後悔
本日1回目の更新
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後二つは夕方に
「祐様、給料明細の確認はされないのですか?」
「良い。腹が落ち着いたらログインするから用意してくれ」
「許可出来ません。祐様、は強制ログオフをされております。ペナルティとして三日間のログインが禁止されてます」
「ざっけんなよ! 蛍にモウカの事言わなきゃいけないんだよ。オレが、オレが殺したんだ」
胃から食べた物が戻ってくる。絶対に出すもんか。
「蛍? モウカ? 女性の方ですか?」
「だったらなんだ……」
「いえ、何でもございません。ログインは許可出来ません。ですが、食後にドライブに行きましょう」
何言ってんだコイツは。ここから出る事なんて出来ないだろうに……。
「キキーモラを馬鹿にしてますか? 心外です。ご一緒にゲームをしましょうとキキーモラは言っています」
「は? どういう事だ?」
「MMOではなく、個人で行うゲームです。キキーモラはベットメイキングをしてまいりますので、身体をお清めて下さい」
「おい!」
早い……あんな動きも出来るのか。あっという間にログインルームに消えるキキーモラ。オレはやるとは言ってないんだがな。とりあえず、シャワーでも浴びるか。
シャワーを浴びて頭の油を落とす。一日入らないだけで気になるなんて、オレもここの生活に染まってきてるな。
三日ログイン出来ないのか、蛍は急にいなくなったモウカとオレの事をどう考えているんだろう。オレがモウカを殺したと知ったら、どう思うんだろう。非難する? ゲームだから仕方ないって言う?
「祐様、お着替えの準備が整いました。介助が必要な場合はご遠慮なくキキーモラにお申し付け下さい」
「……介助はいらない」
思考に邪魔が入る。シャワーを止めて身体を拭き、新しく用意された着替えに袖を通す。用を足してからログインルームに行くか。
便座に座り込む。もっとオレが上手く動けてたら、モウカを殺さなくてもすんだんじゃないか。裏ボスなら表もいて、表ボスを倒したら蛍がモウカを『捕獲』して、そんな未来もあったのかな。
「祐様、お薬がご入用ですか? また、介助が必要な場合はご遠慮なくキキーモラにお申し付け下さい」
いつもよりしつこいな。トイレから出ると目の前でオレの顔をジッと見るキキーモラがいる。キキーモラは古い型のアンドロイドで人の顔を追尾する機能が備わってるらしく。遠慮なしにオレの顔を見続ける。夜中トイレに起きたら、オレの顔を覗き込んで全く微動だにしないキキーモラを見てから、少しトラウマになってる。
「祐様、ベットに行きましょう。介助が必要な……」
「いらん!」
オレはベットに座り込むと隣にキキーモラが座る。
「何をしてる?」
「祐様、横になって下さい。キキーモラもVR装置に接続します」
「オレはやるとは言ってないぞ?」
「介助が必要ですね。お任せください」
キキーモラはアンドロイドらしい強い力でオレをベットに押し倒し、VR装置を起動させた。首から下の感覚が抜ける落ちる。目の前が暗転して、気づけば自動車と呼ばれる旧世代の移動手段として使われていた物に座っていた。周りは霧で覆われて何も見えない。
「祐様どちらに行きますか? 海ですね、シートベルトをお締め下さい」
「おおい⁉︎」
運転席と呼ばれるシートには何故か袖のないチェックのワンピース姿になったキキーモラがいた。自動車が発進すると反動で後ろに身体が持っていかれる。車は霧を抜けて、古い町並みを走る。一つ一つの建物が高さも大きさも素材も全く異なる建物だ。平らな屋根と三角の屋根が混在してて不思議な気分だ。
そんな建物たちがぐんぐんと後ろに流れていく。オレが『敏捷強化』を使った時みたいだ。
「祐様楽しいですね。では上に入りましょう」
上にも道があるのか、この道の素材は何で出来てるんだろう濃い灰色の道に、よくわからない白やらオレンジやらの線が書いてある。
登り坂の手前に緑の四角い板があった。白い顔料で色々書かれてるみたいだ。何が書いてあるか見ようとしたが、あっという間に通り過ぎてしまった。
──そこからはあまりよく覚えていない。信じられないようなスビードで加速する自動車は、周りに走る自動車を次々と抜かす。ギリギリですり抜けたり、かすったり、何故か坂のついてる自動車に乗り上がり自動車が宙を舞ったりしたと思う。でも、隣にいるキキーモラの目が、いつものガラスの目ではなく、前を向きキラキラと輝いて見えた事は、何故か良く覚えてる。
キキーモラはアンドロイド(病)です