室木 柴/網田めい『殺戮機械の英雄譚』
【副題:ファンタジー・あるいはSFを舞台として思いはせられる哲学(心)】
機械でありながら、思考力を得た機械人形。聖剣を守れと命じられ、勇者を阻むキラーマシン。
他の同胞は死に絶え、唯一生き残った。王に逆らい、剣を取り、キラーマシンとして、勇者を追う。
しかしそこにあるのは殺意のみならず。生まれたての真っ新な赤子のように、つるりとした《心》──あるいは心のような何かを持った動く鋼。
内容は非常に挑戦的だ。
ファンタジーな世界観だが、主人公は哲学、様々な経路を通過して思考していく。ちなみに、当作品の登場人物には固有の名前がない。主人公の殺戮機械はキラーマシンであるし、魔物のモスマンは一貫してモスマンと呼ばれる。
この物語に、名前は必要ない。名前がないということもまたテーマへ取り組む材料のひとつなのだ。
読み手はこの物語を、当初難しく、読み進めづらいものと思われるかもしれない。
スタートは歌劇を思わせる、リズミカルな文体と大仰な言葉。SFチックな世界が提示され、世界が広がろうと悲劇はなお存在している《雰囲気》があり、若く多くを知らずにいる物語中の物語の読み手が一冊の本を取る。
英雄の魂は輪廻する。世界には多くの英雄がいるが、英雄の中の多くは前世においても英雄であることが多いという。
『殺戮機械の英雄譚』。糞野郎、と多くの物語を管理する図書館の司書に評された彼、あるいは彼女。
キラーマシンは苦しむ。間違い、迷い、疑問をもち、戦い、傷つき、傷つきたことにすら疑問を抱き。
文系思考と理系思考。機械ゆえの特殊で、冷静な思考。
だが、答え──と思えるもの──にたどり着くためには、冷静なだけではたどり着けない。
出会う出来事、思いついた物事。様々に思いをはせ、紆余曲折を辿り、一見遠回りや寄り道に見える感覚も言葉という形にし、考える。考えていく。そしてときに戦う。
キラーマシンは常に苦しむ。読者の胸が張り裂けんばかりに。
剣を携え、キラーマシンは歩いていく。時に立ち止まって、空を見上げて、考えて。
結末が先に示され、後から出来事と思考を追うことで 明らかになることもある。
正直いって、拝読には気力がいる。だが商業化は度外視し、只管『突きつめよう』とする意思を感じる。
ここまで書いていてなんだが、わたし自身言語化に苦労している。ゆえに、似たようなことをいっている、曖昧な言い回しをしていると思われたことだろう。
勧める、とまではいえない。されど「興味深い」といおう。
幻想と心。殺戮、復讐、痛み、優しさ、慈悲。このキラーマシンの英雄譚は何処に進んでいくのか。
我こそはと思われる貴方。ぜひとも覗いてみてはいかがだろうか。それが貴方によってよき出会いとなれば、幸いである。
『殺戮機械の英雄譚』
作者名:網田めい
作品URL:http://ncode.syosetu.com/n0396cx/