WANTED
予約投稿の練習
オレは無実だ。
扉を抜けた先は広場だった。門から出る人達の一時的な待機場所なんだろう。馬に引かれた荷台が集まっている。守衛達が馬車を慌ただしく検分している。商人達が門を抜ける準備をしているのだろう。そんな人達を目当てに、軽食を売り歩く少年が声を張り上げて精力的に働いていた。そんな広場の一画には、両手を広げても端から端まで届かない大きな掲示板が立てられている。その隣に胴ぐらいのサイズの紙が一枚貼ってある掲示板があった。そこに書いてある文字は。
『WANTED タスク 一〇〇M DEAD or ALIVE』
さらに人相書きと思われる絵が描かれているが、オレとは似ても似つかない物だった。合ってるとすれば髪型はぐらいだろう。ツンツンと尖った硬そうな髪。眉は細く吊りあがり、目は刃物様に鋭い。鼻は大きく、口は全てを嘲る様に歪んだ笑みを浮かべていた。
「似てないのです! こんなんじゃ納得いかないですぞ!」
「どういう意味だよ⁉︎」
「あたしが描きなおしてあげよか?」
「止めてくれ!」
大きな声を出したせいで、待機してる人達からの注目を集めてしまった。守衛がこちらを見ている。オ、オレは無実だ。さっき証明されたばかりなんだぞ。人目を避ける様に顔を左右の手で隠し、大きな看板を見る。そこには複数の人物画が貼られていた。その中に見覚えのある人物が数人。
「あれ? この人知ってるぞ。オレを森に投げ込んだ先輩だ」
「あたしを連れて行った人もいてるわ」
「ヨークス=タン。名前があるのはこの人だけか。なになに情報提供求む。提供者には金一封、ヒュムの為手出しは無用、か」
オレもヒュムなんだけど、生死を問わずなんだよなー。この扱いの差は……いやいや、だからオレは無実だって。
「オニさん、これは言いにいかんとあかんね」
「そうですぞー。タスクの絵を差し替えてもらうのです!」
「違う! これはどう見ても別人だろ? だとしても、何がどうなってるのか調べないと、おちおち街中をうろつけないか」
「それもあるけど、あたし達無一文やねん。ヘビの皮を売るのもどこやかわからんし、金一封もらわんとモウカちゃんが餓死にするかもやで」
「そういえばお腹に違和感があるのです。これが空腹という物なのですか……あの少年が売ってる物が丁度百。タスク、いざとなったらお願いするですぞ」
軽食レベルの値段で生死不問にされるタスクさんには同情しておこう。モウカは『捕獲』されてから、腹が減るようになったらしいな。
「空腹度ちゅうのはあるんやけど、これがのうなったらどうなるかわからん」
「蛍がログインしてない時の飯はどうするんだ? 放置して餓死じゃ浮かばれないぞ」
「それもわからん。一応、モウカちゃんもアイテムボックス持っとるみたいやし。十日分ぐらいは確保しておきたいところや」
「あわわわ、急ぐですぞ! モウカちゃんぴんちですぞー!」
自分がどれだけ危ない状況にいる事を気付いたモウカは大慌てだ。
「待て待て。どこに行けば良いのかもわからないじゃないか。守衛に言えば良いのか?」
「オニさんオニさん、ここに『バスターズギルド』って書いてあるで、きっとここやな」
「ぬおー、場所を聞いてくるのですー!」
モウカは近場にいた、軽食売りの少年をとっ捕まえて場所を聞いているようだ。お礼にヘビ皮を渡してる。嬉しくないお礼だな、少年もなんとも言えない顔をしている。せめて感謝の気持ちだけでも送っておこうと、手を挙げて頭を軽く下げる。すると少年は凄い嬉しそうな顔をして、お辞儀をしてくれる。良いねぇ、こういうのは気持ちが良い。思わずにやけてしまう。お金が入ったら軽食を買わせてもらおう。
「タスクー! わかったですぞー! あっちの通りをまっすぐ進むと良いらしいですぞー!」
笑顔が引きつった。あんまり、大声でオレの名前を呼ばないでほしい。間違えられたら困るじゃないか……名前って大事、被らないように付ければ良かった。
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