就職:副職業
お盆休み終了
「しかし、淫獣タスクは凄いですぞ。このモウカちゃんからあっさりと杖を奪うとは、正に盗賊が天職ですな」
ごそごそと物音のする小屋から、モウカが声をかけてくる。
「オレは盗賊なんてならないぞ、モウカちゃんと同じ魔術師になるんだ。せっかく魔法が使える世界なんだ、そりゃ使わないと損だろう」
「え? 違うの? うーん、盗賊の方が向いてるとモウカちゃんは思ったのですが。どうしようかなー? あ、ヤバそめ」
「どうした? なんか問題か?」
「え、いやぁ。ローブの修理をどうしようかなーっと。うーん……良し。これで行こう、おお!」
着替えるにしては長いと思ったら修理もするつもりだったのか。
「どうした?」
「凄いですぞ。ローブを修理してたら、副業が裁縫師になったです」
「副って、主の方はどうした?」
「何言ってるですか、主職業は魔術師ですぞ」
「おいおい、いつの間に魔術師になったんだ?」
「えーっと、ローブを着て杖を持った時になったですぞ」
「なんだって⁉︎ 修理が終わったらオレにも着させてくれ!」
「ちょうど修理終わったですよ。おーけーです、入ってきても良いですぞ」
小屋に入るとモウカは畳まれたローブを持っていた。ゆっくりとローブに手を伸ばす。よし、これで念願の魔法使いだ。
「後悔しないですか?」
「……あん?」
「着れば魔術師になれます。でも、一度なったら戻れない可能性がありますよ」
初めて見るモウカの真剣な表情。重大な選択をせまっているように感じる。
「ああ、後悔しない」
「いえ、絶対にします」
「クドイな、しないって言ったらしない!」
「……そうですか、では差し上げます、どうぞ」
杖とローブを差し出してくる。オレはそれを受け取り、アイテム欄から装備する。
【副職業が『魔術師』になりました】
「あん? なんだ副って、おかしいだろ」
「そうですね、フクはおかしいですぞ」
モウカの声が震えている。どうした? 彼女を見ると口に手をやり笑いを堪えてる。
「何がおかしい?」
「ブフゥ! ……フク、フクがおかしいのです、ぞ」
「あん?」
「あー、変態さんがおるわー」
のんびりと間延びした独特のイントネーションの声がする。見れば小屋の入り口に白いローブを着た一人の女が立っていた。いつに間に小屋に入った? その女は小首を傾けて眠そうなタレ目でこっちをジッと見ている。ぼーっとしていて何を考えてるのか読み取れない。
「あー、お姫様とこのオニさんや。うーん、コレは聖職者として正しい道に導かんとアカンのかなー? モウカちゃんどない思う?」
何となく締まらない口元からお姫様発言が飛び出した。モウカの事を知ってるって事は知り合いなのか?
「蛍ちゃん、自分が思う事が正しいとは限りませんぞ。タスク少年は本人の強い意志でこんな格好をしてるのです」
「オニさん、そうなん?」
「だから何の話をしてるんだ?」
「着てる服の話ですぞ。だから後悔するって、忠告したじゃないですか」
「服? って、なんだこれスカートじゃねぇか!」
「背中もごっつ開いてリボンも付いとるでー」
腰のあたりにフリル付きの大きなリボンが付いている。いやいやいや背中が開いてるってどんなローブだよ⁉︎
「修理ついでに改造してみたですぞ」
「改造し過ぎだろ! ローブのロの字もねーぞ!」
「まぁまぁ、落ち着くです。そんな格好でいきり立っても面白いだけですぞ」
「ああ、クソ! ジャケットどこだ」
床を探しても、ジャケットがどこにも見当たらない。一刻も早く脱がなくては!
「多分、アイテムボックスに入ってると思うですよ」
「ジャケット、ジャケットこれだ! ふぅ」
「オニさんは虎のパンツや無いんやねー」
「タスク少年、猥褻物陳列罪ギリギリですぞ。一歩間違えば犯罪になるのです。早くシャツを着てズボンもはくですぞ」
上半身は素肌にレザージャケット、下は短パンタイプの下着姿だった。慌ててシャツとズボンも装備して小屋の椅子に座り込む。もう嫌……踏んだり蹴ったりだ。
「だから後悔するって、言ったのですぞ。まあ、面白かったのでさっきの事は水に流してあげるのです。ローブを返すですぞ」
「そりゃどーも。……で、ローブはどうやって出すんだ?」
「アイテムボックスからつまみ出せば良いですぞ」
「……ホラよ」
手に現れた黒い服をモウカに投げ渡す。
「モウカちゃん、それ着るん? オニさん着てたやつやん。気にならへんの?」
「服に罪は無いのです。それよりも蛍ちゃん、わたし裁縫師になったのです。蛍ちゃんのローブも改造してあげるですよ?」
なんか凄く酷い事言われてる気がする。
「ほんま? でもなー。体の線が隠れるから、このままでもええ気もするんよ」
「蛍ちゃん、隠すのはもったい無いですぞ。だいじだいじ、万事わたしに任せるですよ。とらすとみー」
「うーん、お手柔らかに頼むで。ワヤにせんといてな」
「予備は無いから慎重にやるですよ。任せるです、わ今は脱いじゃダメですぞ! タスク少年げっとあうと!」
再び小屋から追い出された。何とか持ち出した椅子に腰掛け、背もたれに体重を預ける。良い機会だ色々整理しよう、ログを確認するか。
魔法職を魔術師に変えました。
キャラの練習を兼ねて訛りキャラに挑戦してます。生温かい目で見てください