モウカの仕事
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何度も何度もキツネを斬りつける。やはり、こいつは避ける事もしない、それどころか、オレに攻撃をする事もない。抜けようとすると身体で押さえこんでくる。コイツ、どんだけタフなんだ?
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「──『治癒炎(キャンドルファイア』」
幾度となくモウカからかけられる魔法。モウカの顔は真っ青で汗でぐっしょりだ、蛍から振られるメイスを受けてよろめく。
【『識別』の獲得条件を満たしました】
モウカの頭の上に赤色の棒のような物が見える。HPバーか?
黒い部分が減ったHPなんだろう。もう既に七割が黒くなっていた。このまま終わらせてたまるか! キツネを睨むと異様な事に気付いた。HPが一切減ってない。
「何で減ってないんだ」
「『識別』でも得ましたか? それならわかったでしょう。その武器で攻撃しても無駄ですよ。火属性で火の精霊に攻撃するなんて回復させてるようなもんですぞ」
なんだと、これまでやってた事は全て無駄だったのか?
「もう諦めてくれると嬉しいですぞ」
「諦めてたまるかぁ! どうして、どうしてお前が死ななきゃならないんだ⁉︎」
「ここにいる以上、守護者を倒さないと、森から抜けられないですぞ。たぁタズクはここから出ないとダメです」
「お前を犠牲にして出られるかよ!」
「ダメですぞ。わたしはヒュムを導かなきゃならないのです。それにごめんなさい、ウソをつきぃ、ました。お姫様はここには入ってないのです。タスクを先に進めるためにウソうぉ、つきました」
「なんだと……アロマは入ってない?」
呆然としていると、モウカが倒れこむ。今は、今はそんな事どうだっていい! 火が効かない? なら方法がある!
アイテムボックスからガラス製のビンを取りだし、大ナタに液体を振りかけると刃が薄紫に光る。『強奪』で取った『ヘビの毒液』だ。これで、狩る!
「『敏捷増加』」
キツネに詰め寄る。通り抜けなければコイツは動かない。一気にだ! オレの攻撃が効かないと思ってるコイツに! 全速全力を叩き込む‼︎
骨が外れ筋肉が引きちぎれるような幻痛を無視して、斬る払う叩きつける。あっという間にキツネの命(赤)が削れていく。攻撃が通じてる事に気付いたキツネは慌てて逃れようとする。逃がさねぇよ!
キツネの首に組みついて力が任せに投げる。なんだ、投げればダメージ入るじゃないか。そぉれならぁ! 生まれてこの方出した事のない力込めて首を絞める。するとキツネは光変わりオレは地面に顔から激突した。
「タスク、ありが、とうです。蛍ちゃん、ゴメンね──陽だまりの休息を『陽光』」
モウカの弱々しい声と何かが倒れるような音がする。ありがとう? 顔を上げるとモウカの命(赤)は一割にも満たない程になり、蛍が横に倒れこんでいる。何でこんなに急に減った?
「安心して、ください、蛍ちゃんは寝てるだけですよ。あの眷属は、わたしと繋がっていました。おかけで、すぐに楽になれ、そうですぞ。出来れば、そのナタ、で止めを刺してくれると、嬉しいのです」
「何で、何でそこまでするんだよ?」
「嬉しかったのです。この長い、守護者としての仕事で、こんなにも優しくしてもらったのは、初めてです。普通の、ヒュムは、わたしの事なん、か無視して行っちゃう、んですよ。ヒド、くないですか?」
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オレはよろつきながらモウカの元に行き、モウカを抱き起こす。オレには時間がない。
「モウカ、一つ聞いて良いか? このナタの毒は後何分続く?」
「……そうですね、五分はあるんじゃないですか? 火属性で回復させるつもりでしょうが、わたしは後五分は持たないですよ」
回復手段もない。それなら少しでも苦しみを短く。
「なぁ、最後に言いたいことはあるか?」
「……タスクありがとうです。眷属が落としたアイテムとわたしの落とすアイテムは持ってて下さい。形見みたいなもんです。蛍ちゃんにはこう伝えて下さい。キツネを捕まえるなら尾っぽをつかんで『捕獲』ですと」
「そうか、モウカ。楽しかったありがとう」
「ま、まつですぞ」
「どうした、何かあるか?」
「ローブの耐久値がギリギリなのです。タスクに攻撃されたらパージしちゃうです。淫獣タスクになっちゃうですよ?」
こんな時までモウカちゃんはモウカちゃんだな。
「折角可愛く出来たのです、タスクがあげたいと思う人に、どうかプレゼントして欲しいです。それで、ですね、ちょっと申し訳ないんですが、脱がしてもらっても良いですか? もう、動けそうにないのです。今回は特別許すですぞ」
「……わかった」
黒いローブを脱がすと一糸まとわぬモウカがいた。尻尾がゆらゆらと揺れる。
【『盗む』の派生スキル『鎧強奪』の獲得条件を満たしました】
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オレはモウカ抱き寄せてナタでその胸を突いた。最後は一言、「お姫様と幸せに」モウカの光を抱きしめる。
【『上位火精霊の毛皮』を手に入れた】
こんな時に『強奪』が発動するかね……これはモウカのプレゼントだな。手にしているローブと、オレのジャケットのファーとより遥かに上質な毛皮をアイテムボックスにしまう。
【『黒いローブ』を手に入れた】
【『上位火精霊の毛皮』を手に入れた】
【『迷いの森』ボスが消滅しました。後五分で脱出します】
倒したキツネのドロップアイテムを拾いに行く。
【『火精霊の毛皮』を手に入れた】
蛍にはフレンドカードを渡してっと。ふぅ、これでやる事はやったな。
……不思議だ、こんなに悲しいのに涙が出ない。
【警告! 強制ログオフまで後一分です。速やかにログオフ可能エリアへ移動して下さい】
ナタに薄紫色の光が消える。なんだよ、五分なんてウソつきやがって……タスクは女心を理解するですよ! そんな声が聞こえた気がした。
【あなたに一件のメッセージが届きました】
なんだ? パネルをタッチするとメッセージが残されていた。
【テリオスで待つ。シオン】
【強制ログオフします】
視界が暗転した。
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