裏ボス
携帯買い換えに伴い、連日複数更新します。
8/25 1/3話
「ダメじゃ無いですか。ゆっくり来てくださいって言ったですよ。はぁ、本当にタスクは女心を理解しようとしないですね。これならもう少しランク上げておけば良かったのです」
身体が重い。息が切れて、頭を上げるのも億劫だ。でも、モウカからは絶対に目を離さない。
モウカが切り株から立ち上がる。肩を落とし憂鬱そうだ。先ほどまでは無かったはずの、頭についた動物のような耳も下に垂れている。あれは、キツネ。キツネの耳か。
「お前、キツネか?」
「モウカちゃん、ですぞ。キツネとはちょっと違うですよ。これでもわたしは火の精霊様なのだ! それでここ『迷いの森』の守護者、ヒュム的に言うなら、ここの『人形(NPC)』兼『裏ボス』なのです」
モウカが人形(NPC)? 嘘だろ……。
「あー、信じてないって顔ですね」
「モウカ、ちゃん、どう、いう事なん?」
「蛍ちゃん、ゴメンです。わたしに気付かれなければ『捕獲』されたいと思ってたのですが、残念ですぞ。二人も同じ迷宮に来るなんて五十年ぶりぐらいで、完全に油断してたのです」
「じゃあ、そろそろ始めるですよ。上手い具合にスタミナ切れてるみたいですし、サクッと終わらせるですぞ」
そう言うと、ポケットからヘビの毒ビンを取りだす。何をするつもりだ?
「タスク、『鑑定』ですがレア度の高いアイテムをジッと二十分ぐらいみると覚えられるですよ。もうちょっとレベルが上がると効果とか色々わかるです因みにこれは武器に振りかけると一定時間毒属性が付与出来るんですよ」
「何で、今教える」
少し困り顔でヘビの毒ビンのフタを開ける。
「……『迷いの森』を抜けるのに心残りがあったらダメじゃないですか。あ、因みにこれにはもう一つ効果があるです。れっつどりんく」
モウカは腰に手をやり、毒ビンの液体を一気飲みする。
「うげっほげっほ、酷い味です。効果はですね服用すると、対象を毒にするんですぞ」
モウカがよろめき地面に膝をつく。
「おい! 何やってやがる! 蛍『解毒』だ!」
「させないですよ!──怒り狂う精霊に全てを委ねよ、さすれば敵は灰燼に帰するだろう『狂気乱舞(カンニバル』」
蛍がビクリと身体を痙攣させるとゆっくりゆっくりモウカに近寄る。
「モウカ、お前蛍に何をした⁉︎」
「狂化させたですよ。『狂騒火』より数段上のですが、醒めても記憶は残らないぐらいの」
蛍がメイスを振りかぶり、モウカの頭に振り下ろす。モウカは頭に直撃を受けるが倒れ伏す事なく座ったまま微動だしない。
「ごっほ、ごほ。これは死ぬまでに時間がかかりそうですぞ。あーあー、タスクが小屋に帰って違う武器を持ってきてればなー。狂化させてサクッと終わらせたのに、火属性の武器なんて渡すんじゃ無かったですよ。天下無敵のモウカちゃんでもキツイものがあるですぞ」
メイスが緩慢に何度も何度もモウカに振られる。蛍のスタミナが少ないからゆっくりゆっくりとしか動けないのか。でも、やがてはモウカの命は尽きるだろう。止めなきゃ、蛍を止めなきゃ。こんなの酷すぎる。
「動けよ! オレの身体動いてくれよぉ‼︎」
【『死力』を発動しました】
【警告! 強制ログオフまで後三十分です。速やかにログオフ可能エリアへ移動して下さい】
警告? 後二時間以上あったはずなのに。いや、そんな事より。
身体の節がミシミシときしむ。酷い筋肉痛を無理やり動かしている感覚だ。でも、動ける!
「タスク! ダメですぞ。命が、命が減ってるですぞ!」
「うるせぇ! だったらお前もやめろ!」
「っ──この火は命なり、その揺らめきは癒しの力を持つ『治癒炎(キャンドルファイア』」
身体に力がみなぎる。クソが!
「自分に使えやゴラァ!」
「出来ない相談ですよ──我が眷属よ我が声に集え『眷属召喚(コールファミア』」
オレとモウカ達の間に、体重が三桁に届きそうなほどの大きなキツネが現れる。邪魔だ!
大きく踏み込んでナタで斬り払う。キツネは避ける事なくそれを受け止めた。ちっ、オレの攻撃なんて大したことないっていうのか。
「『敏捷増加』」
じゃあ、無視だ。まずは蛍を止める! キツネの脇を走り抜けようとすると身体で遮られる。早ぇ⁉︎
もっと早くだ! 今の全力を! キツネの脇を抜けるた! だが、勢い余ってモウカ達を大きく離れてしまう。そこにすかさずキツネが立ちふさがる。
情けねぇ。自分をコントロール出来ないのがこんなに悔しいのか。悔しがってる暇はない。抜けられないなら、まずはキツネ! お前を狩ってやる!
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