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総合魔法学苑購買部  作者: 安藤きつね
5/8

という訳で(2)

 先輩から調査を頼まれて3日程経過した。

 実習での臨時講師の立場を利用しての情報収集は順調に進んだ。正直購買部なんて商売は、儲からないと思っていたが考えてみれば学生を相手取るのだから、懐に優しい品が揃う購買部はあって当然。無いと困るというような立ち位置みたいだった。

 正直こんな学生にとってリーズナブルな店が何故、魔法専門校の先頭を走る愛知県に存在しないのかも不思議に思った。遠い過去から存在するような代物だというのに。


 私の小さな疑問はさておき、実習で赴いた学校は大阪校と福岡校だ。講師勉強とは言っても、現役講師の補佐をするだけなので楽だけど、先輩みたいなスケベ心まるだしの男子生徒をいなすのが1番大変だったのが率直な感想だ。スリーサイズの質問から始まり数々のセクハラ行為に、先輩によって不本意に鍛えられた精神力を持ってしても気圧されるほどの欲望に私の受け持ちの講師の人も苦笑いだった。

 初めのうちはこんなものだと慰めの言葉をいただき、何故か目頭が熱くなった。


 実習も終わり自由な時間が出来ると私は、早速情報収集を開始した。大阪校の購買部は昔駄菓子屋と呼ばれたこじんまりとした店舗を母体としていた。店内は生徒が3人ほど入れば窮屈になってしまう程のスペースしかないのだが、様々な駄菓子や学生の必需品を隙間なく並べたレイアウトに私は、宝箱に詰まった財宝を連想した。

 この店内を見たら生徒たちが夢中になるのは仕方がないと納得する。恥ずかしながら私も生徒時代の頃を思い出し童心に帰って色々なものを摘んでしまった。

 

 しかし、大阪校の購買部はこれだけではなかった。カウンターの奥からソースの甘酸っぱい香りが漂ってきた。何故そんな香りがするのかと思い生徒に聞いたら「焼そばを作ってもらっとるんよ」と返事が返ってきた。

 焼そば?なんで?焼そば?購買部には有り得ない商品に衝撃を受けた。焼そばを注文した生徒からの話によると、駄菓子ではお腹が膨れないだろうという店主の気遣いで始めたことだという。美味しそうに焼そばを頬張る姿を見てなるほどと納得した。

 

 そして、場所は変わって福岡。

 福岡校の購買部は質素だった。学生にとって必要最低限な物しか置いておらず、大阪校みたいに駄菓子などの小腹を満たす物すら見当たらなかった。その理由は、下校時刻に開店する沢山の屋台だ。スクールストリートに沿って並ぶ屋台で福岡校の生徒は、小腹を満たしたり寮住まいの生徒は夕食にしたりしているみたいだった。

 私は、こういう混み合うような場所が苦手なの為、店の中の情報収集はしなかったけど、生徒がみんな幸せな顔をしていたのが、とても印象的だった。

 

 二泊三日の臨時講師の実習も終わり初めての経験ばかりで疲れ果てた私は帰宅するとスーツを着たままベッドへ倒れ込んだ。

 

「まさか、2校連続でセクハラ責めされるとは思わなかったよ…」

 

 思わず愚痴を零してしまう。流石に今日先輩に連絡したら3連続でセクハラを受けるようなモノだと思い、報告は明日呼び出せばいいかと思い、私は仰向けになって天井を見た。

 

 魔法学苑を卒業してもう3年。指導者実習に慣れてきたけど、まだ不安な部分があるのは自分でも解る。生徒のからかいや悪戯に翻弄されっぱなしだったりで私は舐められているのか?ハッキリとしない自分の現状にモヤモヤとして軽く落ち込む。

 

「よしっ!こんな時はお風呂に入って気分を軽くしよう」

 

 解決出来ない悩みは一先ず置いておいて実習で溜まった疲れを解すべくバスルームに向かった。

 暖かい湯船が私の疲れとストレスをゆっくりと消しさり、身体を解きほぐす。

 そして、時間が経過するにつれて沈んだ気持ちもなくなり、気分が徐々に明るくなるのがわかる。お風呂って偉大だと思う瞬間だったりする。

 まだ魔法学苑に通ってた時に先輩が長風呂はいいぞと言っていた理由が今はよく分かる。水分補給をしながら温めのお湯に1時間ゆっくり浸かるのがとても心地良い。

 

「やっぱり、今日連絡しておこう。先輩待ってるだろうし」

 

 さっきまでは、乗り気じゃなかったけど、お風呂効果で前向きな気持ちになった私に先輩への連絡を億劫に感じることは消え去っていた。

 身体を丁寧に清めスッキリした気分で私は、先輩の端末へと音声通話で連絡する。通話回線が開く間にバスタオルを身体に巻きそのままベッドへ腰を下ろし、乾いたフェイスタオルを手に取り濡れ髪を丁寧に拭き取っていく。

 長いコールを経て漸く先輩との通話回線が開いた。その時自然と口角が持ち上がったのに私は気付かなかった。

 

「もしもし、珍しいな音声通話のみとか」

「そうだね。先輩に湯上りの私を見せるとか屈辱でしかないからね」

 

 このあと先輩の返す言葉によってどう弄って楽しもうかと考える私だった。

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