服装はTPOを考えよう
方言は難しい。
【ここはフレンド通信不可地域です】
ダメか。ログを見直してたらフレンド通信がある事を思い出して、試してみたがキミヒトには繋がらなかった。こんな事になるなら、アロマからもフレンドカードを貰っておけばよかった。まあ、いずれにしろ今は繋がらないんだ、結果は変わらないか。
【主職業:盗賊ランク一/副職業:魔術師ランク一】
パネルに書かれた文字を見る。ログからするとモウカから杖を奪ったところで、盗賊になってたらしい。盗賊は武器を奪うで、魔術師は服装でって、職を得る基準がわからん。盗賊スキルが『盗む』なのはわかる。でも、魔法スキルが一個も無い。条件を満たして無いのか? うーん、こっちもわからん。適当に呪文やそれっぽいスキル名を想像して試してみたけど、反応無しだ。
あ、そういえば神様が神殿で授けてくれるって言ってたのは、こういう事か? 神殿はどこにあるんだろう、森を抜けたらすぐかな? ……やめやめ、考えても答えは出ない事だ。今するべきはアロマと合流して森から脱出する事。初心者狩りが巻けてるか不安だが、ずっとここに居るわけにもいかないだろう。
不安といえばこの『死力』って、スキルはどんな効果があるんだ? どこにも説明的な物が無い。というか、どのスキルにも説明が無い。そういうもんなのかね。あ、ダメだ。また無駄な事考えてる。
「お待たせですぞ」
「おー、早かったなって、これまた原形がなんだったのか分からない程変わったな」
「ふっふーん。急いだ割には可愛く出来たですぞ」
モウカはくるりと回るとふわりと髪、袖やスカートが舞い上がる。普段は髪で隠れてるんだろうが、背中の部分は大きく開き交差した紐で抑えられていた。オレ、こんな格好してたのか……確かに変態さんと言われても大げさじゃないかも。
ブーツはすすけた茶色から、黒に変わっている。少し底も上がってるか?
「お次は蛍ちゃんですぞ」
「あかんて、あたしこんなん恥ずいわー。太もも出すぎやて」
「うっかり切りすぎたです。もう糸が無いので、切った布は取り戻せないのですよ」
「慎重にするーって約束したやん」
蛍ちゃんとやらは、小屋から出るのを躊躇しているようだ。説得する為か、モウカが小屋に戻る。
「ファッションショーは終わりで良いか? じゃあ、行くぞ」
「待つですよ、てい!」
「あ」
モウカに押し出されたのだろう小屋から蛍が飛び出してきた。押し出された勢いで肩から胸にあったお下げ髪が片一方だけ背中にいってしまっている。これはまた……、ローブというより振り袖付きのパーカーだな。裾の長さは尻が隠れる程度、下には短パンを履いているようだ。精一杯太ももを隠そうと持ち上げた靴下が太ももを締め付けて肉肉しい。薄茶色のブーツはスネまでの高さの物を履いている。感想はそうだな。
「そんなんで森歩きが出来るかー‼︎」
「なんですとー!」
頭痛い。オレがおかしいのか、いやおかしくない。
「初期装備よりは防御力は高いのです。『鑑定』を使ったので間違いないですぞ。これでモンスターとの戦闘準備万端です!」
「何、敵が出るのか?」
「蛍ちゃんがこの先でヤられたようです。タスク少年はこれを使うですぞ、ほっ」
モウカがナタをひょいと投げてよこす。おおい⁉︎
【『大ナタ』を手に入れた】
「刃物を投げるなあぶねーだろ!」
「わー、凄いーナイスキャッチや」
パチパチと手を鳴らす蛍。オレの視線に気づくとパーカーの裾を下げて太ももを隠そうとする。そうすると短パンが見えなくなるから、下に何もはいてないように見えるぞ。はっ⁉︎ オレは何を考えてるんだ。
「タスク少年、蛍ちゃんに見とれてないで早く救出隊に加えるですよ」
「見とれてない! えーと、蛍さんで良いんだよな?」
「あ、よろしゅうお願いします。あたし森、蛍、言います。あの、モウカちゃんから話は聞いとります。あたしぬけとるから役に立てるかわからへんけど、よしてもらてもええですか?」
「……よしてもらうって何だ?」
「仲間に入れて貰っても良いか? って言ってるですよ」
「かんにんなぁ。翻訳システムが不調なんかなー。上手いこと訳されへん事が多いねん」
「他言語同時翻訳にも色々問題があるんだな。ま、そのうち慣れるだろう。じゃあ、蛍さんよろしくな」
「蛍でええよー。あたしこの名前めっちゃ好きなんよー」
にへらーと顔を崩して笑う。自分で付けた名前が好きかー。それなりにこだわりがあるんだろう。
ふと目が合うと太ももを隠したがる。そっちにもこだわりがあるんだな。こっちが気にしてないのに隠されると妙に恥ずかしい。
「行くですぞ。タスク少年、モンスターは毒ヘビ、これくらいの長さで、真っ赤な斑点があるので遠目からでも分かるですよ」
げ、毒ヘビだって? 両手を広げた長さが身長ぐらいだった筈だからモウカの身長からすると、だいたい百四十センチメートルぐらいか。まあ、それは良い。
「何で森にいるヘビなのに目立つ色してんだよ。逆に目立って周りに危険を知らせるのか? そもそも何で毒持ちって知ってる?」
「あははー、あたしがヤられた時に身をもって体験済みやー。ケツネさんを追いかけてたら毒をもろたんよ、そのままヤられて小屋に死に戻りしたんや。戻うたら変態さんがおってびっくりしたわー」
「変態さんの事は忘れろ。ケツネ? キツネか。そういえばオレも見たな」
「かわええよねぇ、あの尾っぽは必ずあたしが捕獲したるんよ。もふもふしたいわぁ」
「キツネか、狂犬病とかエキノコックスとかあったら怖いな」
「てい!」
「おっふ!」
モウカの杖による鋭い突きが腹に突き刺さる。無警戒の攻撃に思わず膝をついてしまう。
「急に何しやがる」
「キツネは神聖な生き物なのです。ほら、早く行くですぞ。こんなところでモタモタしてたらすぐに暗時間になるのですよ」
「あー強制ログアウトは嫌やなぁ。ペナルティは何パーセントのなるんやったっけなー習ろうたけどすっかり忘れてもうた」
「何だと⁉︎ ペナルティがあるのか、それは困る」
「ほら、さっさと前衛は先に行くですよ。か弱いメイジとクレリックを先頭に歩かせるつもりですか?」
か弱いメイジはあんな鋭い突きはしないと思うんだ……。
そうだ、翻訳機の調子が悪い事にしよう。