でしとねるこはそだつ
自分ーーいや。月花が生まれて一日が経った早朝。月花は水の入ったコップを持って縁側に座っていた。
「早いはねぇ月花。よく寝ないと大きくなれないわよ。」
声のした方を向くと微笑みながら昨日の山菜の天ぷらの残り物を食べている梅の姿があった。
「…それにしても『月花』ねぇ。えらく可愛らしい名前になっちゃったじゃない。」
その言葉から月花は昨日の夕食を思い出したーー。
「あなたの名前は『月花』よ!」
鈴花の声が室内に響く。自分以外の全員がぽかんと口を開けていた。
「お、男の子にはちょっと可愛すぎないでしょうか?」
桜がおずおずと言う。
「ま、まあ『餓鬼』に性別なんてないのだけれど、この子の見た目的にちょっとねぇ。」
「いきなりなのは慣れたと思ったが流石に斜め上すぎて驚いちまったぜ。」
梅と彰人も桜と同意見のようだ。
「いいえ、この子は『月花』よ。せっかく私が付けるんだし私のなまえにある花は譲れないわ。それに『花鳥風月』や『雪月花』みたいにこの世の美の象徴である花と隣り合うに相応しい月をつけたのよ!完璧じゃない!ねぇ、そう思うわよねぇ月花?」
鈴花が一呼吸で全て語り自分に尋ねる。なまえをつけてもらえるのはなんだか嬉しい気がするので、とりあえず首を縦にふる。
「ほら!月花もそれがいいって、決まりよ決まり。さっご飯の続きにしましょう!ふふ。」
鈴花はご飯を機嫌よく食べ始めたところで三人もそれ以上の反論はあきらめ、当人たちがいいのならと鈴花にしぶしぶ同意した。
こうして、自分の名前は「月花」となったのだ。
このやり取りを思い出して月花は少し笑った。すると、梅が不思議そうに、
「表情なんてあったかしら...。ねぇ、月花。ちょっとあの階段まで走ってみてくれない?」
月花は頷くとコップを置き、階段まで走った。そして、梅の方を見ると手招きしているので梅の方まで戻る。この一連の流れを見て梅は腕を組み
「話の通り人の子よりは力強い走りね。それに疲れが見えない...。」
呟く梅を横目に月花は置いてあった水を飲み干し、深呼吸しながら東を向いて座った。これで梅が何かに気付いたのか
「なるほど。これは試してみる価値がありそうね。」
「何を試すの?」
梅が何かを閃くと同時に鈴花が声をかけてきた。後ろには彰人と桜もいる。三人とも何処かへ行くのか身支度を終えている。
「ふふ、今日の依頼を済ませてきたら教えてあげるわ。」
梅が悪戯っぽく言うと鈴花も何か感じ取ったのか
「んじゃ、とっとと済ませましょう。」
「いつになくやる気になったな。んじゃ、ちと早いが出向こうぜ。」
彰人も鈴花に賛同すると二人は桜に近づいていった。
「まだ少し眠いので、落ちそうになったら個人で頑張って下さいね。特に彰人さん。」
「それは勘弁したいねぇ。」
「ふふ、鈴花はともかくあなたは落としませんよ。」
「何朝からイチャついてんの、さっさとするの。」
桜が本当に落としてやろうかなどと小声で言いながら自身を含め鈴花と彰人に触れると三人の体が浮いた。
「あ、梅。月花の世話頼んだわよ。よし、レッツゴー。」
「ああ、少し待って、依頼を終えてからでいいから化け猫か化け狸か化け狐を捕まえてきてくれない?」
梅はウィンクしながら言った。
「いいけど、なんで化けがつくのよ。まあ、どうせ秘密♪とか言うんでしょうけど。」
「ご名答よ。」
「どうせ夕食の調達もあるし、今日はついでに久々の肉探そうぜ。」
いつものことなのか、三人はすぐに承諾すると飛んで行ってしまった。
「全く、最初なんて依頼もろくにやろうとせず、頼みごとなんて聞き入れなかったし、訳を言わないと動こうともしなかったのに、変わったわね。」
梅が飛んでいく三人を見ながら少し悲しそうに言った。
「身を尽くし さんさいくらひ 見上げれば
三つは育つ 三度目の夏 」
梅は儚げに詠うと恥ずかしそうに月花の方を見て
「ふふ、ごめんなさいね。もうあの子達にあって三年が経つのかと思ってね。初々しいあなたを見ていたら、昔を思い出したのよ。」
そう言って梅はまた空を見上げた。美しくもどこか寂れた印象で。
詠は難しいですね。とりあえず今回は全部の始めを「三」で統一してみました。気が向いたら何度か入れるかもしれません。昔の人はエラカッタ。