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黒い逆三角形  作者: KL
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何でも屋

三つ鱗。聖なる三角形(セントトライアングル)。これは全てある図形の名前だ。

正三角形を三つ合わせた形。日本でもとある武士の家紋として有名だ。


挿絵(By みてみん)


この形は外国でも古来よりこの形が散見され日本の古文にはこう書かれている。現代の言葉に直すと…


『時の権力者は三匹の蛇女を追い求めた。一匹は力を求め薮の奥底に篭もり、一匹は勇気を求め世界の果てへ立ち、一匹は愛を知り人間と子を成した、時の権力者は追い求めたが結局手に入れることは無かった。しかしその執拗の念か三匹の鱗を模した物を家紋とした』


そして外国の古文にも書かれている。これは中世の時代のものだ。


『ある所に三匹の化物の姉妹がいた。彼女らは下半身が蛇の姿をしていていたが三匹の姉妹はそれぞれ力、勇気、愛を求めた。長女は力を求め森の奥深くに篭もり出てくることは無く次女は勇気を求め地獄の門を叩き三女は愛を知り青年と結婚し子を授かった。三匹が揃った時それぞれの鱗が剥がれ聖の三角形となり今に引き継がれた』


と世界中にこの形の伝説が残っている。そして異なる世界にもこの形が深く関わっていた。

これはそのお話である。



「何でも屋…あった」


一人町外れを歩く女。歳は二十六ぐらいだろう。青い髪を揺らし一軒のお店にたどり着く。


「何でも屋『アッシュ』…これだ」


少しぼろくさいお店。でかい看板に『アッシュ』と書かれただけのお店。未だ道路の舗装も無いような時代だから仕方がないのかもしれない。

酷く軋むドアを開けると、まず大量の本が目に入った。


「これ全部魔法書?多いな」


整然と本棚に詰まっている。魔法書とはその名の通り魔法を扱うための書物だ。

この書物の中に魔法が詰まっておりそれを使役する。やり方は使いたい魔法の一文を指差す。そうすると指に魔法が宿りそれを相手もしくは自分に当てるのだ。もちろん使うには生まれ付いての力、魔力が必要だが。


「いらっしゃい、客なんて久しぶりだ」


歩を進めていくと机と男がいた。赤い髪で少し短髪。一冊のグリモワール、魔法書を見ていたようだ。


「用件は?」

「私の村を救ってもらいたいの」

「そりゃどういうことだ、ん?」


ニカッと笑う男。何でも屋らしくない。手袋をしている手を組み用件を聞こうとする。前屈みになるとカメオに穴を開けたのだろうか太陽の模様のペンダントが目に入った。


「俺は、アッシュお前は?」

「アンナよ、詳しく話すわ」

「あぁ少し待ってろ椅子出すから」


机の裏から椅子を引っ張り出すアッシュ。アンナはそれに腰掛けると話し始めた。


「村じゃ税金を自由に決められる権利を持っている奴らがいるの、そいつらが…」

「異常に高い税をかけている、って事か?」

「そう、父さんも母さんも餓死寸前で」

「なるほど、さてさて」


おもむろに紙を取り出すアッシュ。猛烈な速度で羽ペンを走らせる。


「これを持ってろ」

「何これ?、呪文?」

「まぁまぁ、そのうち分かる」


村まで案内してくれ。アッシュは一冊の魔法書と襤褸布を懐に入れながらそういった。


「ついてきて、案内するわ」


ひたすらに長い歩きが始まった。村があるのはこの何でも屋の町外れの反対側。

つまり街の中心を通って反対側に行く。かなりでかい街なので歩くと三時間はかかる。


「王都は避けて通らないと」

「あそこか、確かにな」


王都とは貴族が暮らしている地域の事だ。王がいる城の回りになる。

円形の街なので自然と住み分けが出来てしまった。

中心を王都。その外側を町民が住んでいる。そしてその外、外壁の外に村があるのだ。

もちろん王都は交通規制をしているわけではない。ただ躊躇してしまう。

貴族が住む地域だけあって外の住民がおいそれとは入れない雰囲気なのだ。


「やっと外門が見えたわ、もうすぐよ」

「あぁ、久しぶりに来たな」


昔は良く通っていたんだ。横にいるアッシュが言う。そうなの?横にいるアンナが問う。

こうやって軽く話しながら外門までたどり着く。別に許可証が必要なわけでもない。

年がら年中開いており好きに通れる。村の特産物を運んだりする大切な通路だ。


「見えたわ、私の村よ」


煉瓦造りでもなくただ木を編み合わせたような粗末な家だ。アッシュのお店より劣るだろう。中に入ると肉が無くただ皮だけの人間が二人。アンナの両親だ。


「父さん! 母さん!」

「おぉ、アンナいたのか? 救世主は」

「えぇ、いたわこの人よ」

「どーも、何でも屋『アッシュ』です」

「何でも屋?ふざけるなこっちは真剣に死に掛けているんだ冷やかしなら帰ってくれ」

「いいえ、俺だって真剣に働いてるんですご要望は?」


しゃがみニカッと笑うアッシュ。母はもう口が利けないほどに衰弱しており父が全ての会話をしている。父はどこか諦めたような口調になった。


「そうか、じゃああの家が見えるか」

「いかにもって感じだな、あそこが?」

「あぁそうだ、あそこに金をたらふく食ってる奴がいる」

「りょーかい、銭まくぞ覚悟しておけ」


いかにもというのはその家が紫やら黄金やらの色で出来ていたからだ。いかにも悪銭で作りました。と感じる。アッシュは外に出ると深く呼吸をした。そしてその目が変わった。濁り生きているのもやっとと言う感じに。


「さぁ、行こうか」


横にいるアンナに言ったわけではない。口の形だけでそういった。自分で言い聞かせているように。


「あのー…」

「なんだ!お前は!」

「旅をしているのですが…もう死にそうなんです何か恵んではくれませんか?」


アッシュはアンナに自分の家の前で待っているように言った。張本人はさっき持ってきていた襤褸布を被り本当に死に掛けている旅人のようになった。


「ふざけるな!貴様なぞにやる食料なぞない!」


門番であろう制服を着た二人組がそれを拒絶した。そうですか…とぼとぼと帰っていく。

その時アッシュは懐から一冊の本を取り出した。勿論読み物などではなく魔法書だ。


「罪人を追い捕まえよ…」


これは起句と呼ばれるものだ。これを唱える事により、より強い魔法が使えるのだ。

この起句は拘束魔法だ。拘束魔法はその名の通りあいてを魔の鎖で縛り、素質によっては気絶させる事が出来る。アッシュはその素質があったようだ。本の一文を指差し宿った魔法を二人に指差す。魔の鎖が二人を締め付けるのと同時に気絶した。


「ふぅ、おーい!アンナ来てくれ!」


アンナを呼び門番の服を剥ぐ。近くの木に縛りつけ、剥いだ制服に着替える。アンナの長い髪は帽子の中に全て納まった。

二人で似合わないなどと軽口を叩きながら中に入る。そこでアンナは身震いをする。

アッシュの目がまた変わったのだ。自分は誰よりも偉いという自己中のような考えの目。

そして強いものに媚び諂う目になったのだ。


「すみません、新しく入ったのですが」

「んそうか、この村じゃ見ない顔だな他所から来たのか?」

「えぇ、この隣にいる女と同じ出身です」

「頑張れよ、今日もこの村の金を巻き取るぞ!」

「はい!」


家の中にいる警護兵だろうか。気さくに話しかけるアッシュ。アンナは指示で俯いている。

しかしその内容はこの村にとって害悪の塊だ。未だ金を巻き取るとは。アンナは憤怒で手を握りしめた。


「我慢しろ、どうしても駄目ならコソッと俺にいえ」


さっきの動作を見られたのか、アッシュが耳元で囁いた。アンナはこくんと頷くと共に歩を進めた。しかしどの兵も自分達がやっている事が悪だと気づかない。それどころかむしろ進んでやっている。アンナの怒りは溜まっていく。その時である。一人の兵が近寄ってきた。


「おい!ボスが呼んでいるぞ!」

「!ボスがですか!すぐ行きます!」


兵の案内のまま一際大きなドアの前に着く。中に入ると今までいた警護兵が揃っていた。


「はっはっは、君達に報告しよう」

「はっ!何でございますか!」


跪き頭を垂れる。アンナもそれに倣った。しかしボスと言われた男は予想外の事を言った。


「外にいた兵が木に縛り付けられた、君達は何か知っているか?」

「いえ!私共が会った時は特に変わった様子などありませんでした!」

「ふっふっふしらばっくれるな、お前達が潜り込んだ鼠だって事は分かってるんだよ!」


これを期と見たかアンナがボスと呼ばれた男に切りかかる。アッシュは特に何をする訳でもなかった。


「く!離せ!金を返せ!その私腹を肥やしている物を全部出せ!」

「うるさい!痛めつけろ!」


これを聞いた警護兵の誰かがアンナに殴りかかる。その時だ。


おいおいおい(……)


空気が重くなった。息がし辛くなった。その原因は他ならぬアッシュが作っていた。


「そいつを放せ、いいな」


押さえつけている兵と目を合わせる。瞬間兵の足は動きアッシュの前でアンナを放した。


「俺と目を合わせるな、いいか」

「う、うん」


アンナを一度も見ないで言い放つ。アッシュは一歩前に出た。


「さて、金はどこだ?」


ボスと呼ばれた男に目を向ける。しかしボスはすぐに目を背けた。賢明といえるだろう。


「やれ!やってしまえ!」


兵達に命令する。それで勢いづいたのか一斉にアッシュにかかった。しかし。


「うるさい」


アッシュが右手を横に振った。かかった兵が全て右に吹き飛ばされあるものは気絶しある者は恐怖に慄いた。


「さぁ!金はどこだ!」


ボスの顔を掴み否応を言わさない。目を合わせ案内させる。今までボスと呼ばれた男が座っていた奥にドアがあった。そこには村人が血を吐いてまで集めた税金が山になっていた。


「こりゃすごいな、!」

「動くな!こいつの首が飛ぶぞ!」


金のせいで集中が切れた時を狙ってアンナの首にナイフを添える。しかし。

アッシュが人差し指を立てる。その指にあの魔法の光が宿る。これは。


「いい加減にしろよ!、このスッタコ!」


指を突き立てる。この魔法は束縛魔法の変化形だ。魔の鎖を投げつける。手袋も一緒に抜けたようだが。アンナは右手の黒いあざに目が行った。黒い三角形のあざ。そして今の魔法。


「大丈夫か?、もう目を合わせても平気だ」

「あ、うん平気特に怪我があるわけじゃないわ」


あの息苦しさがフッと消えてしまいアンナの手を握り立たせる。この時様々な疑問が息苦しさと共に消えてしまった。ボスの前に落ちてた手袋をはめ金を広場に集め村人も集めた。


「さぁさぁ!今までの税じゃ!持ってけ!持ってけ!」


金を投げるアッシュ。それに沸く村人達。アンナは食料庫から食材を持ってきて一人ずつ配っていった。泣き出す村人もいれば肉親と抱き合い喜ぶ村人まで様々だ。


「銭まくぞ!銭まくぞ!そーら!まだまだ降るぞ!」

「まだ食べ物はあるからね!好きなだけ食べよう!」


アンナはなきながら配っていた。久しぶりに村人の笑い声を聞いた。それで十分だ。


「アンナ」

「父さん!母さん!」


衰弱しているのにふらふらになリながらアンナの前まで来たのは両親だ。


「ほら!アッシュが助けてくれたんだよ!食べよ!」


ぽろぽろと涙を流しながら両親に食料を渡す。父も母もそれを食し涙を流した。


「うまいのう、あぁうまい」

「…美味しい美味しいわ」


アッシュもにこやかにそれを見ている。しかしそれを壊す音。

蹄の音が二つ街のほうから聞こえてくる。村人はそれに慄いた。なぜなら彼らの胸にはある図形が彫られているからだ。三つ鱗。聖の三角形。その図形が。


「この騒ぎ、どういうことだ!」

「今回、圧倒的な魔力を感知したから来てみたけど…」


力を表す黄色の三角形を胸に刻んでいる大男。そして勇気を表す青の三角形を刻んだ少年。


「お前!こっちを向け!」

「断る」


アンナを含め村人が一様に跪く中ただ一人アッシュだけは背を向け仁王立ちをしていた。


「貴様!私達が誰だかわかっているのか!」


大男が憤慨する。しかしアッシュは右手を上げた。


「貴様らこそ暫く見ない間に随分と傲慢になったものだ」


振り下ろした瞬間、がくりと膝を付く。息苦しさが二人を襲う。これに驚愕した。


「あなたは…!あなた様は…!」


少年が声を上げるが声が震え恐怖に慄く。ゆっくりと二人のほうを向いたアッシュ。


「…ソレイユ様!」


ソレイユ。アッシュはそれを聞くと今までの優しそうな顔が一変した。厳格な頂点に立つ男の顔。


「久しぶりだな、パーン、テセウス」


これでアッシュ以外が膝をついた。パーンと呼ばれた大男が声を発した。


「なぜあなた様がここに?あなたはお亡くなりになった筈では!?」

「貴様らが気づかんだけだ、それより今でも忘れている訳ではないだろう」

「はっ!我パーン!力を表す者は」

「我と戦え」

「我テセウス!勇気を表す者は」

「我と対峙しろ」

「我ら三人衆!黒き三角に忠誠を誓う者!」

「よし、とまぁ堅苦しいのはここまでだ!久しぶり!」


厳格だった顔が普通の優しそうな顔へ戻る。ニカッと笑い二人を立たせる。


「ほらお前らも!こいつらに遠慮するな!」


村人に叫ぶ。いいのか?と声が聞こえたがいいんだ!とアッシュがいい村人が立ち始めた。


「アッシュ、あなた何者なの?」


コソッとアンナがアッシュに聞く。しかし返ってきた答えは意外なものだった。


「俺は、何でも屋『アッシュ』だ!他に御用は!?」

「ぷっ何それ!」


襤褸布で頭を覆い頭巾のようにしたアッシュ。まるで大きい照る照る坊主のようだった。


「ソレイユ様、私達は帰らせて頂きます」

「おう!妹によろしく言っておいてくれ!」

「…はい」


二人が馬に跨り王都に走っていく。それを見送ったアッシュは何かを思っているようだ。


「…妹か、五年も離れてたら俺の事覚えているかな…」

「あなた、シスコン?」

「まぁな、妹は昔から可愛がったもんだ」


五年前。さっきからこの単語がアッシュの周りでちらつく。


「じゃあ俺も帰るか、あっアンナあの呪文あるだろ?もうすぐ夜だし使おうか」

「これ?本当にこれ何なの?」

「これはな、こう使うんだ」


指差し魔法の光が宿る。それを空に飛ばす。魔法の光は尾を引いて上空で破裂した。


「わぁ!」

「花火だ、祝いになると思ってな」


次々と飛ばす。この呪文は聞いたことが無い。アンナは、


「これ、なんて魔法?」

「うーん、そうだなぁ花火でどうだ?」

「あなたのオリジナルなの?」

「あぁ、作るのは結構簡単に出来るから今度教えてやるよ」


花火を打ち上げながらアッシュが言う。ほらお前もやってみろ。紙を渡されアンナもやってみる。しかしパスンと情けない音と弱々しい光しか出来なかった。これでも魔力を全て込めて大きな花火を上げようとしたのだが。


「(一気に魔力が持ってかれた…)」


アンナは村一番の魔力の持ち主だ。自信はあった。


「ほらアンナ貸してくれ、まだまだ上げるぞー!」


大きな花火を何発も上げる。百を超えまだまだ上がる。魔力の化物だ。


「じゃあな!」


村人全員に送られ帰路に着くアッシュ。アンナの隣にいた父が静かに言う。


「本当に救世主だったな、アッシュは」

「えぇ、見つけて良かったわ」


ほんの一日だけ一緒にいただけで驚く事が沢山あった。あのやってきた二人はこの世界で三人しかいない頂点にいる人間だ。名を三角形の騎士団(トライアングルナイト)と呼ばれる。

そのうちの二人なのだ。それを跪かした。頂点を越える頂点。聞いたことも無い。

そしてあの魔力。今思えばあの右手で人を吹き飛ばしたのは高濃度の魔力を当てたからだ。

魔法書を使わずに魔法を使う。途轍もない魔力を使う花火の連発。なぞは沢山あった。


「アッシュ…あなたは何者なの…」


小さくなっていくアッシュの背中に問いかける。答えなんて返ってこない。と思ったら。


「うわぁ!」


一際大きな花火を上げた。この後アンナとアッシュが出会うことは無かった。


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