珊瑚/松井修平『潮の町』
その変化を人は成長と呼ぶのか、それとも狂気への墜落と取るのか──
潮風吹き付ける港町の片隅で、少年は運命的な友と出会い、考え、自分を見つめ直していく。
彼が失ったものと引き換えに手に入れたのは何だろう。この世界で生きていくことへの覚悟か、それとも色を失った場所で生きてはいけないという絶望か。
病的ともとれる鬱々とした雰囲気の緻密な描写。古めかしい扉のような質感のその文章は、短編の文量としてはさほど多いというわけでもないが、読後感はかなりずっしりしていて満腹になる。
普通であることと異常であることは実は紙一重で、そこに大差なんてものは存在しないのではないか。私たちは普段からいわゆる「狂気と普通」の狭間に住んでいて、何かのスイッチを押した瞬間、押された瞬間にどちらかへ転がり落ちるのではないか。そもそもその線引きは誰がしているもなのか。一般論とはどのようにして決まっていくのか。
読んでいる時にふとそのような考えが過ぎった。
純文学好きや哲学的思考回路の持ち主にオススメしたい。自分の中の「全て」が無に帰した時、あなたはどんな選択をするだろうか。
『潮の町』
作者名:松井修平
作品URL:http://ncode.syosetu.com/n7236cc/




