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第4話 その女来たりて


 眠い! 午後の授業はどうしてこう眠いのだろうか? 満腹なお腹のせい? それとも退屈な授業のせい?

 我ながら変な事を考えているな。早く終わらないかなと私は愚痴をこぼした。すると隣りの席から声が聞こえて来る。


「まこと、それは先生に面と向かって、直で言いなよ!」


 こいつの名前は野口愛花(のぐちあいか)。彼女は私の一番の親友だ。髪は肩までかかる長さ、ぱっちりとした瞳はブラウンかかっている。モデルのような体型は消磁器羨ましい。元気で活発的な女子だ。気が合い良く遊ぶ。


「確かにそうかもしれないけど、私には勇気がない。あいか、あんたが言ってよ」


「ばーか、誰がそんなめんどくさい事……そんな事より、いつも早く帰ってるよね? なんで?」


 それは峻くんのところに行ってるからって、言えないよ。

 地獄の住人の話なんかしたら馬鹿にされるだけ。さて、どう説明したものかな。


「まさか、彼氏出来た? だったら紹介してよ、私がどんな奴か見極めてあげるわよ!」


「ち、違うよ!」


「何が違うんだ、皆川?」


 後ろからの声に振り向くと、担任の竹下優美先生が立っていた。


「げ、タケピー」


「コラ! タケピーって呼ぶな! まったく、ほれ教科書読め!」


 ああ、えっと、何処だっけ? 国語の教科書をペラペラと開いて行く。あははは、ページが分からないや。


「ん~、なんだ? ページが分からないか?」


「あ、あははは!」


 必殺、笑ってごまかすを発動。さて、タケピーどう出て来る?


「漢字の書き取り10ページ、明日までにしてこい!」


「そ、そんな~」


 私の惨敗だった。


 時間が進み、放課後の帰り道。私は愚痴をこぼしながら、あいかと帰っていた。

 空は綺麗な夕焼けなのに、私の心は曇りだよ。


「くそ~、漢字は苦手なのに」


「あんたが悪い、大声出すからだぞ!」


「あいかが、変なこと言うから……」


「まぁいいわよ、今度噂の彼に会わせてね!」


 あいかが嫌らしく笑う。もう、勘違いをしないでよ! 彼とはそんなんじゃないんだから。


「だから違うって言ってるでしょ!」


「あははは、マジ怪しい。じゃあね、また明日」


 あいかと分かれた。まったく、峻くんとはあいかが思っている様な関係では無いのに。

 じゃあ、どう言う関係?

 今まで考えた事がなかったな。不思議な関係だ。

 彼は私の事をどう思っているのかな?


 いろいろ考えているうちに峻くんのマンションの前に来ていた。毎回なれないんだよなこの階段は。設計した奴はこうなるって気付かないの? いつも階段を上がるから、おかげで太股がはってきたような気がするよ。

 最上階、峻くんの部屋まで進む。部屋のドアまで来て、いつも通りに部屋のドアを開ける。来たら勝手に入って良いと言われているのでチャイムは押さなかった。


「峻くん、来た……」


 思考停止。私は目の前の光景が信じられなくて、固まってしまった。

 なぜ、こんな事になったかと言うと、部屋に峻くんともう一人の人物が居るのである。

 普通なら友達かなとか考えるのが普通。だけどそこに居るのは女性だ。しかも、下着だけの!


「あ、ま、まこちゃん!」


 明らかに動揺する彼、横にいる短い髪で体のラインが綺麗な女性は、黒い下着姿で彼の横に座って居る。

 沈黙の中、彼女は私の予測しない行動をする。サッと立ち上がると私目掛け走って来る、そして私に抱き付いた。


「な、なんですか!?」


 もう訳が分からなかった、混乱する頭、その時、彼女が信じられない事をささやく。


「……けて……」


「え?」


「助けて!」


 彼女が潤んだ瞳を向けて叫んだ。


「あ、あの、どう言う事ですか?」


「こ、この人が、無理やり私を部屋に連れ込んだんです! 服も脱がされて、おとなしくしろって! わ、私、怖くて……うわああああん!」


 はい? は? え? つまりこれって、監禁事件? まさか、峻くんがそんな事する分けないよ。でも、彼女の涙は本当だ、ひどくおびえている。

 嘘、まさか女を力でねじ伏せた?


「峻くん、あなた……」


「ま、まこちゃ……」


「そんな人だったなんて!」


 怒りが溢れ出る。素早く峻くんの前に移動、そして拳を握り締めた。


「歯ぁ食いしばれ~、このすけこまし!」


「ヒィイイイ! 違うんだ! 誤解な……」


 激しく殴る音が飛び交う。骨の折れる様な音や、肉の裂ける音が激しく響く。その度に峻くんが悲鳴を漏らしている。


「サイテーよ! 女を暴力で支配しようなんて、この人でなし!」


「ご、誤解だって……話を……」


「うるさい! 心臓、動かすなぁ!」


 激しく殴る音の世界が支配する。修羅場の中、木霊する声があった。


「ふ……ふふ、あははは! おかしいよ~! あははは!」


 彼女が大爆笑していた。な、何? 私は状況がよめず意味が分からない。


「待った、待った、それ以上は死ぬよ? ププ……あはは、嘘よ嘘、こいつにそんな度胸ないって!」


「へ?」


「峻ちゃん、意外にやるじゃん、こんな彼女作ってたなんて」


 えっと、話が見えないんですけど?


「えっと……あなたは?」


「ごめんね、紹介遅れちゃつたわね。名前は佐波葉子(さなみようこ)、そこに転がってるヤツの、お姉さまよ!」


「え? あ……えーーーー!」


「だ、だから……言った、のに」


 峻くんは瀕死状態になっていた。嘘! 私は恥ずかしいやら、申し訳ないやらの感情が溢れ出し血の気が引く。


「あ、やだ、ごめんなさい、だってこの状況って……ねぇ?」


 峻くんは痙攣しながら、私を見つめていた。うっ、そんな姿が哀れで直視できない。


「と、取りあえず、助けて?」


 しばらくして、ようやく静けさが訪れる。私は峻くんを介抱しながら心配していた。


「あの、大丈夫? 峻くん」


「あはは、生きてるよ~」


「あ~傑作だったわ! ビデオ撮りたいくらいよ!」


「姉さん、怒るよ」


 かなり怒ってる、取り敢えず至極当然の疑問をぶつけてみることにした。


「あの、なんで下着姿だったんですか?」


「あ、私、家の中じゃあ、いつもこの格好、楽なんでね。まぁ弟に見られたってどうって事ないからね!」


「だから服着ろって言ったのに」


「気にしない、気にしない」


「「あんたが言うな!」」


 見事に二人の声がハモる。


「おー怖、そんな怒らないでよ~」


 とんでもない人、彼女はどんな人って聞かれたら絶対こう言うだろう。峻くんも大変だねと彼に言うと、苦笑いを浮かべて笑っていた。何だか気の毒。


「そんな事より、峻ちゃんこの人は誰かな~? ほれ、お姉さまに報告、報告!」


「……彼女の名前は皆川真、友達だよ」


「友達ね~、ふーん……ま、そう言う事にしとこう!」


 彼女は私と峻くんを交互に見て、ニヤニヤと笑っている。何を考えているんだろう? 多分、ろくでもない事だろう。間違いないと思う。


「まことね、これからよろしく!」


「あ、はい、よろしくです。葉子さん」


「葉子でいいよ、何なら、葉子様でもいいよ~?」


 あはは、峻くんと同じような事を言っている。姉弟なんだなぁと実感する私だった。

 しかし葉子さんの顔を眺めていると妙な感覚になる。


「あれ? 何処かで会った事ありませんか?」


 葉子さんの顔を見ていたら何処かで会ったような感覚に襲われた。何故だろう?


「いいえ? ……あ~分かった、まこと映画とかよく見る?」


「はい、映画よく見ますよ!」


「私、これでも女優の卵なのよ? エキストラとかでも出た事あるからそれで知ってるんじゃない?」


「あ、なるほど……なっとく」


「どうだった? 私の演技は、本当に泣いてるみたいだったでしょ?」


「姉さん怒るぞ!」


「はいはい、私が悪かったって~」


「あはは……」


 もう、笑うしかない。それからいろいろと話を聞いて行く。峻くんが葉子さんに質問を始める。


「ところで姉さん、何で来たの?」


「何よ~、かわゆい弟ちゃんに、会いに来ちゃダメなわけ?」


「あのな、いきなり来て、いきなり脱ぎだして、何も聞いて無いんだぞ? そしたら、まこちゃん来ちゃうし……迷惑だった!」


 彼女は今日は暇な日だったので、弟が元気でやってるか心配で見に来たらしい。

 やっぱり弟が心配なんだな。これでも心配しているのよ? と、峻くんに言ってる。これでもって、自覚はあるんだな。


 二人の会話を聞いていた時、突然、あの嫌な感覚が走る。全身を撫で回す様な悪寒。

 葉子さんは普通にしている、どうやらこの嫌な感覚は私と峻くんだけが感じ取っているらしい。


「……悪い、ちょっと用事」


「どこ行くんだよ? 美女二人残して!」


「自分で言うな! とにかくすぐに戻る。まこちゃん、ここでこのバカを相手をしていて」


 私は了承して、峻くんは外へと駆け出して行った。葉子さんには言ってないんだな。


「何よあいつ、たまに遊びに来ると、この部屋から出るな~とか、ここは安全だとか、わけ分からん事を口走る」


「あ~えっと、なんででしょうね?」


「まぁ、私、けっこう出無精だからね、追っかけるのめんどいわ!」


 なるほど、だから知らないんだ、峻くんのやっている事。でも、本当の事を知ったら、彼女はどうするのだろう。

 そんな事考えている時だ、急に彼女が私の方を向き、語り始める。


「何をしてるか知らないけど、まこと」


「は、はい!」


 いきなり、葉子さんの真剣な顔に緊張する。今までの葉子さんとは違う顔だ。真剣で、冗談なんかないそんな顔。


「峻ちゃんの支えになってあげてね、お願い」


「え?」


「私にも言えない事をしている。あいつ、昔から自分に背負込むところがあるから。私は……どうやら、支えになってあげられないらしい。峻ちゃん、あなたに心を開いてる。ふふ、妬いちゃうな~まことに、昔は私の後をついて来る可愛い弟だったのに……」


 葉子さんの気持ちが痛いくらい分かる。私も弟の心が可愛いから。心が何か危ない事をしているなら、私だって葉子さんの様になると思う。大切だから、だから心配する。


「これなら様子見に来る事、しなくてもいいな? まことがいるし」


「嬉しかったと思いますよ? お姉さんに会えて」


「……そうかな?」


「はい、だって姉弟じゃないですか! だからまた来てあげて下さい」


「ふふ、まことはいい娘だね」


 笑いながら葉子さんがそう言った。彼女はメチャクチャな人だけど、弟を心配する立派な姉だ。

 私は、この人の事がどうやら好きになっているみたいだ。


  




 漆黒の闇が空を染める中、俺、佐波峻は顔を赤くしながら走っていた。

 たく、お節介なんだよ。まこちゃんの前で恥かいちまった。

 でも、顔見れてよかっな。


「さて、隠れてないで出てこいよ!」


 現れた住人は姿を消せるらしい。ランクはC級、この階にいるはずだ。どこだ?

 あれ、なんだ? この感覚は……奴はおびえている?


『ピギャア!』


 奴は姿を現し、襲って来た。全身緑色、カメレオンみたいな形。身体は、ほぼ俺と同じくらいの大きさ。

 結晶の碧発動、突撃するが奴は口から液を射出する。身体を後ろに飛ばし、回避する。

 すると液がかかった壁がドロリと溶け出す。溶解液か!


『ピギャア!』


 数発の連射、狂いなく俺に向かう。

 厄介だ、隙かさず手を前へと差し出し、目の前に巨大な結晶を作り出す。液は結晶に当たり溶け出す。


「危ないところだった。盾を作らなかったら当たってたな」


 奴の姿が、風景と混ざりあって行く。気配は感じるが、何処にいるか分からない。

 くそ、居るのは分かるんだがな。独特な息遣いが静けさをかき消す。俺は、すぐ横のドアに手をかけ部屋に入り、すぐにドアを閉じる。


「さぁ、来い!」


 異様な静けさに今は、心臓の鼓動だけが俺の世界。

 長い、様子をうかがっているのか? 永遠と思えるほど長い沈黙。

 沈黙を破ったのは破片のざわめきだった。窓が突然割れ、ガラスが部屋に舞う。

 奴が部屋に突入して来た、姿は確認できない。

 だが、こんな狭い部屋だ。ある程度は絞れる。氷の結晶を無数に出現させ、一気に部屋全体に打ち込む。


『ピギャアアアア!』


 すると奴に直撃する。もがきながら、ただの結晶と化していった。

 やったか。


「ふぅ、めんどくさい相手だった……お前、ただの迷子だった見たいだな」


 奴はおびえていた。自分を守るために俺と戦ったんだ。優しく返してやるよ。

 紅い光は辺りを包み、静かな夜が訪れた。


「ふぅ、終わり」


「なかなか手際がいいですね」


 突然の声に一気に心臓が鼓動。


「誰だ!」


 声の場所を見つめた。するとそこには誰かがいた。その誰かを脳が理解する頃にそいつは話し出す。


「嫌だな、私ですよ……私」


 漆黒のスーツを羽織い、紅く長い髪。炎のような紅い瞳。暗闇にともる炎の様に男はそこに立っている。


「よくやっている見たいですね、峻」


「まぁな……ルベス」


 ルベス、それがその男の名前。


「どうですか? 私が与えた能力は問題ない?」


「何とかしてるだろ? で、今日は何の用だ? ケルベロス」


「やだな、その名前は向こう側の名前ですよ……こっちでの名前はルベスです」


 嫌みも効かないのか。


「で、用件は?」


「何ですか、冷たいですね……まぁいいです。それより、あの女性」


「まこちゃんの事か? いいだろ別に」


「まぁ、彼女の意思でもある見たいですから良いですけど」


 それだけか? とルベスに問い掛けた。ま、それだけじゃない事は分かっているんだけどな。


「もう少しで、この門も閉じる事が出来るでしょう。……罪は、その人物に帰るものですね」


 ルベスを俺の全てを込めて睨む。


「今の言葉を取り消せ」


「すいません。言い過ぎました。それではまたですね峻、死なないで下さいね……のためにも」


 ルベスはその場からフッと消えて行く。


 部屋に戻ると、まこちゃんの姿がなかった。もう帰ったのかな? 時間も遅いからな。

 姉さんはどうしているんだ? 見て見ると、焼酎ビンを持ってがぶ飲みしていた。

 まったく、相変わらず酒ばっかり飲んでいるな。俺に気がつき呑気に手を振っている。


「おかえり峻ちゃん、まことなら帰っちゃったよ~」


 地獄の住人を帰すと感覚で嫌な気配消える。まこちゃんはそれを感じて帰っていったのだろう。


「そっか、もう遅いもんな」


「ねぇ峻ちゃん、覚えてる? 昔、大好きだった母さんのカレーライスの味」


「忘れないよ、絶対」


 どうしたんだ急に?

 でも、何気ない家族との会話、久し振りの時間。この時間が大切で尊いものに感じられる。


「ねぇ峻ちゃん、大好きだよ!」


「酔いすぎだよ姉さん、もう寝よう、明日早いんだろ?」


「一緒に寝る?」


「アホ」


 優しい時間が過ぎていく。






 ◆


 永遠とも思える漆黒の夜は彼を受け入れるかの様に存在している。

 ビルの屋上で街並みを眺めている。


「皆川真、か……」


 闇の中、ルベスは彼女の名前を口にする。




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