと珍しさで客足もそれなりにあったが、それも日を追う事に減少し今となっては一日に両手で足りる程度の客入りしかない。


 ネットや学苑のサーバーを借りて少し大きめな宣伝をしても効果が薄い理由は、個人的な推測にはなるが別地域の学苑生徒と違い、比較的に愛知は富裕層の人間が多く生活水準も高い。


 流石魔法技術を開発した県だけにエリートが多いというところだろう。現に俺の両親も稼ぎはそれなりの物で、上流とまではいかないが、中流レベルの家庭だと思っている。


 んで、その富裕層が多く生活水準が低くても中流なのもあり客足が伸び悩んでしまっているのが現状だったりする。


だからと言って客が来ないから今日は店仕舞いだ!なんて事も出来ない。それをしてしまえば客足は余計遠のくからだ。


 なので、今日も遅がけではあるが昼過ぎから開店して店裏の倉庫にある納品された品のチェックを店内でしているのだ。


「駄菓子はそこまで売れないけど飲料はそこそこ売れるんだよな」


 学苑生徒たちの懐に優しい駄菓子屋さんの飲料。

マイナーメーカーの炭酸飲料で価格も安く下校時間になると戦闘科の生徒がまとめ買いしていってくれる商品。

 現状ウチの主力商品である為切らすことが出来ない。生命線みたいな物だ。


「売れ行き好調だし種類を増やすかなぁ」


 今入荷している飲料は、炭酸飲料のみで三種類。某有名会社をインスパイアしたようなヤツとエナジードリンクっぽいヤツあとはジンジャーエールだ。

 炭酸飲料はこの三種類で十分なので、清涼飲料水やコーヒー、紅茶あたりが欲しいところだ。

 この激安メーカーの飲料サンプルを暇な時に眺めているが、清涼飲料水は炭酸飲料と同じで安く仕入れれるが、コーヒーなどの飲料が何故か高かった。

 その理由を調べて見たら、このメーカーはもともとコーヒーや紅茶に力を入れていて、その方面ではそれなりに有名らしい。


炭酸飲料や清涼飲料水を安く卸せるのは、そちらで十分な売上を弾き出しているからであろう。

 納品チェックも残り僅かになり、背後から視線を感じる。

 それは敵意ではなく好奇な視線。ここ最近感じる視線だ。時間はバラバラだが、必ず1度は店内を覗きに来る存在で視線が合うと逃げてしまう恥ずかしがり屋だったりする。

 そして今日も熱心に俺の仕事を覗き見しに来ているわけだ。


 可愛い女の子からの熱視線を背に受けながら仕事をするという稀有な体験を経験している俺は、仕事を終わらせると立ち上がり軽く伸びをして身体を解す。


そのまま覗き見少女と視線を合わせず、コールドストッカーに入っている炭酸飲料のペットボトルを2本取り出し店内の隅にある休憩スペースのテーブルまで移動し椅子に腰を下ろす。


「そんなとこで隠れてないでこっち来いよ」


 しかし、俺の呼び掛けに応えることはなく小柄な身体を軽くはね上げると背を向けて逃げていってしまった。


 うーん。何か不味かったか?店の外に出て急速的に小さくなっていく背中を見て、魔法を行使してまで逃げたいと思われたのかと思うと自然と気分が沈んだ。


 翌日、今日は土曜日というのもあって朝から店を開ける。

 客足を期待しての開店というよりは、どこかで購買を求めてる人がいるだろうと勝手に俺が思ってるだけだったりする。

 そして今日も飽きずに俺に熱視線を送る女の子が電柱に隠れてコソコソと店内を覗き見している。


 「遠くで見てても楽しくないだろうに」


 遠い位置で店内を観察する滑稽な姿に表情が自然と緩んでしまうのは、子供相手だからなのだろう。

 仮にこれが同年代なら捕まえて警察に突き出しているところだ。

 何にしろ今日こそ、あの観察少女と友好関係を結んで店の客になって貰わねば。

 在庫チェックを終えた俺は、どうやって持て成そうか考えがてらバックヤードへと足を運ぶのだった。






 あたしの名前は、風見千香。魔法学苑の一年生だ。


 今あたしは、入学した時にはシャッターで閉ざされていた店舗の調査をしている。

 なにやら見たことの無いお菓子などを揃えているお店だ。


 店名は無く、デカデカと魔法学苑購買と書かれていて怪しさしさしかない。

 週に二回ほどのペースで調査を続けていたが、昨日運悪く店の従業員に見つかってしまった。

 とても友好的な態度を見せる従業員だったが、これは罠ではないか?と察知したあたしは、戦略的撤退をしたが、今日はまだ気がついてない。

 あたしの隠密能力も、捨てたもんじゃないらしい。

 しかし、こんな遠い場所からでは、店内の隅々まで見えない。

 もし、この店が購買の名を借りた悪の組織だったら愛知県はたちまち組織に乗っ取られてしまう。


 そう。これは愛知県の危機なのかもしれないのだ!

 だから、その危機をあたしが未然に防ぐことが風見家の娘の役目だと思っている。


 暫く観察をしていると、店主が店の奥に姿を隠したので、身を潜めていた電柱から一気に店の入口へと駆け込む。


隠密行動は、そこまで得意じゃないけど我ながら上手く行ったと思う。


 唯一の不安材料といえば店舗の正面の半分以上が、ガラス張りで隠れるスペースが小さいぐらいか。


 あたしは、この場に留まることは危険だと判断し、店内を覗き込む。

 店主の姿は確認できない。まさか、裏で仲間たちと極秘計画を立ててるのでは!?


 「進路クリア」


 人の気配がしないのを確認すると足音を出来る限り立てないように店内に入る。


「な、何だこれ?初めて見るお菓子ばかりだ」


 見た目がポテチみたいなお菓子や真っ黒い棒状の甘い香りがする物、あとこれは何だろう?


「うまい棒?」


 白い包装が施されたお菓子を、思わず手に取り眺めてしまう。僅かにだがチーズの香りがする。美味しそうだ。

 思わず生唾を嚥下し、包装を開封しようと手を伸ばすと急に身体が宙に浮く。


 「まったく、金払う前に食ったら窃盗だぞ?」


 見知らぬお菓子に気を取られすぎたこともあり、あたしは簡単にこの店の店主に捕まってしまった。


「はーなーせー!この悪党!」

「悪党はお前だろ?駄菓子泥棒」


 どれだけ暴れてもあたしを離すことない、握力。こいつ、かなりの手練だ。

 だからと言っていい様にされる訳にはいかないから打って出る。


 身体が浮いている為、逃れれる程のパワーは出せない。

 ならどうする?簡単だ。

力を抜いてしまえばいい。

そしてあたしは身体の力を抜いた。



 まったく。こそこそと忍び込んで何を始めるかと思ったら窃盗とは、呆れたものだ。

 この様子だと駄菓子を見るのが初めてなんだろう。張り詰めていた緊張が若干だが緩んでいる。隙だらけもいいところだ。

 俺は無防備な少女のブレザーの襟首を掴み持ち上げる。身体が宙に浮くことで我に返ったんだろう。身体を暴れさせる。

 まぁ、そんな暴れたくらいで離すほど握力は弱くない。


「はーなーせー!この悪党!」

「悪党はお前だろ?駄菓子泥棒」


 人を悪党呼ばわりとは侵害である。とりあえず、このじゃじゃ馬をどうしてやろうかと考える。親御さんに連絡して厳重注意をしてもらうのが一番か。

 そんな事を考えていると、急に腕にかかっていた負荷がなくなる。


「覚悟っ!」

「おっと…」


 俺に背を向けたまま少女は、声を張りそのままトラースキックを打ち込んでくる。

狙いは胸部。ノックバックが目的か。


 右手に掴んだブレザーの裾を掴み、防壁のようにし足が触れた瞬間に身体をずらすと同時に手を離して受け流す。本来ならこのまま足にブレザーを絡め付けてアンクルを極めるのだが、変な誤解をされているのでやめておく。


「ああっ!あたしのブレザー!」


 見事な靴跡が着いたブレザーを手に取り肩を震わせる少女。あー。これ、アカンやつか?もしかしてブチ切れ案件?うわぁ、どうしよう。


「あ~えっとすまん。」


 謝ると同時に拳が飛んでくるが左手で受け止める。バチンと乾いた音が店内に響く。手打ちに近いが力強い。間違いなくこいつは戦闘科の人間だ。


「ゆるさんっ!」


 目に涙を溜めた少女が睨み付けてくる。う~ん。許されないとなると、一旦落ち着かせるしかないのか。


「おい、こんな狭い店内で術式展開はやめろっ!店が壊れる」

「悪はゆるさんっ!」

「だから何で悪なんだよ!」


 悪党呼ばわりする根拠がわからない。このまま悪党と思われたくもない。吹聴されたら経営破綻してしまう。


手に握られたデバイスは、ナックル型。指先で触れると忙しなく術式が動きだす。自分で組み上げた術式なのだろう。とても歪で稚拙な作りだ。


しかし何の術式なのかは俺にはさっぱり解らん。出たとこ勝負という訳だ。

 どうしたものかと考えていると、少女の姿が消える。スニーキング系か?耳をすませる。

 僅かだが風切り音が聞こえる。この狭い店内を高速移動しているのか。


「有能な子が出てきたな」


 関心しても慢心はしない。


 エプロンのポケットに入っているデバイスを手に取る。

 俺が手にするのは、一般流通しているスティック型のデバイスだ。相手と違いオーダーメイドではないが、十分に戦える。

 背後で壁の蹴る音がすると同時に振り向きエプロンを外し術式展開。数秒で術式行使がされエプロンが宙に浮くと同時に鈍い音をたてて少女の足がぶつかる。


「うそっ!?見切られた!?」

「卒業生を舐めんな後輩」

「先輩なのに悪事に手を染めるなんてっ!」

「いい加減にその悪関係の話をやめないか?」


 未だに悪滅に拘る後輩に俺は、苦虫を噛み潰したような顔をする。だが、力の差は分かった筈だからこれで諦めてくれるだろう。


「よしっ!あたしが改心させる」

「おい、いい加減話を聞けや」


 地を蹴り僅かに砂煙があがる。その速さは目を見張るもので、俺の懐へと1秒で飛び込む。

 勢いのまま肩からぶつかってくるが、奥襟を掴んで勢いを殺す。力の差を見せつけても諦めないのならもう打ち込むしかないでしょ?とりあえず謝罪とかはあとですればいいし。


 腹を決めると俺は掴んだ奥襟を離し胸元に掌底を軽く打ち込む目的はノックバック。

 少しばかり柔らかな膨らみに触れてしまったが、仰け反り2歩3歩と後退。それに追い討ちを掛けるべく大股で1歩地を踏みつけ左足の親指に力を入れる。


「加減はできんぞ?恨むなら自分を恨め」


 悪役っぽい事を口にして術式を起動。それと同時に俺は彼女の鳩尾に掌底を打ち込んだ。


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