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ゲームがお仕事  作者: ぶぶさん
『迷いの森』
24/36

現実世界

本日連続更新ラスト

遂に一話で出た人が登場。一番のお気に入りかも知れません。

3/3

 「お帰りなさいませ、(たすく)様、お仕事お疲れ様でした」


 聞きなれた静かな声、白い天井に薄緑色の壁……ああ、戻ってきたのか。


「祐様、本日は明二時からお仕事を開始すると記憶(メモリー)されていましたがお間違いないですか?」


 ジッと瞬きもせずにこちらを見る無機質なガラスの瞳。オレの苦手な瞳。


「キキーモラ……ゴメン、一人にしてくれないか?」

「出来ません、キキーモラは、祐様、の健康管理を任されております。ログオフ後の診断結果を確認させて頂きます」


 オレから一切目を離す事なく、規則的な歩調でオレに近付く、着せられているメイド服とエプロンも一定のリズムで揺れる。キキーモラはオレを見下ろし額に手を置く。


「一人にしてくれって言ってるだろが、このクソ人形が!」


 おでこに当てられた硬くて冷たい手を振り払う。機械(アンドロイド)に今のオレの気持ちがわかってたまるか!

 キキーモラをにらみつける。弾かれた手をそのままにピクリとも動かない人形。


「──失礼致しました、祐様。明日は明一時にご朝食を用意いたします。ごゆっくりお休みくださいませ」


 お腹に両手のヒラを合わせ淀みなく頭を下げると、規則的な歩調で部屋から出ていってしまった。こんな事は初めてだ……まあ、良い。

 身体を起こし壁に背を持たれて膝を抱える。モウカを抱きしめた感触を思い出す。あれは、ゲーム(ウソ)なんだ。モウカの顔を思い出す。怒って驚いてそして笑って、泣いて。ゲーム(ウソ)なのに何でこんなに悲しいんだ。視界が歪み頬に涙が伝う。その日の夜は、頭がぐちゃぐちゃで何をどうしたかよく覚えてない。



 「おはようございます、祐様、ご朝食の準備が出来ております」


 いつの間にか寝ていたらしい。シーツを丸めてギュッと抱きしめていた。


「キキーモラ……」

「おはようございます」


 ガラスの目でジッとオレを見つめる。ご飯、食べなきゃ、でも食欲がない。薄くて不味い、栄養バランスが完璧に整えられたご飯。


「わかった。今行く」

「リビングまでキキーモラがお伴してもよろしいですか?」

「……勝手にしろ」

「ありがとうございます」


 人工頭髪のポニーテールが垂れ下がる。寝室兼ログインルームのドアを開けるとリビングだ。後はトイレと浴室、これが現実世界のオレの全て。外に繋がる扉はこちら側にノブは無い。一度入ったら抜けられない閉鎖された空間。

 リビングにあるのは一人用の小さなテーブルと一脚のイス。テーブルには何もない。イスに座るとキキーモラが壁に向かって歩く。壁一部が下に動き、キキーモラがそこから朝食を取り出す。肉の焼けた香ばしい匂いがする? 肉⁉︎


「お待たせしました」


 テーブルに置かれたトレイには、目玉焼きにハンバーグ、橙色の人参に黄色のコーンを乗せた皿。フルーツの入ったらヨーグルト、サラダの入ったボウル。水の入ったコップ。特別に許可をもらって持ち込んだ茶碗には、大盛りのご飯がよそられていた。


「キキーモラ、これどうした?」

「お父様、からのプレゼントです。お父様、からのメッセージを読み上げます。初仕事記念だ、よく味わって食べろ。以上です」


 短い、相変わらずだなぁ。これ相当高いんじゃないか? こんな贅沢品に金使って仕送りは大丈夫なのか?


「祐様、食欲がないのであれば、ヨーグルトだけでも結構です。胃に物をお入れください。介助は必要ならご遠慮なくキキーモラにお申し付けください」

「……介助はいらない。残さず食べるさ」


 食べない分は廃棄処分されるんだろう? 命を粗末に出来るか。「いたきます」手を合わせて食材と親父に感謝する。まずは渇いたのどを潤す、常温で放置された水は何の抵抗もなく胃に落ちて身体の隅々に行き渡る。

 肉……一昨日なら真っ先に手をつけただろうが、今は無理そうだ。キキーモラに言われた通りヨーグルトで胃を慣らす。スプーンフォークでひとさじすくって口に入れるとヨーグルトの酸味とフルーツの甘さが口に広がる。ああ、甘い。ボーッとしてた頭が働きだす。

 意を決してハンバーグに挑む。口に入れると暴力的な塩味と肉の旨味が広がる。ナツメッグの香りがたまらない。残念なのは少しパサパサしてるところか。


「祐様、申し訳ございません。昨日の夜に用意させていただいた物でしたので、少しお味に変化があるかも知れません」

「……廃棄しなかったのか?」

「祐様、が食材を大切にされる方だとキキーモラは存じておりますので、特別に許可を取りました」

「そうか」


 絶対に残せないな。肉を食べ米を詰め込んで、飲み込む。人参やコーン、ヨーグルトの甘味で脳を誤魔化す。サラダを食べて口の油をさっぱりとさせる。あと少し、残ったハンバーグと米を水で胃に流し込む。美味しく食べてやれなくて、ごめんなさい。


「ご馳走様でっした」

「お粗末様でした。食後の休憩が終わりましたら前日の給料明細をご確認下さい」


 キキーモラはトレイを回収して壁に向かいしまいこむとオレの背後に立ち停止する。


「昨日はすまない」

「問題ありません。ただ、ログイン時間を偽る事はおやめください。キキーモラは、祐様、の健康管理をする人形です」


 怒ってるなぁ。いつもは自分の事を人形なんて言わないのに。

明日も3話更新予定です。

お読みいただきありがとうございました。

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