迷いはない
ラストです。
「待たせたな!」
「タ、タ、タスク⁉︎ どうしてここにいるですか⁉︎」
慌て過ぎて切り株から転げ落ちるモウカ。
「『迷いの森』を抜けたはずですぞ。一度抜けたら二度とは入れないはず、どうしてここにいるですか⁉︎」
「ちょっと心残りがあってな。また、迷っちゃったらしいぞ」
「心残り? わたしにトドメを刺しに来たんですか?」
モウカが細い目をさらに補足する。その途端、頭に大きなキツネの耳が生えた。
「違うぞモウカ、お前を誘拐いに来た!」
モウカが素早い動きでオレの脇を通り抜けようとする。予想通り!
『敏捷強化』」
全力でモウカに駆け寄る。コントロールはバッチリ、むしろ遅く感じるぐらいだ。
「なんですとー」
「すまんな。ちょっと乱暴するぞ」
モウカに組みつく、絶対に最後の部屋までは行かせない。オレに気付かれたからフラグが立った。そして、最後の部屋にモウカが辿り着くと殺さなくてはいけない。
「──我が眷属よ我が声に集え『眷属召喚(コールファミア」
モウカの横に巨大なキツネが現れてオレに突撃を仕掛けてくる。
「モウカ、自動車って乗り物を知ってるか?」
「何の話ですか⁉︎」
「あれって飛ぶんだぜ」
キツネの突撃を避け、その勢いに任せてモウカを上空に『投擲』する。
「きゃああぁぁぁ!」
その間に『ロングソード』を装備! 目の前のキツネを『迎撃』で切り刻む! あんなに苦戦したキツネはアッと言う間に光に変わる。
モウカは身体をくるりと回転させ、綺麗に着地。そして魔法を使おうとしてる。それはさせない!
「──怒り狂う精霊に全てを委ねよ、さすればモガ……」
詠唱をしているモウカの口を『攻撃妨害でふさぐ。
「『敏捷強化』」
効果時間は確認済み、魔法をかけ直して時間をリセットする。
「『鎧強奪』ちっ、失敗か。これで上手くいけば良かったのに。モウカ、すまんな」
ヘビに使用して『鎧強奪』にはクールタイムがある事がわかっている。
「だから何の話ですかー」
「フクの話だ。モウカ、お前は火属性だけどさ。服は何属性だ?」
「は?」
左手に『ロングソード』を移動させる。そして右手に火属性の『大ナタ』を装備。オレはここでは『両利き』なんだよ。
「大人しくしてろよ。怪我するぞ!」
右と左で交互に切る切る切る切る切る。モウカの命(赤)は回復減少回復減少回復。そして、モウカの着ているシャツをさっき返してもらった『ヘビの毒液』で覚えた『鑑定』で見ると、みるみるうちに耐久値が減っているのがわかる。
あと少しでパージしそうなところで攻撃を止め武器をしまう。モウカに組み付きシャツを脱がしにかかる。
「だから婦女暴行は極刑って言ったですよ!」
「大人しく脱がせろ! 怪我するぞ!」
「なんか既視感があるですぞー!」
「オレに任せろ! おっりゃぁぁ!」
「ぎゃー、パージしちゃうですぞ!」
存在を知られたら終わり。わざと大声を出して、近づく足音を消す。そしてついに、シャツの耐久値は黒になり光に変わる。
「『捕獲』やでー、モウカちゃん」
間延びした声。そう、モウカに気づかれなければ『捕獲』が出来るんだ。モウカの後ろには、お下げ髪のいつも眠たそうな顔をしている、蛍がモウカの尻尾をつかんでいた。
モウカの身体と蛍の身体。両方が光包まれる。光が消えると蛍がつかんだ、右手の甲に炎の刺青が浮かびあがる。モウカの『捕獲』成功だ!
【『迷いの森』ボスが消滅しました。後五分で脱出します】
「うぉおおお、しゃぁぁ‼︎」
「やったで、オニさん。おお? なんや新しい職になったで」
モウカが、地面にへたり込んで放心している。まあ、そうだろうな。本当の本当、偶然の偶然が重なった結果がこれだからな。オレはモウカにジャケットかけてやる。あれ? 刺繍が消えてる。……今は良いか。
「……なんで、蛍ちゃんもここにいるのですか?」
「あんなー、運動機能を通信する装置がイカれててな。影響が大きいと判断されて、強制ログオフされてたんよ。修理に三日かかったわ」
本当に偶然、オレが強制ログオフしてから、すぐに蛍も強制ログオフされていた。結果二人とも『迷いの森』からの脱出はされなかったという訳だ。どこか歯車が一つでも狂っていれば、この結果には辿りつかなかった。
「どうやら、オレたちは縁があるみたいだぞ。ほれ、お前に返すよ」
オレがモウカに渡したのは、改造された『黒いローブ』、『上位火精霊の毛皮』二つ、『火精霊の毛皮』だ。
「もう、形見じゃ無いからな。自分で持っとけぇ!」
声が上ずる。ダメだ、もう泣いちゃいそうだ。
「モウカちゃん、オニさんから全部聞いたで。あたしどタマにきてるで、なんか言う事あるやろ⁉︎」
「いえす、まむ! 二人とも酷い事させてゴメンなさいなのです。……タスク、泣いてるですか?」
「泣いてないぞ! 太陽が目にしみただけだぁ!」
「……これが『鬼の目にも涙』ってヤツなんやね」
誰が鬼だ! 泣くぞ⁉︎
──もうここに迷いは無い。さあ、次に行こう。
矛盾がないといいなー。
そして、次の章を考え中。小説的な書き方は無理かもしれませんが、頑張って書いてみます。