表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なろうレビュー祭り2015  作者: レビュー祭り運営委員会
連載部門Last Part(6作品分)
PR
39/43

虚月/最近『幻想再帰のアリュージョニスト』

【副題:無数の引喩アリュージョンにより紡がれるオカルトパンク活劇小説。】

 異世界転生保険とか保険量インシュランス・クオンタムとか如何にも『お、おう……』なあらすじ。

 それがシェアードワールド『ゆらぎの神話』を参照し、もはやWEB小説でここまでやるか!? という『情報の鈍器』である、初見殺し異世界転生活劇『幻想再帰の引喩師アリュージョニスト』だ。

 

 物語は両腕サイバネ義肢の男――ハンドルネーム:アキラ・シナモリを使用する青年が保険会社により転生されたところから始まる。


 サイバネティクスの恩恵を与る彼が降り立った舞台は、天に浮遊する巨大な大陸“地上”と重力に縛られた広大な大地“地底”、それらを貫く天地の通路“世界槍”が聳え立つ『ゼオーティア』。

 すなわち普遍的という意味を持つ、ありとあらゆる視座と世界観がせめぎ合う魔境だ。

 巨大な人工太陽が照らす『ゼオーティア』には『アナロジーの誤謬(ごびゅう)が物理法則を屈服させる』【呪術】というシステムが遍在し、かの地に根付く宗教・風俗・文化・価値観の全てがこれに強い影響を受けている。


【呪術】? なにそれ? 魔術や科学といった技術体系じゃあらへんの? という思われるかもしれないが、ようは『認識(類推)』(それが正しいか間違っているかに関わらず)が世界に干渉する世界観だと考えて頂ければ、と。百聞は一見に如かずで、取りあえずアリュージョニストに出てくる【呪術】の一例を。



 身の程を知らない、馬鹿な思いつき――そのような予断に基づいて下された攻撃命令。暗号通貨の交換所に攻撃を仕掛けた十六人の呪文使い達が一人残らず攻性防壁で脳を灼き切られたばかりか、感染呪術によって三親等以内の親族が皆殺しにされるという大惨事に直面して、ようやく【公社】の電脳保安部の責任者は事態が自らの手に負えないレベルにあることを認識した。


(第2章 もしサイバーパンク世界の住人がオカルトパンク世界に転生したら 幕間 『前夜』より中盤部分を抜粋)



「そういう意味もある。例えば注釈だな。記述と記述の連関、相互に与える影響や参照性。そういった構造の中のはたらきを示す呪文系統の用語だよ。信仰基盤という高次存在の索引を参照して神の奇跡を再現する神働術も、呪術の枠組みで言えば引喩アリュージョンというメタテクスト操作系呪術に分類される」


(第3章 特権者のヒロイック・シンドローム、さもなくばアズーリア・ヘレゼクシュの憂鬱 幕間 『もうひとつの左手』より中盤部分を抜粋)



 事象改竄系過去遡及呪文【叙述悪戯】。

 語りの焦点をずらし遠近感を狂わせ、時間を遡って過去の事象を再解釈し、『実はこうだった』という事実の開示(に偽装した過去改変)を行う類推呪術アナロギアの一種。

 性別誤認、年齢誤認、人物誤認、数量誤認、状況誤認、時間誤認、動機誤認、行為誤認――

 それらは発覚した瞬間、『今までそうだと思っていた確かな事実』を歪め、『実はそうではなかったという気付き』によって事象を上書きしてしまう。

『信用できない時制と語り手の解決』と呼ばれる呪文の基本。


(第3章 特権者のヒロイック・シンドローム、さもなくばアズーリア・ヘレゼクシュの憂鬱 3-24 十三階段より序盤部分を抜粋)



 この狂いまくった(褒めてる)ゼオーティア――アリュージョニストの主人公は外世界人ゼノグラシアの青年『アキラ・シナモリ』と、壮絶な過去を持つ修道騎士の少女『アズーリア・ヘレゼクシュ』の二人だ。

 強靭な精神を得るため、己の”意思”すらもアプリにアウトソーシングした男。

 自身に押し付けられた”英雄”という偶像、そしてそれを必要とする世界のシステムに葛藤する少女。

 詳細は省略するが、物語では彼らの互いのバックボーンに関する因縁と信念の交錯が凄まじいことになっている。本作には幾つもの作品の核となるテーマが存在するのだ。


 序盤『幻想再帰のアリュージョニスト』は独特なSFガジェット『サイバーカラテ』の説明と殺伐とした戦闘から始まり、殆どの読者が迷宮探索モノかという所感を抱く。

 ――が、開示された壮烈な『敵』との闘いの後に、紆余曲折あってオカルトパンクワールドに突入する。

 ここまでの経緯が凄い。サイバネティクスとオカルティズムの幸福なマリアージュ!! コラージュ&カオス!!


 そこから『インフラヤクザ』、『ミーム』、『任侠』、『電脳保安官』、『美貌のネットアイドル』、『メタテキスト改竄』、『積層都市』と混沌の【第五階層】の情景が広がるが、この感動は文字では伝えられない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 第五階層は、暗い喧噪に満ちていた。

 空気はかすかな冷たさを湛えており、雑多な臭いが辺りに漂っている。

 ドーム上の天井からは照明光が降り注ぎ、正方形のブロック状に積み重なった建築物が積み木のように延々と連なり、街路を形成している。


 街の色彩は雑多である。原色が無造作に放り出され、個人が思うままに好きな色で建造物を染めている。壁面を極彩色に塗る目立ちたがりがいるかと思えば、周囲に埋没させるように彩度の低い色合いも目に入る。が、それも結局悪目立ちしていた。周りに合わせるという思考がとにかくこの場所には欠けている。


 頭上に並ぶ電光掲示板を無機質な宣伝文句が走り、頭上を電線が走る。日本めいた光景だが、別の電気会社によって地下にも配線されている。送電・配電だけでなく通信用ケーブルも支えている電柱には無数の商業広告。

 地震が無いにもかかわらず、空間を占有できるという理由で地上に架設されているのだ。


 道を行くのは無数の人、人、人。

 冷たい空気を、大量の体温が蠢いている。


 群衆を押しのけるようにして牛車が荷物を運んでいく。ただし牛は白骨でできており、頭蓋の内側に呪術の火を灯している。浮遊する絨毯が人々の上を通過したかと思えば、家屋の屋根に取り付けられた大型機械が魔導書の項を一枚ずつパンチングし、虹色の煙を噴き上げながらエネルギーを供給している。


 雑踏ゆえに必然的に生じる街路の汚れを、人々の足下を這い回る紙製の生き物たちが洗浄していく。呪符を折紙のように小動物の形にして、清掃用のロボットとして扱っているのだ。


 各所に配置された鴉は自警団への通報用。道脇の頭蓋骨がその日の交通量を測定し、カードの束が宙を踊りながら、人々が発する雑音や足音を無数の文字として採取し、吸い取っていく。


 無数の乱雑さがそこにはあった。

 その中でもとりわけ人目を引いているのは、檻の中に鶏を詰め込んで強引にプレス機で圧殺し、断末魔の絶叫と血液を生贄として呪術的エネルギーを採取する機構である。呪術の光が大量に発生し、効率よくエネルギーを生み出してはいるようだが、同時に吐き出される騒音と悪臭、飛び散る血など不快な精神汚染はこの世界特有の『公害』と言えた。道行く人々も迷惑そうに目を向けているが、構わず次の生贄が追加されていく。


 そして圧殺。 

 半年間の異世界生活を経て、すっかり見慣れてしまった日常風景がそこにあった。


 (第1章 隻腕義手のスワンプマン 2-1 氷血のコルセスカより序盤部分を抜粋)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 この描写にピンときた方や、濃い世界に飢えた方なら是非! 最近氏の硬質な筆致が映像を見ているような臨場感と緊迫感を与えてくれる筈だ。サイバネ義肢の他に戦艦やパワードスーツもあるよ! 


 そして、下位プレーンに位置する異世界のデザインが産業として行われる本作には、当然のことながら”多世界”が存在する。

 一般的に”異世界転生”はいわゆる元の世界での主人公の過去・因縁etcを断絶し、色々”清算”した上で物語を始める為の装置として使用されるもので、このように複数の世界が在り、転生後も交流を継続するものは珍しい。

 むしろ、最近氏は主人公等の過去からの因縁を強調するために、転生というギミックを使っている節がある。本作では違法転生者アキラ・シナモリを裁くため、追手・刺客が彼の世界からゼオーティアに派遣されており、アキラ・シナモリの”過去”が伏線として機能し、ストーリーの骨子になっている。

 私的な考えを言わせて貰えば、”異世界転生”という設定は非常に難儀な代物だ。本文で元世界との諸法則との違い、文化・宗教・文明等の成立過程云々の言及が必要であるからだ。設定では中世レベルの文明なのに何故じゃが芋があるの? というあの有名な問題もここに関わってくる。

 そも、大前提として異世界ファンタジーを描く”文章”に日本語や外来語が出てくる問題が厳然と立ちはだがるのだ。所謂中国がないのに「杞憂」・「矛盾」・「完璧」等が何故ある? 後、「社会」・「文明」も和製漢語だから使用不可なんじゃないのとか面倒臭いアレだ。

 この点、『幻想再帰のアリュージョニスト』は所謂異世界ファンタジーにおける『文化問題』『言語問題』の解決手腕も見事である。


 色々書かせて頂いたが、是非とも『幻想再帰のアリュージョニスト』をお読み頂ければ、と。せめて序盤最高潮の熱狂が味わえる「特権者のヒロイック・シンドローム、さもなくばアズーリア・ヘレゼクシュの憂鬱」まで。


『幻想再帰のアリュージョニスト』

作者名:最近

作品URL:http://ncode.syosetu.com/n9073ca/



「紹介者からの但し書き」

空想を打ち合い、解釈で殴り合う妄想者達の世界の書き換え合戦『アリス・イン・カレイドスピア』(作品URL:http://sai-zen-sen.jp/fictions/kaleidospear/)もお勧め。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ