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冒険者になった日

 帰り道は楽だった。どこに何があるかわかっている道は安心できる。気を張り詰めずに歩きながら、僕はぼんやりとプロイとレックを見た。

 アグニとクマーリーは魔法石の中に入り、それはプロイの杖に飾られていた。赤い魔法石の隣に、新しい黄色い魔法石が輝いている。杖の柄にはまだ空いている場所がある。いつか他の契約した精霊で埋まり、彩られるのだろう。

 レックのダガーナイフには、新しい丸い魔法石が輝いていた。脅威的な回復の魔術を引き出す魔法石。この先、冒険をする先で新しい魔法石に変わっていくのだろう。

 やっぱり、うらやましい。僕も何か手に入れたい。そう思いながら歩いていた。


「おかえり。無事でなによりだ」

 第二層の病院に着くと、デンが出迎えてくれた。

「それにしてもレックちゃんがあの魔導師の子孫だったとはなぁ。驚いた」

 デンは何が起きたか知っていたようだ。

「あたしも知りませんでした。グエンさんは知ってたみたいでしたけど」

「ほう」

「縁がある場所だって言われたんです」

「ふむ。縁か。お前さん達がここに来たのは縁か」

 デンは何か考え込んだように繰り返す。

「わしもその縁に乗っかってみるかな」

 デンは何かを考えている。僕は気になった。

「デンさん、何かあるんですか?」

「うむ。お前さん達があの『脅威』を排除してくれたからな。あそこは研究エリアにすることになったんじゃ」

「研究?」

「ああ。何が起きても迷惑がかからない場所だからな。魔術の研究にもってこいなんだ」

 『脅威』を生み出したような、研究だろうか。僕は何か不安になった。

「現役で『脅威』と対峙するような身体じゃなくなったがな。それでも極めたい魔術はなくならない。悲しい性よ」

 ため息交じりの言葉だったが、デンの目は輝いていた。

「何をするんですか」

「身体の傷を回復させる魔術だな。わしのような身体を壊した冒険者がまた第一線に戻れるような手伝いをしたいんじゃ」

 デンの目からは、強い意志を感じる。僕は言葉を探す。

「そうですか」

「あの場所なら、迷惑かけないからな。いろいろと試せる」

 デンの表情が変わった。僕には狂気に見えた。

「それはそうと、地上に戻って手続きだな。こっちだ」

 デンは立ち上がり、僕達を案内した。

「これは『失われた技術』でな。ここと地上はつながっているんだ」

 つながっているのは知っている。ここまで歩いてきた。

「縦穴があってな、そこを鉄の箱で移動するんだ。仕組みはわからないんだが、どうやったらどう動くというところまでは解明された。仕組みと原理を調べようにも、うかつに分解して使い物にならなくなったら困るからな。歯がゆい」

 デンは病院の奥にある部屋に入ると、鉄の扉を指さした。

「この上向きの三角を押すと箱が降りて、扉が開く仕組みだ」

 そう言いながらボタンを押した。

「この存在を知っているのは、ここで修練を受けた冒険者の一部とここの冒険者組合運営者の一部だけでな、お、来たようだ」

 鉄の扉が開くと、中は昼間のような明るい光で溢れていた。薄暗いランプに慣れた僕達の目には眩しすぎる。

「中に入ってくれ」

 デンは先に入り、僕達を促す。僕達全員が入ると、扉が閉まった。僕は狭い空間に閉じ込められたような気分になり、不安になる。

 ガクン

 突然、全体が揺れて、足に体重がかかる。

「え? なにこれ」「うお」「何だ?」

 僕達は動揺した。揺れたことの不安。身体がなにかおかしい。

「地上に向かっているだけだ」

 デンは涼しい顔でいるのを見て、僕達の不安は半減する。

「地上まで歩いたら二日かかるのが、こいつに乗るとあっという間でな。ただ、普段は研究者が調べるからほとんど使わない。いつもなら、冒険者組合の試練合格者も歩いて帰ってもらってる」

「今日はなんで?」

 僕は疑問に感じると質問してしまう。

「ああ、わしの足のせいだよ。気付かなかったかな」

 デンは自分の左足を拳で軽く叩いた。

 コン

 乾いた音がする。木を叩いたような音。

「数年前に左足を喰われてな。義足なんだよ。魔術を加えているから、少しばかり歩くには支障ないがね。長い時間はしんどい」

 デンはしばらく自分の左足を見て、そして僕を見て笑った。

「これだと周りに迷惑かけちまうからな。それで地下にこもっているのさ」

「そうなんですか」

「悪いことばかりでもないさ。命は助かったし、今じゃ次の世代を応援できる。応援した若者が成果を出したって話を聞くだけで酒が美味くなる」

 デンが話を終わると、それまで感じていた身体の重さがなくなっていた。

『チン』

 軽い鐘の音がすると、鉄の箱の動きは止まり、扉が開いた。

「さ、着いた。案内するから着いてくるがいい」

 デンはそのまま箱から出て歩き始めた。


『コンコン』

 デンは冒険者組合の建物の奥にある扉をノックした。重厚な木の扉だ。

「入ってくれ」

 中から低い男性の声が返ってきた。それを合図にデンは扉を開いた。

「合格者を連れてきたぞ。それと相談がある」

「ご苦労。相談は後でいいか?」

 部屋の奥には初老の男性が大きな机に積み上げられた書類を眺めて座っていた。

「ああ、後でいい。関係者は来てるのか」

 デンは机の前に据えられたソファーの上座に遠慮なく座って、僕達を手招きした。

「そろそろ来るだろう。君達も遠慮なく座ってくれ」

 初老の男性は書類を見ながら僕達も見た。ゆっくりと観察している。

「遠慮なくと言われたら、遠慮しないでくれるとこちらも気を使わずに済むんだが」

 どうしたらいいかわからずに戸惑っている僕達を見て、男性は声をかけてくれた。僕達は慌てて手前にあるソファーに座る。デンは僕の正面で、ゆったりとくつろいでいる。

「お、帰ってきたか。無事でなによりだ。うまくいったらしいな」

 背後から声がした。グエンだ。僕達は一斉に振り向いた。

「成果はまずまずってところみたいだな」

 そう言いながら、グエンも僕達の向かい側、上座のソファーの端に座った。

 コンコン

 ノックと同時に扉が開く。

「失礼します。みなさんお揃いですね」

 若い女性が書類を抱えて入ってきた。

「うむ。それじゃあ始めようか」

 机の書類を置くと、初老の男は立ち上がり、僕達の向かいのソファーの真ん中に座った。

「私はファラン。冒険者組合ノンペン支部の代表理事をしている。君達が試練を達成した報告を受けたよ。おめでとう。ノンペン支部は君達を歓迎する」

 僕達を見て、ファランは笑顔で続けた。

「それと、グエンのことだからロクに説明はしてないと思うから私から説明する」

 ファランは横目でチラリとグエンを見てから僕達に視線を戻した。グエンは目を合わせない。

「君達はギルド『隠者』の推薦で試練を受けているので、『隠者』のメンバーとして冒険者組合に登録される。これは初耳かな」

 僕達はグエンを見る。グエンは目を合わせない。

「ふむ。些末と言えば些末だが、手続きが異なってくるのでね」

 全員がグエンを見る。グエンは天井に目を移す。

「それじゃダムさん、書類を配って」

 ダムと呼ばれた女性はテキパキと書類を並べる。僕達はグエンを見ている。

「通常の、ギルド推薦のない場合は冒険者の登録をするだけなんだがね。ギルド推薦だとそのギルドとの契約も同時にすることになる。我々はその立会人になるんだ。デンさんに来てもらったのも立会人になってもらうためでね」


 僕達はこの日、冒険者になった。

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