主催:八雲 辰毘古による序文
物語を読む感動とは、何だろう?
私はあえてこの問いを、読者の皆様に投げてみたい。
作品から得る感動とは、いったい何か?
溢れんばかりの情熱か。
予想を裏切る展開、期待を超える終結か。
感情移入したキャラの、成長した後ろ姿か。
鋭く心を抉る一文か。
迫真的な一場面か。
それとも作品を貫く一つのテーマなのか。
どれも真実だろう。あるいはどれとも違うとも言い切れるだろう。作品を読む感覚は、すべて読んだ当人のモノであって、他の誰にもわかるべくもないのだ。
しかし、感動したという事実は残る。
それは記憶となって残るだろう。
良い物語は、必ずや誰かの思い出となるのだ、と私は信じている。
そして(これはとても不思議なことだが)記憶の底にこびり付いた物語は、人間の口を借りて、SNSの文章を通じて、レビューを通じて、拡散する。さながらバトンリレーが延々と繰り返されるがごとく、作品が手から手を、口から口を、耳から耳を伝って、その是非を、喜びを、感動を広げてゆく。
悪事千里を行くだとか、悪貨は良貨を駆逐するだとか言うかもしれない。マハトマ・ガンジーだって、「良いものはカタツムリのように進む」と言っていた。しかし良いものを良いという言葉は、常に生きていると私は信じる。これは決して妄信ではなく、それとなく、レビューを書いたり作品に関するエッセイを書いてみたりした、私個人の経験に由来する直観でもある。
でなければ、こんな奇妙な企画に参加者など集まりはしなかっただろう。
去る2014年のレビュー祭り企画(http://ncode.syosetu.com/n8152cs/)には、16名の参加をいただいた。もともと創作ではなく、読む側からのユーザ企画だったので、果たしてどうなるかと思われたが、今年も同じぐらいの人数の参加をいただいた。大変ありがたいことである。
しかしいただいた原稿の質・量は前回の比ではない。そもそも作品からの感動は、個人的な体験であるから、優劣の付けようがないものだろう。しかしそれを表現しろと言われれば、容易ではないのだ。おおよそレビューを書くことに関して言えば、その創意工夫は創作者の執筆と同じぐらいの感性と文章力とを必要とする。それが40作品分だと思えば、なべてならぬ感慨を覚えずにはいられないのだ。
今回は前回とは異なる催しに仕立ててみた。
連載作品部門。「連載」のレビュー。
短編作品部門。「短編」のレビュー。
そして一言紹介部門。忙しいなどで字数が書けない人に向けて、200字未満のレビューを集めた。
この三つの部門から、紹介者各自の文章を味わいつつ、様々な作品へのアプローチを設けてみた。
また、前回は図らずもファンタジーが多くなったが、今回は現代物、本格文学、ハードSFや、時代小説……と、ジャンル的にも幅が広くなっており、その点においても楽しみ甲斐があると思われる。もとより「小説家になろう」内には、ランキングやこの度開催されるネット小説大賞のみでは見つからない、興味深い作品に溢れているのであるが、今回は、その中の、さらに普段は見かけない部分を見出すことができるだろう。
その意味で、今回も大変価値のある企画になったと企画主としては思うのだ。
さあて、またしても前置きが長くなってしまった。本企画は、要するに作品レビューのアンソロジーだ。読者の感動や考察がすべて文章に打ち込まれ、表現されている。
それは決して上手くないかもしれない。
しかし彼らは他ならぬ自分の言葉で、自分の感動を語ったのだ。
この作品は面白い、と言ったその言葉は、ポイントでは収まらない想いの結晶なのだ。
だからこそ、これから文章を読む方々に尋ねて回りたい。
あなたの感動は何ですか?
その答えが最後に見つかることを祈って……