一路、テリオスへ
描写と説明で文字数が増える。
『迷いの森』、モウカの説明から察すると、どんな職業についたら良いか迷ったPCに職を与える場所だったらしい。心配した初心者狩りの待ち伏せもなく。森を抜けた俺たちは、モウカの案内を受けて、森に沿うようをひたすら南下している。
森の反対側には小高い山があった、山の緑がとても綺麗だ、手前の草原には所々に様々な色の花が咲いている。風が微かに甘い蜜の香りをまとって吹いてきた。
「テリオスって、後どれくらいで着くんだ?」
何も反応がない。モウカは何故かすっかりと気落ちして足取りが重そうだ。もう隠す必要もないのか大きなキツネ耳も出たままヘタレてた。オレの着ていたレザージャケット。刺繍が消えてしまったジャケットをしっかりと抱いている。中には蛍が着ていた初期装備のシャツを着ている。
刺繍といえば、蛍の胸の刺繍も消えてしまっていた。縁があれば発動する隠し能力、きっと『迷いの森』から抜けられる能力を使ったせいなんだろう、と思う。それに関しては絶対に秘密と言われてしまった。
「モウカちゃん、大丈夫か? もしかして『捕獲』は迷惑だったんちゃうか?」
「まむ! そんな事はないですよ。ちょっと、ちょっとだけ痛いんです」
「ごめんモウカちゃん、助けるには必要だったとしても悪かった許してくれ」
刃物で切り刻まれたんだ、回復しながらとはいえ、キツかっただろう。
「良いのです。こうして一緒に居られるだけでも奇跡ですからね。うぅ……」
「しかし、分体か。初めから言ってくれたら、こんなに悲しまなくても良かったのに」
「……そうですか、悲しかったですか」
「そりゃー、もう。これ以上なく悲しかったぞ」
モウカの少し耳が持ち上がる。
「二人ともこの件に関しては絶対に秘密にするですよ、分体なら死んでも大丈夫という訳ではないのです、作るには相当の時間と労力がかかりますし、実際に死を感じるですぞ……全く不死のヒュムが羨ましいのです」
「オレたちが不死?」
「オニさんオニさん、ここはPCが死んだらお終いの世界じゃ無いって事やねん。死んだら、次のゲームを選べる半年後まで待たんとあかんのは嫌やろ?」
蛍が耳打ちしてくる。成る程、そういう事か。
「……あたしも仕事でゲームするん初めてなんやけど、NPCってこんなに人っぽいんやね。モウカちゃんがNPCやなんていまだに信じられんわ」
「そうだな、オレもそう思う」
出会ったNPCは神様とモウカの二人って言って良いのかわからないけど、ちゃんとそれぞれに意思や考えを持ち生を感じる。モウカを殺した時は悲しかったし、辛かった。そして、助けられたは本当に嬉しかった。もう本当に存在する別の世界と言っても、間違いじゃないかもしれない。
「二十年ぐらい前にテリオスという街があった、とだけは眷族から聞いたのですが、わたしは行った事が無いのでどの位とはハッキリとは分からないのですが、そろそろのはずですぞ」
話からするとモウカは五十年以上は生きているらしいが、どう見てもオレたちと変わらないように見える。精霊って年を取らないのかね。
「モウカちゃんがいなかったらテリオスに行けなかったな。ありがとうな」
「んっふっふー、感謝するですよ」
「オニさん、お姫様からフレンドカードはもろうて無かったんね。あんな人前でいちゃいちゃしてるから、それなりの仲やとは思うたんやけど」
「……黙秘する」
シオンからのメッセージはあれ以来届いてない。蛍に教えられて初めて知ったんだが、パーティと違って、フレンドカードには登録名が書いてあるらしい。シオンにくれよって言ったのは失敗だった。偽名を使ってるシオンが渡せる訳が無かった。あの時、ちょっと笑ったのは困った笑いだったのかもな。
「蛍、友達にならないか?」
「うーん、フレンドカードは考えさせて貰えんかな? オニさんとは友達やとは思うし、そんな事はせいへんとは思うけど、常にログイン状態が見られると落ち着かんというか、不安というか」
「ま、女性は特にそうだよな。オレは気にしないから必要な時は通信でもメッセージでも送ってくれよ」
「一方的になってしもうてえらいすまんねー」
そして、フレンドカード扱いはこれが普通だ。ほいほい渡せるもんじゃなかったらしい、取り扱いには注意が必要だ。
……本当に機械は不親切だ、もっと気楽に使える機能にしてくれれば良いのに。
「道があるですぞ」
地面がわずかに凹み茶色い地面が露出していた、一方は森に続いておりもう一方は森から離れるように続いている。
「これどっちに行けば良いのかな?」
「こっちの森の方は『始原の原』ヒュムたちが降臨する平原に繋がってるですぞ」
「それなら反対側やね」
草原の道を進むと、小高い丘の上に石を積み上げて作った塀が見えてくる。直線的ではなく、長方形の塔を複数並べて建て、その隙間に石の塀を作っているようだ。あれは見張りだろうか、塀の上には金属鎧姿の人間が等間隔で数人立っている。
道の先には大きな門があり、今は閉じられてる、木の板で作られ金属で補強されている扉はとても頑丈そうだ。その大門の脇に小さな通用口があり、そこから人が出入りしている。
通用口の反対には立派な石造りの建物があった。個人用のゲームで見た教会という建物に似ている。スピードのコントロール出来ずに、ガラス窓を突き破って、NPCの神父さまと熱いベーゼを交わした記憶は新しい……忘れよう。その建物には塔が一つあり、円錐型の屋根の下には鐘が吊るされている。ずいぶんと立派な守衛所だなと、思っていると突然鐘がカーンと鳴った。
すると教会から金属鎧を着た人間が出てくる。塀の上にいる人間と同じ鎧だが、マントの色が違う。守衛はなのかな?
男はオレたちに気づくと、こちらに向かってきた。男は三十代ぐらいだろうか、軽いクセのある金髪の勇ましい顔つきをしている。身体は鍛えられており、とても強そうだ。
「ヒュム様、テリオスへようこそ。守衛長のカールと申します、テリオスへの立ち入りをご希望ですか?」
テリオス第一街人は守衛の偉い人で、そんな人に様付けされるヒュムって、一体何者だ? あ、俺たちだった。
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