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ギルドハウスでの日常

 冒険者組合の地下から出入りすることを除けば、ギルドハウスでの生活は快適だった。雨も暑さもない。グエンの説明によると、一年を通して気温も湿度も変わらないらしい。その分、ダメになるという説明だったが、何がダメになるのかよくわからなかった。

 快適な寝室と浴室、くつろげる居間、歴史と脅威の記述された図書の並ぶ書庫、トレーニングに使えるちょっとした体育館。長旅をしてきた僕とプロイにはとても嬉しい場所だった。

 ギルドハウスでは基礎力の強化として、体力の強化をするようにトレーニングの指示がされた。確かに筋力をつけようとした努力をしたことはない。

「ノイ、お前さんは瞬発力しかないな。持久力をつけろ」

 同じ距離を同じ速さで走っても、ノイはプロイとレックが疲れる前にダウンすると、散々な言葉が投げかけられた。

「ノイ、スタミナないと私達が困るんだからね」

「ノイ、体力ないと困るぞ」

 いつの間にかプロイとレックは仲良くなっていた。その分、僕が何かと標的になっていた。いつの間にか呼び捨てにされていたのも不満ではあるが、それでも不機嫌に巻き込まれるよりはマシだと思う。

 レックに、初めて会った日にプロイを挑発した理由を訊いてみたことがある。

「ああ、あれね。同じ魔導師のプロイが、同い年だって聞いてたからね。だから気になっただけさ。それとね、ノイとプロイが仲良さそうだったからちょっとだけちょっかい出したくなった」

 僕にはやっぱりわからない。

「あはは。鈍感だな」

 僕の不思議そうな反応を見てレックは笑った。でも目は笑っていない。いつもの、いや、いつもよりも冷たい眼だ。

「それよりももっと力つけてくれよ。かよわい女の子二人を守らないといけないんだから」

 かよわい女の子が誰なのか、僕には心当たりがない。でもそれを口にしたらとんでもないことになるのもわかっていた。

「何か?」

「いいえ……」

 いいえしか言えない。

「それじゃ、どれだけ鍛えたか。試しにあたしの魔術でも受けてみるかい?」

 命がけだ。

「いいえ……」


 レックの得意な魔術は風ではなく水だった。僕は地下道で風の魔術を使った理由を訊いてみた。

「ああ、水を使ったらランプが消えるだろ」

 あっさりした答えだった。

「それとね。ここだけの話ね。あたし、プロイには負けないから」

 眼の冷たさが増した。


 ギルドハウスで一ヶ月トレーニングをすると、僕の持久力はそれなりに上がってきたことが実感できていた。

「そろそろ大丈夫か」

 僕の持久力を観察していたグエンはボソリと口にする。

「それじゃ、三人とも集まってくれ」

 グエンの呼びかけに、僕達は集まる。

「明日、冒険者組合の試練の申請をする」

「やった!」

「いえい!」

 プロイとレックは嬉しそうに顔を合わせると、手を挙げてハイタッチした。僕は当然のように置いてけぼりだ。

「それでだ。試練は二日間以上の日程になる。早く進めれば、初日に地下にある宿場町、第一階層にたどり着ける。そこで医者のチェックをして問題なければ翌日に下層に行くことを許可される。それで下層のチェックポイントに無事にたどり着ければ合格だ。ただ、お前ら三人はその下層、最下層に行かないとならない」

「最下層ですか?」

 僕は驚いた。初めて聞いたというゼスチャーでプロイとレックに目をやり、同意を求めた。

「そこ行くって、初めに言ったよね」

 プロイは不機嫌になっていた。

「え?」

「はぁ、これだから」

 プロイはうなだれて、でも続ける。

「私、最下層に行きたいから称号承継者を探しているって言ったよね」

「あ」

 僕は忘れていたことを思い出した。

「そ、そうだったね」

「いい加減だとはわかっていたけど、物覚え悪いし物忘れ激しいし」

 プロイは怒りの視線で僕を見下す。

 僕は目を合わせない。

 それを横目に、グエンは話す。

「レック。お前さんも最下層まで行くんだ」

「あたしもですか?」

「ああ。縁がある場所だ。行けばわかる」

「え?」

 レックは納得いかない顔をしたが、しぶしぶ同意した。

「ノイ、お前さんは二人を護るんだぞ」

 グエンは僕に念を押す。

「そうね。肉壁になってくれれば私達がなんとかするから生き残ってね」

「あたし達はかよわい乙女なんだからさ、頼んだよ」

 二人とも容赦ない笑顔でエールをくれる。

「頑張ってね」

「頼りにしてるよ」

 僕は笑うしかない。

「がんばります」

 引きつりながら、僕は笑っていた。今日は体力温存。明日に備えよう。

次から試練が始まります

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