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ゲームがお仕事  作者: ぶぶさん
『始原の原』
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白紙の経歴書

コツコツ書いていきます。

「なんじゃ! お主ら、それ以上近寄るでないぞ。何? 本が重そうだ、持ってあげようか? 痴れ者が! これはワシの神具、命そのものじゃ! ええい! ワシを誰だと心得える! 『神罰(ブックエンド)』の餌食になりたいか⁉︎」


 シオンが幼女を包囲してるダイバーに向かって走りだした。慌ててオレも彼女に続く。おいおい、離れちゃマズイんだろ。


「どいて」


 彼らの元に着いたシオンは、その通った声を彼らにぶつける。声に気付いたダイバーたちが振り向くと、その隙をついたんだろう、幼女が飛び出しシオンの背後に隠れた。

 シオンも小さいが、幼女はさらに小さい。何だか妹を守るお姉さんみたいだな。


「娘よ。良くやった、褒めてつかわそう」

 妹役の方が偉そうだ。


「皆様方、NPCをお囲みするのはおやめになった方がよろしいかと存じます。もしかしたら、本日のお給料に響くかも知れませんよ?」


 いつの間に近くに来たのだろう、キミヒトがダイバー達に忠告する。え、こんなのが給料に響く事があるのか。基準がわからない。何せよ、お金は少しでも多く貰わないと困る。


「人形なんか庇いやがって、お前プレイヤーか?」


 一人の男が食ってかかる。コイツ顔のバランスがおかしい。輪郭は頬骨の出た横に広い顔。その顔には妙に大きい二重の目に小さな鼻、そして厚い唇が張り付いてる。福笑いのパーツを間違えて、作ったと言われたら納得出来そうな顔だ。

 怒りのエモーションでも使ってるんだろうが、効果はなさそうだ。キミヒトよりも小柄で猫背。さらに腰まで引けてるので、かなり小さく見える。


「困りました……そうですね。タスクさん、ちょっと宜しいですか?」


 キミヒトが手招きをしてオレを呼ぶ。何だ何だ?


「ひっ」


 食ってかかった男が怒りエモーションのまま小さく声を上げ、後ずさる。


「キミヒト、なんか用か?」

「御足労をおかけしました。実はちょっとおかりしたいものがありまして」

「何だ、オレは貸せそうな物持ってないぞ」


「では、おかりしますね。どうでしょう、ここは彼の顔に免じて許しては頂けないでしょうか?」

「おいコラ! キミヒト、おかりしたいものってオレの顔の事かよ」


「そうですよ? ちょうど良いところにありましたので」

「爽やかな笑顔で言うなや! この顔は生まれつきだ何か文句あっか?」

「え?」


 え? 周りがざわつく。「マジで」とか、「悪役(ヒール)演技(ロール)じゃないのか」とか、「お姫様かわいそう」とか聞こえる。誰だよお姫様って。


「こ、ここはお前の顔を立ててやろうじゃないか」


 男は早足でオレから離れると途中で足をつまずかせ倒れる。そういえばアイツ最後に入ってきたヤツだったな。


「どうも、ありがとうございます。お陰で八方丸く収まりました」

「七方だ、オレのところは尖らせたままにしてくれ」


 オレの心はトゲトゲのギザギザだ。


「小僧も良くやった。褒めてしんぜよう。後な、ワシはお主の顔は好きじゃよ。嘘偽りのない生きた顔をしておる。だから、落ち込むでない。お主には必ず良い縁が結ばれる。安心せい」


 尖った心を幼女が癒してくれる。ここに来て初めて優しい言葉をかけられたかもしれない。

 何だか目の奥から温かい物が溢れ出そうだ。


「良し良し、これで話が始められそうじゃな」


 そうだ、この幼女は何者だ。短い袖で目をこすり、気を引き締める。


「先ずはじゃな。ワシの名は『シエンティア』、知識を司る神じゃ。子らよ、控えるが良い。ワシは見下ろされるは嫌いじゃからな」


 幼女は神様だった。オレに優しい言葉をくれたのはシエンティア、様か。


 神様の言葉に真っ先に反応したのはシオンだった。膝を揃えて畳んだ座り方、それは正座。背筋を伸ばしちょこんと座っている。何でそんな座り方を選んだんだよ。続いて、キミヒトも正座する。そうだな、神様の面前だ。オレも真似するとしよう。座って見上げると、神様は目を細めて満足そうにしていた。


「よしよし、お主らは良く分かっておる。不届き者もおるようじゃが、それを正す時間も無い。話を進めよう。……先ずは、お主らに詫びをさせてくれ。今まで苦労をかけた、全てはワシらの不徳の致すとこじゃ」


 神様が謝ってる。というか、何で謝ってるの? 神様に何かされた覚えがないんだが。


「そして、さらなる負担をお主らに強いてしまう事、許して欲しい。現在、ここ『オペテリス』は『ゼノ』からの苛烈な攻撃を仕掛けられておる。彼奴は天界へと登る門を奪おうと企んでおるのじゃ。これをお主らに阻止し、世界を救ってもらいたい」


 あ、これって、オープニングイベントなのか。世界を救う。うーん、まるで想像つかなんな。所詮、オレは小市民。世界は勇者様にお任せしとこう。


「しかし、亜神のお主らでは、()の理を持つ彼奴らに対抗するには力が足りぬだろう。本来なら全ての知をお主らに授けたいが、ワシも世界の理に縛れる身。それも叶わん。だが、ここにいる者達に、神術の理を与えよう」


 神様の周りから青白いの光が立ち上がり、分厚い本が重力に逆らい浮き上がる。本は誰も触れて無いのにパラパラと自動的にめくられて、あるページでピタッと止まった。


「知識の書、第四章五節第十二項閲覧開始……終了。さあ、受け取るが良い、後天的資質(ギフテッド)!」


 神様の目の前に青い光のリングが浮かぶ。リングは二重で中には二つ、外には六つの球が付いておりグルグルとリング上を回転している。中央には正方形とひし形を合わせた星っぽいのがあった。これが魔法陣ってやつなのか?

 魔法陣の中央から光の鳥が何羽も飛び出す。空を旋回するとオレ達の元へ舞い降りてきた。鳥はツバサを羽ばたかせなが目の前で停止する。その足には丸められた紙がつかまれていた。


「受け取るが良い。それが一枚の紙で終わるか、はたまた書になるか。全てはお主らの努力次第じゃ」


 これを取れば良いのか? 紙を取ると鳥は光の粒になって消えてしまう。


【スキルシートを獲得しました】


「この紙はスキルシートって言うのか。どれどれ、って白紙だな」

「そりゃ、当たり前じゃろ。お主らの行いによって力が覚醒するんじゃ。まあ、どうしても力が欲しいと言うのであれば神殿に来るが良い。格安で授けてしんぜよう。では、またの」


 神様は再び魔法陣を展開させて消える。時間が無いのは嘘ではなかったらしい。よいしょと立ち上がり、膝から下に血液を送る。正座なんて久しぶりにした気がする。

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