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冒険者組合の試練 一日目

「それでは、この承諾書にサインしてください」

 翌朝、僕達三人は冒険者組合の登録資格を得るための試練の受付をしていた。冒険者組合ノンペン支部の打ち合わせブースに三人並んで、説明を受けている。

 僕は承諾書を見る。そこに書かれている内容は、冒険者になることを渇望していない僕を躊躇させるのに十分だった。

『この試練を達成するもしないも、自分の力量であることを自分の責任であることを承諾し、自身の身体或いは生命に起きることは自身の力量を示すものとして、他者にその責はないことを承諾する』

 一体何を言っているのだろう。

 僕がそんなことを考えている間に、プロイもレックもサインを済ませていた。

「ノイ、遅いよ」

 二人から同時に檄を飛ばされる。わかってます。

「サインします」

 僕の手は震えていた。それを見た二人が笑う。

「ノイ、ここで気持ちが折れたらシャレにならないからね」

「サインくらい目をつむってもできるよ」

 この一ヶ月で、容赦ない言葉を受けることに慣れていた。

「それでは、あちらの一番と書かれた階段を降りてください。その後は皆さんの意思次第です。途中で引き返すも、最後まで行くのもあなた達の判断になります」

 サインを終えた僕の目を見て、案内所の女性は事務的に言い放つ。

「中間地点に到達したらメディカルチェックを受けてください。問題なければその下層に行く資格が得られます。その下層にある施設にたどり着ければ合格です」

 案内所の女性は機械的に説明をして一番と書かれた看板のある階段を指さした。

「洞窟内はランプが灯っています。洞窟内は入り組んでいますが、ランプに従って行けば迷わないルートになっています。それと、事前に説明があったと思いますが、持参できるものは、武器と装備の他は水筒だけです。ではご無事で」

 最後に、僕達にポツリと語り掛けた。

「あなたたちなら大丈夫だと思うけど、無理はしないでね。最下層の挑戦は何度でもできるから」

「あ、はい」

 僕は反射的に返事した。やっぱり緊張している。


 冒険者組合本部の奥には、階段がいくつもあった。その一番階段を降りているとすぐに洞窟になった。床も天井も壁も岩肌がむき出しになっている。そこに等間隔でランプが設置してあり、かろうじて足元が見えるようになっていた。それにしても長い洞窟だ。

「ここって、昔、人族が氷期に生活していた拠点の一つなの」

 プロイが沈黙に耐えかねたのか、話し始めた。

「こんな地下に?」

 プロイやレックと話をしていると、僕は何も知らないことに気が付く。興味の欠如と言われたこともあるが、聞いた話でも、興味がないと覚えていないことがよくあるのはご愛敬。

「うん、地下って温度が一定なんだよ」

「ノイ、地下って涼しいでしょ」

 そういえば、外は暑いのにここは涼しい。地下のギルドハウスも涼しかった。いや、これはグエンからも聞いていたかもしれない。

「外の気温が上下しても、その熱気も冷気も地面に阻まれて届かないの」

「ああ、そうか。氷期もここはこれくらいの気温だったんだ」

「多分ね。多少は今より涼しかったかもしれないけどね」

 でもこんな穴蔵にいたら、精神的にダメになりそうだ。

「ここは生き残るにはいい場所だったけど、文化は滅んじゃったのね」

「なんで?」

「快適な場所だから、生活をよくしようって思わなかったんじゃないかな」

 ああ、やっぱりダメになったんだ。

 しばらく下り坂の狭い洞窟が続いたが、それが終わり平地になると突然視界が開けた。洞窟の天井は高くなり壁も広がった。床から天井までは十メートルはあるだろう。壁の間は三十メートルはある。ちょっとした広間だ。

 それまでの狭い洞窟から広間に出たことにほっとした。僕はそのまま歩き出すが、プロイとレックは洞窟に留まっている。

「ノイ」

「え?」

 広間の中に向かった僕の後ろからレックが声をかけた。振り向くと二人とも声をあげた。

「感じろ」

 レックが言い放つ。

 僕は狭い洞窟から出られたことに安心していた。でもそれは罠だった。気が付けば、殺気が身体に伝わる。

「あ、そういうことか」

 僕は呟くと背中の剣、両親の形見のカタナを抜いた。その刹那、天井から、壁から、床から、大きな塊がいくつも溢れてきた。

 瞬間で呼吸を整えた僕は一番近い殺気にカタナを振るった。

 ザン!

 その殺気を切り裂い、僕のカタナの音が洞窟に響いた。

 僕はそのまま次の殺気に気を付けながら、ゆっくり周囲を見渡す。

 多少の余裕がありそうだと自分が切り裂いた殺気を見ると、それは大きな蜘蛛だった。足も胴も太く、大きい。高さは一メートルくらいあるだろう。この蜘蛛は見覚えがある。内臓は毒があるから毒抜きをしないと食べられないが、珍味としていい値段になる。足は毒がないので、そのまま焼くと旨い。

 斬ったときの感触を思い出すと、少し硬い皮に柔らかい内臓の手応えだった。硬い皮に触れたカタナが音を出したのだろう。もっと柔らかく撫でるようにカタナで触れて切るのがいい。僕は相手の斬り方を考える。

 柄を握る左手をしっかりと保ち、その上から右手を優しく添える。

「大丈夫」

 僕はプロイとレックに答える。

「大丈夫じゃないよ。こんなところで時間かけてらんないよ」

 レックがイラついたようだ。声に棘を感じる。

「ノイ、それ美味しいけどさ。昼ご飯の時間はまだ先だよ」

 プロイは蜘蛛を脅威ではなく、食料と認識しているようだ。

「え? 食べるの?」

 レックがプロイを見て驚いている。

「うん、足を焼くとね。おいしいよ」

「そうなの?」

「食べたことないの? おいしいのに」

「魚がおいしい漁村に育ったから、蟲は食べてないよ」

 僕は、そんな二人のやりとりを眺めていたかったが、殺気がいくつも近付いてきていることを感じた。二人はこちらに眼を向けず話している。声をかけても来ないだろうという予感がした。仕方ない。一人でやろう。

 ザッ!

 カタナを振り回し、向かってくる蜘蛛を切り裂く。何匹いるだろうか。ここは蜘蛛の巣なのか。全部を相手にするのは疲れそうだ。

 右から、左から、上から、下から、殺意が絶え間なく襲ってくる。僕は避けながら、それを切り裂く。

 ザッ!

 これで二十匹倒した。産まれてからムアンカウで倒してきた蜘蛛の数の倍になる。初めてのときは苦労したとかどうでもいいことを思い出す。

 ザッ!

 蜘蛛が暗闇からまだ押し寄せてくる。これはキリがない。どうにか一息つきたいが、蜘蛛が隙あらばと寄ってくる。なんとかこの状況から脱したい僕はチラリと二人を見る。

「そうそう、あの角のアイスクリーム屋行った?」

「行ってない。おいしいの?」

「絶品!」

「行きたい!」

 ダメだ。二人ともこっちを気にしていない。少し寂しいと思いたいたがそれどころじゃなかった。いい加減、このキリがない状況をどうにかしたい。疲れないし危険だとも思わないが、面倒だ。ここを走り抜けてやり過ごそう。

「プロイ、レック、行くよ」

 僕は二人に声をかけたが、声が届かなかったようだ。ひょっとしたら、聞こえているのに無視されているのかもしれない。どちらにしても気分のいいものではない。

「プロイ! レック! 聞いて!」

 僕は声を出すが、二人とも耳を貸してくれない。

「先に進むよ!」

 もう構わない。ランプの続く方向に向かって走ろう。

「え?」

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 僕が走り出すと、後ろから声が聞こえた。が、構わない。僕はそのまま走る。目の前に出てきた蜘蛛を切り捨てながら走る。

「ノイ! 勝手なことしない!」

 勝手なのはどっちだ? とか頭に浮かんだが、そんなことは言えない。

 無視してランプの下を走ると、そのうちに洞窟の入り口、この広間の出口が見えた。ランプは洞窟につながっている。

 よし、あそこで着いてきている蜘蛛を片付けよう。そう思った僕の右側を突然、青白い光が地面を這って走り、凍り、氷の道ができていた。

「え?」

 同時に、僕の左側には赤い光が走る。これは炎の道だ。

「うわっ」

 僕の背中にも冷たいものが走った。これはあの二人だ。レックの氷とプロイの炎だ。慌てて振り向き、来た道を見る。

「ノイ、ふざけないでよね」

「あれくらいで何やってるのさ」

 プロイとレックが僕の後ろから走ってきた。身体を薄い緑の光が覆っているのが見えた。速足を使っている。

 逃げられない。いや、逃げることで何かが変わるなら逃げたい。逃げよう。僕は慌ててまた走り出した。

 しかし、前を向いた僕の目の前には絶望しかなかった。目の前にあったはずの、出口のはずの洞窟は、右半分が氷で、左半分が炎で塞がれている。通れない。僕は茫然とその入れない洞窟の前に立ち尽くした。

「いい根性してるよね」

 追いついたプロイが笑顔で話しかけてくるが、目は笑っていない。

「ノイ、これはあたし達の合否にも関わることなんだから、ちょっと自重しような」

 レックも笑いながら話しかけてきた。でも、やはり、目は笑っていない。

 僕はどうしたらいいかわからない。愛想笑いを浮かべる。

「いや、蜘蛛がきりなくて……」

「ふざけないでね」

「自分ができることをやる。ノイ、いいね?」

 愛想笑いが引きつる。

「あ、後ろ」

 僕の視界に、蜘蛛の群れが入ってきた。レックもプロイも気が付いていない。

「ふざけないで」

 プロイが睨む。

「いやほんとだって」

 レックが僕の指さした方向を見る。

「気持ち悪っ!」

 レックが声をあげた。大量のうじゃうじゃしたものを嫌悪している。

 そのレックの声を聴いたプロイは何事かと振り向いた。大量の蜘蛛が押し寄せてきたことに気が付いたようだ。

「さすがにうじゃうじゃいると気持ち悪いよね」

 プロイはそう言うと右手を左肩に突けて手刀を作ると、それを一気に右に払い、空を斬った。

 ブン

 プロイの手刀の軌跡に周囲の空気が集まると、そのまま前に勢いよく吹いた。風の魔術なのだろう。それは蜘蛛の塊に向かう。

「すごい」

 僕は驚いた。風で蜘蛛は残らず吹き飛ばされた。それでもプロイは何事もなかったかのような顔だ。

「それ、ノンペンに来てから覚えたの?」

 僕は訊かずにはいられなかった。初めて見た魔術だった。

「うん。レックに教えてもらったの。精霊の力を借りないで、自分の力を自然に働きかけるから楽なの」

 一月もかからずに魔術を覚えて使えるようになるものなのか。

「ノイの剣技も上達してたよ。前よりも身軽に動けてた」

 少し照れ臭かった僕は、蜘蛛が飛ばされた方を見た。と、そこにはまた蜘蛛が様子を伺ってこちらを見ている。

「あっ」

 僕は声を出した。それに気が付いたレックは蜘蛛の塊を見る。

「気持ち悪いんだよあいつら」

 レックはそう言うと腰に右手をやり、ダガーナイフを抜く。そのまま顔の前に、横に構えると左手で剣先をつまむ。つまんだ指先が青白く光ると、そのままレックはダガーナイフを横に振り払った。

 パキッ

 ダガーナイフの切り裂いた空間から、氷が生まれ、そして前に飛び出した。

 ザンッ

 氷は線上にいた蜘蛛を切り裂き、そのまま床に突き刺さった。切り裂かれた蜘蛛は、その傷口から徐々に凍っていくのが見える。見る間に洞窟の奥まで凍り付いた。あのあたりにいた蜘蛛は全滅したことだろう。

「うじゃうじゃしてうごめいているの、嫌いなんだよ」

 レックはそう言うといつもの表情に戻った。そして僕を見て、冷たい視線のままの笑顔になった。

 プロイにもレックにも逆らわないようにしよう。改めて僕は誓った。


 炎と氷で封鎖されていた洞窟は、彼女たちの手で簡単に解放された。

 彼女たちの説明によると、空気に振動を与えると炎になり、振動を止めると氷になるということだが、僕には想像つかないことだった。

「ノイもそのうちわかるよ」

 説明に飽きたレックは、僕にそう言うと洞窟に足を踏み入れた。

 ここからも下り坂だ。地面も壁も天井も岩でできている洞窟を進みながら、プロイとレックはお喋りを再開した。

「ここも失われた技術で造られたみたいだな」

 確かに、足元は平らになっている。壁も天井もすっきりしていて、洞窟自体がきれいな螺旋を描いて下っているのがわかる。

「うん。どうやって掘ったんだろう。こんな硬い岩をきれいにくり貫くってすごいね」

 そう言われてみればそうかもしれない、と、僕は今更のように驚く。冒険者組合から下りてきた洞窟もきれいな螺旋だった。

 彼女たちの観察眼に感心しながら僕は歩きながら考える。ここは何なんだろう?人工的すぎる。

 そんなことを考えているうちに、洞窟はまた広間になった。今度は洞窟から出る前にじっくり観察しよう。。

「ここは?」

「なにこれ?」

「この植物は、私、どこかで見た」

 人の背ほどの高さの木が整然と並んでいた。

「あ、あたし、わかった」

 レックが手を叩いた。

「これね、火の木だ」

「火の木?」

「そう。葉を擦ると発火して、幹がいい感じに燃えるんだ」

 そんな木見たことない。

「危ないの?」

「風が吹くところだとすぐ火事になっちゃうから、新芽が出たら葉を間引きするんだ。新芽を擦ると火種になるし、枝は濡れても燃えるから大切に保管してたよ」

 レックが育った南の方では、普通に見かけるらしい。波をかぶる船の上でも火が使えるので、漁師には珍重されているとのことだ。

 でもここの木の葉は間引きされていない。

「危険ね」

 プロイがボソリと呟く。僕もうなずく。

「ここ、風がないから大丈夫なんだろうな。何か動くものがいたらここは火事になってるはずだから、ここは安全だとあたしは思うよ」

 レックはそう言うと、広間に踏み込み、手近な木の枝と葉を取ってきた。

「メシにしよう。さっきの蜘蛛の足、焼いて食べよう」

 手際よく葉を折り曲げたレックは、それを器用に左手で擦り合わせた。

 ポッ

 擦り合わせた部分から生まれた小さな火を右手に持っていた枝の先に移す。

 ボウ

 勢いよく火が燃え移った。

 僕は慌てて枝を集めて井桁に組み、葉をその中に敷く。プロイは持っていた蜘蛛の足を丁寧にその周りに並べていた。

「二人とも手際いいね」

 レックは笑顔で、僕が組んだ薪に火を移す。

 ボウッ

 敷き詰めた葉に火が燃え移り、そして井桁に組んだ薪が燃えた。

「他にも、この洞窟には食べられるものがあるってことだよね」

 プロイは火を見ながら呟くように話し始めた。

 武器以外の持ち込みが許されないという説明だったが、その理由は教えてもらえなかった。食事についての説明を求めても、それも試練の内だとしか回答がなかった。

「そうだね。この先にも食材があるのかなぁ」

「もっと足を持って来ればよかったかな」

「レックがダメにしちゃったけど」

 僕達は目を合わせると、自然と笑いがでてきた。プロイはレックに話しかけた。

「レック、蜘蛛がダメなの?」

「あたしはね、ああいうのがうじゃうじゃ固まっているのがダメ。なんかゾワゾワするんだよ」

「意外とかわいいところあるのね」

「もういいよ。それより、そろそろいい感じじゃないのかい」

 蜘蛛の足の切り口から、湯気が出てきた。いい香りだ。

「うん、よさそう。いただきまっす」

 プロイは蜘蛛の足を手にし、器用にその外殻を割る。中には半透明の肉が湯気をあげていた。いい香りがまた広がる。

 涎が出てきた。僕も蜘蛛の足を割り、中身をほおばる。甘い。

「新鮮なのは甘くてクセもなくて美味しいのよね。私は好き」

「でもこれ、このあたりじゃないと食べられないのかな」

 プロイが一本たいらげ、続けた。

「そうなの?」

 僕の育った村でもそんなに蟲を食べる機会がなかった。この蜘蛛もあまり見かけない。

「あたしの育ったところは漁村だったからかなぁ。魚ばかりなんだよ」

「そうなんだ。私が育ったのは山だから、この蜘蛛も多いからよく食べるよ」

 場所で食べ物が違ってくることを僕は初めて知った。

「僕の村は、川魚と鳥と豚が多いなぁ。スープにして米にかけて食べるんだ」

「鳥って?」

「家畜だよ。鶏とか家鴨」

「家鴨?」

「うん。田んぼや畑の雑草とか小さな虫を食べてくれるからね、どの家も飼ってる」

「へー。ノイの村は農業が強いんだ」

 農業が強いという言葉に多少の違和感。

「強いって?」

「農業組合の影響が強いんだろうなぁって」

 そう言われてみれば。

「考えたことなかったけど、そうかもしれない」

「農業組合って、組合員は戦えないし、現金も少ないから傭兵も雇えないし。冒険者への依頼が多いってあたしは聞いたな。村の用心棒の依頼で、報酬が家と食料の保証とかあるから、第一線を退いた冒険者がよく受けてるってね」

 そういえば、僕も食べ物を村長にもらっていた。両親が他界してからは、学校の同級生の家に食事に招かれることも多かった。そういうことか。

 僕は、これまでの村の人達の好意ではなく、報酬で生活してきたということに気が付いた。脅威が現れたときには、当然のように僕に助けを求めた。あれは頼られていたわけではなかったのか。虚しさで、少し僕の気持ちが揺らぐ。

「あたしの村は漁村だから、漁業組合と農業組合のいざこざが絶えなくてね。漁師は農民より気が荒いし、農民は米を高く売りつけようとするし。なんかね、どっちも苦手になっちゃったよ」

 レックは焚火を見ながら寂しそうに続けた。

「だから、もう村に戻る気にならないんだよね。産まれて育った村だけど」

 僕はどう反応したらいいのかわからなかった。レックの感じた虚しさは僕にはわからない。だけど、寂しいということだけは感じた。

「私の村はね、冒険者が長旅の拠点にするところだった」

 重苦しい空気を変えるように、プロイは明るく話し始めた。

「冒険者が集まるから、商人も自然と集まってね。でも山の中でね。みんな立ち寄るだけだから、毎日誰かが来て、毎日誰かが旅立っていったの。変わらないのは宿屋と食堂の従業員だけだった」

 そういう村もあるのか。僕は何も知らないことをまた知った。

「私は食堂の手伝いをしていたのね。いろんな人がいろんな話をしてくれた。時々、稽古してくれる冒険者もいたの。多分『隠者』の人だったんだろうなぁ」

「あ、あたしも魔術を教わった。風の魔術ね。海の脅威には風と氷が効果あるって教えてくれた」

「僕もあった」

 僕が初めて一人で脅威に対峙したときに見ていてくれた冒険者がいた。本人は、元冒険者で行商人をしていると言っていたが、避け方や身の守り方を教えてくれた。年に何回か来ていたが、時間があると型を見てくれた。また会えるだろうか。

「あれって『隠者』の人だったんだね。会いたいなぁ」

 僕は、稽古をつけてくれた人に会いたくなって呟いた。

「あたしも会いたいな。どこにいるかわからないけど」

「会いたいよね。いろんなこと、もっともっと教えて欲しい」

 プロイもレックも、食事を忘れて遠い眼をしている。しばらくの間、それぞれが思い出に浸る。

「さて、行こうか」

 僕は立ち上がり、殻をどこに捨てたらいいか探す。

「そうね。そろそろ行きましょ」

 プロイも立ち上がった。

「殻は木の下に置いておくといいんじゃないかな。きっと肥料になるよ」

 レックも立ち上がり、殻の捨て場所を探す僕に示唆した。

 僕はうなずいて、殻を木の根元にそっと置く。

「さて、この先は何が出てくるのか楽しみね」

 僕達は、薄暗い洞窟のランプに沿って、先に進んだ。


 第三の広間は、キノコの群生地だった。僕達は、マッシュルームやエリンギを遠慮なくもらう。知らないキノコは食べられるのかどうかわからない。

 第四の広間は何もいなかった。いたのかもしれないが、ランプに沿って歩いている僕達には、何も見えず、感じられなかった。ただ、広間の隅には水が流れていて、僕達はそこで喉を潤し、残り少なくなっていた水筒を水で満たした。


「そろそろ夕方かなぁ」

 歩き続ける僕達は、少し疲れてきた。

「休憩する?」

「次の広間まで行って休もう」

 螺旋状になってる洞窟を下り続ける。下り坂を歩きっぱなしで足がパンパンになりそうだ。それにしてもこの螺旋は長い。いい加減飽きてきたところで、洞窟の広間が現れた。

「何かいそうね」

 動物の呼吸音が聞こえる。かなり大きい動物だと直感する。

「ちょっと休憩してから行こう」

 僕は座ると水筒から水を飲む。喉が潤うと疲れがとれた気分になる。

「そうね」

 プロイとレックも座り、水を飲んだ。

「何がいるかわかる?」

 僕は、プロイが精霊を使って広間を調べていることに気が付いて、尋ねた。

「うん。多分だけど猪」

「猪?」

「そう。かなり大きい。あれは『脅威』ね」

「一頭?」

「多分、一頭」

「でも三メートル、ううん、四メートル以上あると思う」

 僕の村の近くにも猪が出たことはあるが、大きくても一メートルくらいの体長しかなくて『脅威』ではなかった。それでも気性が荒くて攻撃的な猪を狩る依頼は何度か経験している。

 脅威になる動物は、見た目が似ているだけで、生物としての種類は違うと、脅威百科事典には書かれていた。食べ物も性格も違うらしい。何が違うのか、脅威百科事典に書かれていたはずだが、覚えていない。

「難しそうだね」

 猪の毛皮は、カタナで切るには硬い。毛がクッションになって、皮まで届かないことを経験していた。

「そうね。私とレックで攻撃するから、ノイは足止めしてね」

 プロイは悪意なく僕を肉壁に指名した。これは二人でノンペンまで旅した時からのフォーメーションだ。

 僕は頭の中で、どう立ち振る舞うか考える。猪が直進してきたら避けるしかないが、それでは足止めにならない。

「氷の壁、使うか」

 レックが何やら思いついたようだ。

「氷の壁?」

「そう。ノイの後ろにあたしが氷の壁を作って、猪がそれにぶつかって、足が止まったら頭を狙う」

 それならよさそうだ。僕は同意した。

「それじゃ、行こうか」

 立ち上がり、水筒を腰に固定した僕は、背中に担いだ鞘からカタナを抜いた。

「まだずっと先よ」

 精霊を使って広間を先に見ているプロイが、前に出る。

「ランプがまっすぐに並んでいるんだけど、あそこで左側に曲がっているの。わかる?」

 広間の左側に等間隔に設置されているランプを見る。言われてみると、先の方でランプで作られた線が曲がっているようにも見える。

「そこの右側に壁があって、ランプのない道があってね。そこにいるの」

「猪はこっちに気が付いてる?」

「こっちを気にした様子はないからわからないけど、ランプに沿って歩いていたら見つかると思うな」

 プロイは精霊の視界を見ながら周囲を確認しながら歩く。

「そろそろね」

 遠くに見えていたランプが曲がって見えた場所の手前に着いた。

「ここで私達は待ってるから、ノイは猪を引っ張り出してきて」

 聞いてない。

「猪のいる場所は暗いから、私達に不利。少しでも明るい方がいいでしょ」

 ごもっともです。

「それじゃよろしく」

 プロイとレックはにこやかに僕を送り出してくれた。

 僕はカタナを手にし、ランプの並ぶ壁伝いに歩く。広間の壁の反対側にある壁が見えるその先は闇しかない。息を整え、気配を読みながらゆっくりと足を進める。

「!」

 暗闇の奥に、二つの光が見えた。そこからは、今まで感じたことのない殺気が放たれている。ゆっくりとその光が揺れ、僕の背丈よりも高い場所に移動した。

「グゥ……」

 何かを押し殺したような、低い唸り声が地面を揺らした。そして光が近づいてくる。

 ゆっくりと近づいてくるそれが、やがてランプの弱い光に照らされた。光は眼に反射したランプだったようだ。その眼の位置が地面から二メートルの高さにある。膨らんだ背中は三メートルはあるだろう。口元の牙は僕の腕より太い。何より、大きすぎて全体がわからない。

「なにこれ」

 僕は背中に冷たいものを感じた。脅威だ。

「どうしろって」

 僕は動揺していた。汗が額から湧く。胃が締め付けられるような恐怖感。その動揺を感じ取った脅威は、僕を嘲笑うかのような眼を向ける。

「ノイ!」

 背後からの声に、僕は我を取り戻す。

 大きく息を吐き、そして大きく吸う。三回繰り返すと、汗が止まった。恐怖感は消えないが、薄らいだ。

「よし」

 僕は、自分の立ち位置、プロイとレックの位置、猪の位置を確認し、カタナを正眼に構える。

「グググ」

 脅威は僕が冷静になったことを不快に感じたらしい。見る間に不機嫌になっていくのが伝わってきた。

「来いよ」

 通じないだろうが、言葉で挑発する。猪が直進したとしても、レックにもプロイにもぶつからない位置だ。

「来ないならいくよ」

 僕はカタナを振りかぶり、前に跳ぶ。そしてその鼻に斬りつける。

 ガッ!

 鈍い音と共に、やはりカタナは弾かれた。僕はそのまま元の位置に戻る。

 これは想定内。猪の皮は厚い。そして鼻先も、口元にある牙と共に地面を掘るだけの硬さがある。叩き割ることに向かないカタナで傷付けるには工夫が必要のようだ。

 それでも多少は痛みを与えることができたのか、それとも僕が向かってくると思わなかったのか、猪の眼は怒っていた。そして吠える。

「グオオオオ」

 猪は頭を下げ、前足を確かめるように動かす。そして、跳びかかってきた。

(やばい)

 僕が思っていたよりも猪の飛び出しは早かった。慌てて右側に跳んで避ける。が、間に合わない。跳びながらカタナを横に構え直し、それで猪の牙を受け流す。

 ドン!

 猪の勢いに弾かれて、僕の身体は地面に叩き付けられ、転がった。牙の衝撃を受けたカタナを持つ手が痺れ、全身が痛い。

僕は痛みを確認しながら身体を起こし、その方を向いた。急いで打ち合わせした場所まで走る。その後ろから猪の脅威は走ってくる。追いつかれる。

 視界に入ったレックは、いつものように右手に持ったダガーナイフを目の高さに上げて、横にし、左手でその切っ先をつまんでいる。そのまま、腕を一度下に降ろしてから勢いよく振り上げた。

「壁!」

 レックの声が響く。

 ドオ!

 地響きと共に、僕と猪の間に分厚い氷の壁ができ上がった。

 ガン!

 突然出てきた壁に、僕を追いかけて、全力で走ってきた猪はぶつかった。氷の壁は崩れたが、猪の足も止まった。

 プロイはレックから少し後ろで跪いていた。左手で優しく地面を撫で、そして右手に持った杖の先を優しく地面に落とす。

「お願い」

 そうプロイが地面に話しかけると、猪の足元の地面が揺れた。そこから土の槍がでくると、それはそのまま下から猪の頭を貫く。

 ドスッ

 猪はそのまま動かなくなった。それを確認したかのように、土の槍は崩れて地面に戻った。土の槍に貫かれた頭から、血が流れだし、地面に染み込んでいく。

 あっけない終わり方だった。僕はなんであんなに緊張したんだろうかと思うほど簡単だった。

「ノイ、いい誘導だったよ!」

 レックは笑顔で話しかける。

「うん、うまく引っ張り出してたね!」

 プロイも笑顔でほめてくれる。

 そんなにいい仕事だったのだろうか。猪に跳ね飛ばされた僕には実感がない。

「そうかな」

 なんだか釈然としない。

「えっとね、ノイ。私達魔術師は頑丈じゃないし、素早くもないし、身体を使った戦い方は苦手なの」

 プロイは話し始めた。

「身体を鍛えればいいのかもしれないけど、その時間があったら精神を鍛えて魔術を磨きたいの。わかるかな」

 僕にもなんとなくわかってきた。

「だからね、レックも私も、その……ノイを信頼してるから」

 レックはそこまで言うと視線を逸らした。

「うん。ノイ、あたしもかっこいいと思ったよ」

 レックは僕を見ながら微笑む。今度は眼も笑っていた。僕は照れ臭くなり、猪に視線を移す。

 それにしてもこの猪はでかい。体長は五メートルくらいだろうか。

「これ、どうする?」

「肉は美味しいんだけど、解体はできないね」

 プロイも猪を見て、どうしようか悩んでいる。

「傷付けた首のところだけでも持っていこうか。あと牙」

 レックが提案する。

「その牙、いいね。武器に加工できると思う」

 僕は武器商人が骨で作ったナイフを売っていたことを思い出した。この大きさなら、いい小刀が作れそうだ。

「よし、ちゃちゃっと切り出しちゃおうか」

 レックは腰のダガーナイフで器用に牙を抜き、首の傷口から肉を取り出した。

「え? そのナイフで?」

 宝飾のあしらわれた魔法のダガーナイフを解体に使ったことに、僕は驚いていた。

「え? これは魚もさばくし、皮もはぐし、肉も切るよ」

 レックはあっさりと答える。

「魔法の道具だと思っていたけど」

「そうだよ。でもナイフだからね。使わないともったいないだろ」

 レックに豪快さを感じずにいられなかった。

「まだ晩御飯には早いから、先に行こう」

 肉塊を腰紐で結んだレックが元気に声を出す。

「今夜は猪とキノコの鍋かな。バーベキューもいいな」

「お腹を空かせておかないとね」

 プロイもご機嫌だ。僕達は先を急いだ。


 広間から洞窟になり、またしばらく螺旋状の下り坂が続いた。今日はほとんどがこの螺旋の下り坂をあるいている。広間と広間の間で、一時間以上の下り坂が続く。下り坂を歩くのは、地味に体力を取られる。話題もそんなに思いつかないので、会話も途切れがちになる。沈黙したまま歩くのは精神的にも疲れる。なによりつまらない。

 猪の脅威のいた広間から先の洞窟は、今まで以上に長かった。が、いきなり明かりが強くなった。洞窟の先がなにやら明るい。

「!」

 そこには門があり、閉められていた。

「え?」

 僕が門を押してみると開いた。

『第一階層』

 門の内側には、そう書かれた看板があり、その下には案内図があった。

『メディカルチェックはこちら』

 そうだ。今日のゴール地点に到着したんだ。僕達は顔を合わせて喜んだ。


    *


「お前さん達、全員、問題なさそうだね。それにしても、お嬢ちゃんたちは大したもんだ。怪我していないどころか疲れもない」

 看板の案内先にあった医院でメディカルチェックを受けていた。初老の医師が僕達の様子を見て、簡単な質問を受けた。

 僕には、猪に跳ね飛ばされたときの擦り傷があったが、軟膏も出してもらえなかった。怪我としてカウントしないということらしい。

「うん。満点だ。それじゃ、いろいろ説明しよう。その椅子にかけたまえ」

 初老の医師は話を始めた。

「私は冒険者で医師のデン。賢者だ。ここで試練を受けた冒険者見習いの相談も受けている」

 デンはお茶を飲み、話を続ける。

「君達が通ってきた道は、一番厳しいルートでね。距離もそうだが最後に弱い脅威がいる道になっている。何度も試練を受け直している冒険者見習いか、ギルドに推薦された者に与える試練なんだ。他のルートだと、脅威は出てこない」

 あれでも弱い脅威ということに僕は不安になる。

「なんとなくわかったかもしれないが、ここまでは養殖場なんだよ。蜘蛛とか猪とかキノコとかね。ご先祖様が地下で暮らしていた頃から、ここはそうなっていた。他のルートも同じだ」

 養殖場の蜘蛛を全滅させたかもしれないレックはちょっと焦った表情になる。

「それでここは昔からの居住区でね。この先にはちょっとした町になっている。でも買い物は禁止だ。この洞窟で働く人のための町だからね」

 お金を持っていけないのはそういう理由なのか。

「ただ、お前さん達が収穫してきたものがあれば、それは物々交換できる。キノコと猪の肉と牙、火の木もあるのか。うん、いい選択だ。時々蜘蛛の足を大事に持ってくる連中がいるが、あれは鮮度が落ちると臭くてダメだ」

 デンは僕達の持ち物を見て、満足そうにうなずいた。

「それと、試練の受験者には、一日の宿と食事を無料で提供している。猪肉は今夜、宿で燻してもらって、明日持っていくといい。キノコは下層でも採れる。天然のうまいのが採れるぞ。火の木はもう少しあった方がいいかな。宿に行ったら、もらうといい」

 宿で準備してくれるのを知って、僕達は安心した。グエンの説明で、野宿を覚悟していたレックとプロイは嬉しそうだ。

「それでだ。この下層も管理しているが、たまに想定外のこともある。そのときは逃げること。それと魔術師を先に逃がすのも前衛の仕事だから、ノイ、がんばれよ」

「え、あ、はい」

 突然の指名にちょっととまどう。

「さ、今日はここまでだ。宿でゆっくり休むといい。そうそう、宿はこの二階だから」

「え?」

 初見の冒険者見習いには、この話を最後にするのが定番になっているのだろう。デンはにやりと笑った。


「話は全部聞こえてたからね。先に渡しておくよ。あと肉を燻しておくから、その皿に置いてくれる」

 二階に上がると恰幅のいい女将さんが、カウンターに小さなバックパックを三つ並べていた。火の木も一束置いてある。

「それにしても、あんたたちやるわね。あの猪を一撃したみたいね。今日はその猪料理を振る舞うから、たっぷり食べていってね」

 もう話が伝わっているのか。

「あー、不思議そうな顔してるね。もうあの猪は解体して町の食堂に配られてるからね。喉から頭を一撃で吹き飛ばしたって、久しぶりに大技使える受験者が来たって話題なのよ。後で聞かせてね」

 確かにプロイの精霊魔法は強烈だった。僕が無力に思うほど強かった。でもそれは滅多にいない術者だからとわかって、ちょっと安心した。

「さ、部屋は二つ準備してあるからね。ノイ君はシングルね。一人部屋。プロイちゃんとレックちゃんはツインね。シャワー浴びておいで」

 女将さんはそう告げると台所に入った。カウンターを見ると、部屋の鍵がバックパックに添えてあった。

「そうそう、ノイ君は四階の部屋ね。女子は三階だから。鞄も持って行きな」

 台所から声が届く。ぶっきらぼうで、それでいて細かい心配りがありがたい。僕達は鍵の番号を頼りに部屋に向かった。


 シャワーを浴びて、準備されていた服に着替えた僕が二階に戻ると、女将さんは大きなテーブルに食器を並べていた。そのテーブルの端の椅子にデンが座り、酒を飲んでくつろいでいる。

「女の子は支度があるから、ノイ君はデンと話していなさい」

 女将さんは僕を見てそう言うと、また台所に戻っていった。

「やれやれ」

 デンは女将さんを見送ると、僕に話しかける。

「お前さん、今日の戦い方はもうちょっと考えた方がよかったな」

「え?」

「猪だよ。鼻の頭を斬ろうとして跳ね飛ばされただろ」

「え。あ、はい」

 見ていたかのように、デンは僕に語る。

「猪の皮は硬いのは知っているかな?」

 知っていた。

「それじゃ、柔らかいところを狙うのがいいんじゃないかな」

「柔らかいところ、ですか」

 僕は考えるが、柔らかいところなんて思いつかない。

「例えばだな、口だよ、口」

「口?」

「そうだ。口の中は柔らかいだろう」

 今一つわからない。

「君のカタナは、切り裂くだけじゃない。突くこともできる。そうだよな」

「あ、そうです」

「なら、どうする」

 そうか。

「口を突く、ですか?」

「うむ。半分正解だな」

「半分?」

「そうだ。口の奥には骨がある。今の君には、猪の硬い骨を貫くのはちょっと厳しい」

「はい」

 ごもっともです。筋力がまだ足りないことは自覚している。

「口の中で、骨のないところはどうだろう」

 僕は考える。

「頬、ですか」

「そうだ。そこに傷をつけてから切り裂くということが考えられる」

 なるほど。僕はうなずいた。

「でもね、一番の問題点は君がそこに気が付かなかったことで、魔術師に負担をかけたことだ。対峙する相手を見極めて後衛の負担を減らすのが大切だ」

 僕はうなずくしかない。

「魔術師がどんなにがんばっても、いずれは精神力を使い果たす」

 その通りでした。

「精霊術師は、体力を精霊に持って行かれる。これもまた限界が来る」

 反論できない。

「魔術師の消耗を防ぐのも、前衛の仕事の一つだ」

 そうだ。僕が感じた無力感は、プロイとレックに任せてしまったことなんだと気が付く。

「何ができるかなんてことは、経験しないとわからないかもしれないがね。実体験するだけじゃなく、本を読んで知識を積むのもいい」

「はい」

「本はギルドにある。剣士の体験談も、魔術師の体験談もな。自分の立場だけじゃなくて、魔術師の視点でも考えられるようになれば一人前だ」

「はい。ありがとうございます」

 僕はなんだか感動していた。もっと、自分にできることを考えよう。

「話はここまで。お嬢さんたちの支度が終わったようだ」

 デンが目配せして階段を見る。プロイとレックが楽しそうに話している声が聞こえたてきた。女将さんもそれにあわせて料理を運んでくる。

 今日はご馳走だ。

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