ホット
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三十六まで続きます。
「モウカ様、この度は誠に申し訳ございませんでした」
ダニーがモウカに対して謝罪する。
「ダニーだったですか。良いのです、逆に聞けて色々スッキリしたのですぞ。おかげで目標が出来たのです、わたしは森から出てヒュムたちの事をいっぱい見て理解するです。そして、いつか森に帰ったら眷属達に伝えます。罠ダンジョンだなんてもう言わせないようにするのです! だから餓死は勘弁なのです、早く食事にするですぞ!」
「そんなに腹減ったのか、じゃあオレの分も食うか? あでっ」
「今、いい話をしてるですぞ!」
頭を叩かれた。せっかく流れに乗って場を和ませようとしたのに、ヒドイ。ダニーがにこやかにそんな光景を見ている。なんだ優しそうな人じゃないか。
「ただいま用意します。軽くという事でしたので『ホットサンド』を御用意させて頂きました」
「ホットサンド? 聞いた事がないな」
「今回のホットサンドは薄切りにした『食パン』で『トマト』『レタス』『ハム』『チーズ』を挟みトーストした物になります」
「なんや、全然知らんアイテムがいっぱい出てきたわー。あかん脳みそが心太になってしまう、聞かへんようにしとこ」
この前、ハンバーグを食べたばかりなのにチーズやハムなんて食べて良いんだろうか。
「ダニー、嫌がらせか?」
「コマンディール、何の事でしょう? 私にはわかりかねます」
田中さんが顔をしかめ、ダニーさんがしれっとした顔をしている。
「そんな事はどうでも良いのです! 早くするですよ!」
「失礼しました」
テーブルの上に皿が乗せられる『ホットサンド』は三角形に切られており。切り口に見える赤やピンク、緑、黄色はとても綺麗だ。チーズとハムの味を思い出してヨダレがあふれる。一つ、手にするとほんのり温かく芳ばしい香りがする。パンから臭うのはもしかしてバターか? 何という贅沢。このふわふわとした食パンにはバターが練りこまれているのだ。どんな味がするんだ?
まずはパンだけをかじる。甘い、何という事だ。パンはこんなにも甘くなるのか⁉︎ しかも、このパンが焼かれてるのは外側のみ。固さと柔らかさ、苦味と甘味が合わさる。今度はたまらず大きく噛み付く。……生きてて良かった。ハムとチーズの塩味、トマトの酸味
、パンの甘味にほんのりとレタスの苦味。ハムとチーズがトマトの果汁で流されてしまう。ああ、もう一度あの味に会いたい。残った全てを頬張り、再び幸せを噛みしめる。さてもう一つ! そう思って皿を見ると無い! オレのホットサンドはどこにいった?
隣を見ると、両手にホットサンドを持ったモウカの姿がオレの視線に気づくとモウカがニヤリと笑う。
「タスクの言葉に甘えていただくですよ、はんむぅ」
「なんだとー! 返せ、返すんだぁ! それはそれはオレんだぞぉ!」
「ふもっふもふっもふ」
「モウカちゃん、口に入ったまま喋るんはお行儀良くないで? オニさん、あたしの分、食べるか? ちょっとあたしには塩味がキツイみたいや」
「天使⁉︎」
蛍から皿を受け取る。オレの方に皿を引き寄せる途中に手が伸び、ホットサンドが奪われる。なん……だと……。
「主人の下げ渡しをもらえるのは、従者だけですぞ。それを横取りするなんて許されない事なのでふぅ」
モウカの口の中にホットサンドが消える。ああ! 何てことを⁉︎
「あの、まだ、たくさんありますからお代わりお持ち致しましょうか?」
「是非!」「ですぞ」
二人目の天使のおかげで血を見ることなく無事に軽食が済んだ。ちまちまと子リスみたいにパンを食べる田中さんの姿は、なぜだかとっても小さく見えた。
お読みいただきありがとうございます。
食事の描写で終わってしまった。