0-0人はどうして戦争をするのか?
最初はゆったりめのスローライフです。
物語が始まるのは、1章からなのでそちらからどうぞ。
出るのは不定期なので気を付けて
私の名前はカルネと言います。年は12。
赤くて長い髪が特徴的な女の子です。
今日、学校から大変な宿題を出されてしまいました。
それはーー
『人はどうして戦争をするのか?』
「ん? どうして戦争をするのか?」
こくっと頷き、目の前で怪しげな液体を開発しているお兄さんに聞いてみた。
私の近所に住んでいるお兄さん。
私より4つ上のお兄さんで、昔からよく遊んでくれる人だ。
お兄さんは、「そうだなぁ…」と考えながら、液体に何かをドーピングしていた。
「まあ、理由なんて沢山あると思うが…。
たぶん……人が戦争をするのは戦争をどうしてもしなくちゃならないからかもしれないな」
「しなくちゃならない?」
ってどういうことだろう?
お兄さんは私をちらっと見て、言葉を重ねてきた。
「戦争というのは、どうしても犠牲が出来るものだ。
君に言うのはまだ早いとは思っているが、戦争が一旦起きてしまえば、誰かが必ず死ぬ」
「え……」
私は突然のことに驚いた。
死ぬ? 人が?
そんなの嫌だっ!
私はふるふると首を振って、否定した。
お兄さんはそれに気付かずそのまま話をしている。
「だから戦争というのは簡単にしちゃ駄目なんだ。
ほとんど言ってしまえば、戦争というのは国にとっての最後の手段だ。
どうしても譲りたくないとき、どうしても認めたくないときに抜かれる最終手段なんだよ。
だから、俺は戦争をするのはどうしてもしなくちゃいけないからだと思うんだ」
「………」
お兄さんはそこで言葉を切り、手を止めて私の方を向いてきた。
私は人が死ぬことにショックを受けて固まっていた。
お兄さんは私の様子を見て、ふっと笑った。
そしてぽんっと頭に手を置かれて、そのまま撫でられた。
私は突然触られてびっくりしていたが、その内撫でられる感触に気を取られて、目を細めた。
「ん…」
「俺は戦争はしたくないし、させたくないと思っている。
けれど、戦争というのはどうしても起きてしまうもんだ。
でも、だからこそ俺は戦争を止めたいと思っている」
頭に置かれたお兄さんの手が離れた。
私はもっとして欲しかったな…と残念な気持ちになった。
ふとお兄さんの目を見る。
いつの間にか顔つきは真面目なものに変わっていた。
「俺はどうしてもやりたいことがある。そのためにも俺は戦争をさせるわけにはいかないんだ」
そう語るお兄さんの言葉には何か力があった。
その目は語っていた。
「……だから、もし戦争が起きそうになったら君は逃げるんだぜ?」
「…うん」
お兄さんの笑みには私を思う気持ちが見え隠れしていたように思えた。
でも、私は指を指す。
具体的にはお兄さんの手元にある謎の液体を。
「それなあに?」
「……俺の…夢かな?」
学校でトリスタと呼ばれる黒髪黒目のお兄さんは、その時だけ目を上に逸らしていた。
うん、知ってた。このお兄さんが作っているのが悪戯用のシロップだってことくらい、知ってた。
「へえ……。最近の学校はそんなことを考えるのか」
「うん」
私はトリスタさんの友人である背の高い男の人に話をしていた。
この人の名前は流瀬鋼さん。
トリスタさんの古くからの友人で、今日はご飯を食べにトリスタさんの家に来ていたらしい。
トリスタさんはよくこうやってご飯を奢ってくれることがあるので、私もトリスタさんの家でよくご飯を食べに来ていたりする。
私と鋼さんは、トリスタさんの家にある食堂の一角で晩御飯が来るのを待っていた。
「戦争か……。また面倒な宿題を出してきたな」
「…うん」
鋼さんは、トリスタさんと同じ年のお兄さんだ。トリスタさんみたく明るいわけじゃないけれど、一緒にいると何だか落ち着いて安心する。
背がめちゃくちゃ高いから、最初は怖い人に見えたけど、トリスタさんとのやり取りを見ているとそうでもないことが分かり、今はこうやって話をすることが出来たりする。
鋼さんは麦茶を少し飲んで、静かに語った。
「……こいつは俺の個人的な話なんだがな……」
「うん」
「人にも色んな人がいてだな…。その中でも、世界で一番になりたいって考えてる奴がいるんだよ」
鋼さんは何処か遠い目をして、窓の外を見ていた。
まるで昔のことを思い出すように。
「そいつが世界で一番になって、世界平和にするって言って、隣にある国に戦争を起こしたんだよ」
「え、どうして?」
なんで世界平和を目指す人が戦争なんて非道なことを……。
「どうしてか? ああ、そりゃな。そいつが話してた。
『世界平和にするには、世界を制服しなくちゃ駄目なんだ』ってな」
「だからって……それは」
「間違ってるよな。平和を志してる奴がそんな理由で戦争なんてことをしたら意味ないからな」
鋼さんは悲しそうに語っていた。
話には聞いたことがある。
鋼さんは昔から不幸な人だって。
だからなのか、不幸な運命に遭っている人によく出会うらしい。
トリスタさんと鋼さんはたまに姿を消すことがあるのは、そんな人達を救うためだったりするらしい。
私は思う。
この人達は凄い人だと。
だけど、そんな人達でもどうしようもないことがあるなんて思わなかった。
昔から強い人だと思っていた私は少し意外だと思った。
「でも、そんな理由で戦争する馬鹿野郎はいるんだよ。何処でもな…」
「……どうしてそんなことをしてしまったのでしょう?」
「さあな。でも、俺は今まで生きてきてひとつ分かったことがある」
「?」
「世界制服するしか世界を平和に出来ないなんて思ってる馬鹿野郎じゃあ、世界を平和に出来ない。何故なら、必ず他にそう思っている奴とぶつかるからだ」
そう言って鋼さんは麦茶を飲み干した。
私はさっきの話を聞いて何だか辛くなった。
同じ平和を志してるのに協力しあえないなんて、悲しいな。
「オムライス出来たぜハガネー!」
「おっ、来たか。…ってなんだこれ」
「?」
私が落ち込んでいると、いつの間にかトリスタさんがオムライスを持ってこっちに来ていた。
私はオムライスを見る。
オムライス自体は何もおかしいところはない。
ケチャップが掛けられていて普通に美味しそうなオムライスだ。
ただーー
「やけに作るのがおせえと思ったらこれが原因か…」
「そうだぜ!」
「どや顔で言うことじゃねえ! 何てめぇ女の子の形したオムライスなんざ作ってんだよ馬鹿野郎!」
「見て感じないのかっ!?この男のロマンをっ!!」
「知るかアホ!」
「9分の1スケールだぜ! 何も思わないとは貴様、男じゃないのかっ!?」
「何故そうなる」
「え、だって女の子に興味ないんでしょ?
つまり、女の子とズキューンしてバキューンしたくないんだろ?」
「ふ、ふえ…?」
ピーしてピー? 一体なんのこと?
私は頭の上にハテナマークを浮かべて小首を傾げていた。
鋼さんは呆れた顔してトリスタさんを見ていた。
「なんつー話を真面目な顔して言ってやがる」
「エロトークは、男として当たり前の会話のひとつだと思うが……?」
「てめえの当たり前は一般的な戦闘学校の生徒としての当たり前とかなり違うと俺は聞いているが?」
「エロトークは違うわ! 隣のダークもしてたもん!」
「あいつも異常だろうがっ! つか、あいつもするのか?」
「するぜ? この間も口にボーンして、首をドキューンして……」
「それゾンビトークじゃねぇか!? どんな猟奇的変態だよ!」
あの鋼さん……。いきなり耳を塞がないでください。
びっくりします。
「つか、子供! ここにカルネがいっだろうが(いるだろうが)!」
「あー? …おおっ! カルネもいたのか!」
「さも今気付いたみたいなオーバーリアクションはいらねぇんだよ。さっさと晩御飯置いてどっか行け!」
「ひっでぇ!」
「さっさと行きやがれ!」
「あたっ!? やめれ! 痛い!」
鋼さんが拳を振るって、トリスタさんを追い出してしまいました。
「ったく、あの馬鹿は……」
「……あの」
「……ん? どうした?」
「鋼さんはどうしてトリスタさんに暴力を振るったんですか?」
「は?」
「あう……。やっぱりなんでもないです……」
怖い……。
しかし、鋼さんは特に何もせずただ呆れていた。
「あー、あれか。あれは暴力の内に入らないから大丈夫だ」
「え? どうしてですか?」
だって、さっきトリスタさんの背中を強く殴ってましたよね?
どうしてあれが暴力じゃないの?
答えの分からない私の顔を見て何か思うところがあったのか、鋼さんは私の顔を見ながら答えてくれた。
「あいつはこうなることを分かってやってやがったんだよ。簡単に言えば、殴って欲しそうだったからだな」
「そうでしょうか?」
それはないと思うのですが。
あと、鋼さんはトリスタさんのことを話そうとするとき少し口調が砕けてますね。
「あいつも俺も分かってるから問題ない。だから大丈夫だ」
「乱暴ですね……」
「じゃあ、不器用なだけだ」
不器用すぎるでしょう……。
「俺らの会話なんてあんなもんでいいんだよ。あれくらい雑な方が気が楽だし、面倒がない。それがあいつも俺も分かってる」
「なんでそう思うんですか?」
聞いた訳でもないのに…。
「俺はあいつのことをよく知ってるからってのも理由のひとつだが、他にも頼まれてることがあるからな」
「頼まれてること、ですか?」
「馬鹿やったら叩けとあいつに言われてるんだよ」
「…トリスタさん」
あ、呆れてものも言えません…。
「よく分かんない……」
「まあ、分かるときがいずれ来るさ…。さてと、そろそろ食べようぜ。腹減った」
私と鋼さんは妙にリアルに作られた女の子の形をしたオムライスを食べ始めた。
晩御飯を食べ終えたので、そろそろ帰る時間になった。
「女の子一人だと夜道は危ないから」とトリスタさんの友人のエルフのお姉さんが私を家に送ってくれることになった。
「じゃあ、トリスタ。また来るね」
「おう、また来いよ。んじゃなー!」
「ばいばーい」
バタン。
「じゃ、カルネちゃん。よろしくね♪」
「うん! よろしくっ!」
エルフのお姉さんは私の言葉に満足した様子で笑顔で頷いていた。
このお姉さんの名前はシルフィさん。
綺麗な銀髪と翠の瞳が特徴的なお姉さんだ。
シルフィさんはトリスタさんと鋼さんの幼馴染みなんだって。
キャー! 幼馴染みだって!
私は女の子だからこういうことにも興味はある。
あのお兄さん達の中からシルフィさんは誰を取るんだろう?
ちょっとわくわくするな……。
「そう言えば、カルネちゃん」
「な、なんでしょう?」
突然シルフィさんが私に話し掛けてきた。
私は邪な考えをしていただけあって、つい肩が跳ねあがってしまった。
シルフィさんはそんな私の様子に気付いているのか気付いていないのか話を続けてきた。
「今日、ハガネから聞いたんだけど……。何か宿題をしているんだって?」
「……はい」
「どんな宿題なのかな?」
「ええと……」
私はシルフィさんに宿題のことを話した。
「『どうして人は戦争をするのか?』ね……。また哲学的な宿題が来たね」
「はい……」
「うーん……。戦争の理由なんて人それぞれだと私は思うんだけれど……。それじゃあ、駄目だよね」
困ったなぁ、なんて言いながら考えるシルフィさん。
シルフィさんは、エルフだからか美人だ。
しかも、一つ一つの仕草やアクションがとても女の子らしい感じが漂ってくるので、ちょっと私は自信を無くしそうです。
何処と無く優しくて穏やかで、とってもお姉さんな女の子なので、余計そう思ってしまいます。
しかも。
「ん? どうしたの?」
「負けた…」
「え? いきなりどうしたの?」
エルフと人間ってこんなに違うのか…。
自分のと相手のを見て、つい肩を落とす私。
女の子はあそこだけじゃないとは分かっているものの比べたくなるのは仕方がないと思うんだ。
「憎い…」
私はシルフィさんをにらむ。
シルフィさんはなんのことだか分かってないみたいな顔をして、私の顔を心配そうに覗き込み、頬に手を当てて「大丈夫?」と首を傾げた。
ズキューン!
私はシルフィさんから目を逸らした。
駄目だ……。私の恨みが全く効いていない。しかも、一瞬だけ心が揺れてしまった。
いけないわ! シルフィさんは女の子なのよ!
そんなことを考えてちゃ駄目よ!
私が己の心と向き合っていると、シルフィさんが「大丈夫ならいいんだけど……顔が赤いわよ?」と指摘してきた。
意外と察しがいい。
「戦争がどうして起こるのかだったわね?」
「え? はい」
いきなり話題を振ってきた。
正しくは『どうして人が戦争をするのか』だけど。
「そうね……私の意見としては、戦争が起こるのはろくでもない人が戦争を起こすからだと思うわ…」
「ろくでもない……ですか」
「ええ。自分のことしか考えない、傲慢で強欲な人間が、自分の私利私欲のために戦争を起こすのよ…」
「そんな人がいるんですか…」
「ええ。いるわ」
「意外とたくさんね」と付け加えてくるシルフィさん。
昔何かあったのだろうか?
何だか厳しげな顔をしている。
「私はエルフだからね。そういう人間のことはあまり好きじゃないの」
「なんか…すみません」
「いや、カルネちゃんがそうと言ってる訳じゃないのよ?
ただ、そんなろくでもない人もこの世の中にはいるって言うだけの話なの」
ほとんどのエルフは人間が嫌いだ。
それは間違いない。
人間は自然を壊すし、非道なことも平気でする者もいる。
だから森の賢者と謳われたエルフ達に酷く嫌われている。
シルフィさんはエルフの中でも比較的人間のことが嫌いではないのは分かっているけれど、それでも嫌だと言う人間はいるみたいだ。
「本当に困った人達よ…。あんな人間はいない方がいい。私はそう思うわ」
「シルフィさん…」
エルフが人間嫌いなのはここにもあるのかもしれない。
私はそう直感した。
そして、こうも思った。
悲しい、と。
シルフィさんだって人間がそれだけじゃないのは知っているはずだ。
だから、私はただシルフィさんが今でも人間のことを信じていないことが嫌だった。悲しかった。
「でもね、私はあの二人を知っているからそこまで人間が嫌いじゃないわ」
二人とはもしかして……。
「だから大丈夫よ、私はね。
……ほら、着いたわよ」
いつの間にか私は家に着いていた。
私はシルフィさんを見る。
「カルネちゃん、またね」
そう言って、ひらひらと手を振るシルフィさんの顔は笑っていた。
エルフが笑うことは滅多にないと言う。
もしかしたら、シルフィさんが今笑うことが出来たのはさっき話していたあの二人のことなのかもしれない。
私はそう思った。
サンクス!