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エピローグ


 世界はいつもの様に日常を刻み、街の騒がしい雑踏を奏でている。その世界を私達は歩いている。

 あの出来事から数日の時間が刻まれていた。

 今でも信じられないあの出来事。


「ねぇ、しゅー」


「ん? どうかしたのまこちゃん」


「ルベスさんとスミスちゃんは、あれ以来、姿を見せてないの?」


 彼の顔がどこか遠くを見つめ、懐かしさに浸っていた。


「ああ、俺が倒れて眠っている間に、力を元に戻して、消えていった」


「そっか……お別れも言えなかったね」


 少しの間、静かに並んで歩く。ビルが建ち並ぶ街並みを眺めながら、見知った商店街に差し掛かっていた。

 ただ今デートの最中だ。

 何だか変な感じだった、記憶が戻ってから幼馴染みとしての私の記憶と、あのマンションで出会った不思議な彼に見入っていた記憶が同時に存在している。


 その二つの記憶の集合体、それが今の私だ。


 しゅーと初めて会ったのが小さな頃であの公園。


 峻くんに初めて会ったのがあのマンション。


 二つの出会いを体験している私、だから変な感じがする。


「ねぇ、しゅーと峻くん、どっちで呼んで欲しい?」


 彼は少し考えながら、私と目線を合わせる。


「どっちでもいいさ、だって、どっちのまこちゃんも俺は好きだからな!」


 私の顔が赤くなる。


「バ、バ~カ! ……まぁいっか、どっちだって“私”だもんね」


「うん、幼馴染みのまこちゃん、同じクラスメイトのまこちゃん。二つとも、今のまこちゃんだからね」


 少しづつ赤い空が広がり続けている。


「あ、しゅー、学校は休まずに行かないと単位がヤバイよ」


「う、久し振りに行ったら訳の分からない場所を勉強していやがる。はぁ、勉強ヤダな」


 あの日以来、私達は一緒に学校へと通ってる。年下だらけの教室で一生懸命に勉学に励んでいた。

 まぁ、何人かのクラスメイトと仲が良くなった様で、退屈じゃないって言ってたな。


「あ、今度家に遊びに行っていい?」


「また、ママ目当て?」


「ち、違うよ、その……なははははは!」


 まったく、しゅーはママの手料理を昔から気に入っている。

 ちょっと複雑な気持ちだけどね。


「いいよ、心もママもしゅーに会いたがっていたし」


「あ、マジ? なら行く行く!」


 穏やかな時間が流れていた。少しの間、無くしていた彼との時間を取り戻す様に二人は肩を寄せ、歩き、手を繋いでいた。


「これから俺の家来る?」


「うん、晩ご飯作ってあげるよ」


「それは楽しみだ」








 ◆

 

 まこちゃんの晩ご飯か、楽しみだな。何を作ってくれるだろうか? 何気ない事が嬉しくてたまらない。

 長い闇が晴れ、光が眩しくて困らされている、嬉しい事に。


 さぁ、彼女との時間を歩いて行こう。


 マンションの長い階段をやっと登り終える。彼女は息を切らしてた。

 はは、やっぱり何回来てもなれないね、昔と同じ様に。


「はぁ、はぁ、しんどい……」


「いい運動になるだろ?」


「……まぁね」


 通路を進み、俺の部屋が見えて来た。部屋の前に着いたその瞬間だった。

 突然ドアが開いたのだ。


「おごっ!」


 見事に俺の額をドアが殴る。なんだ一体! 自動ドアな訳じゃないのにな。

 そのドアをまこちゃんが唖然として見ていた。


「し、しゅー、大丈夫? どうして勝手に……あっ!」


 彼女の視線は部屋の中を見ている。俺も中を覗く。驚きの声が二人から生まれた。

 そこにいたのは。


「佐波! 皆川! 遅いぞ!」


「やれやれ、待たせ過ぎですね」


 いなくなった筈のスミスとルベスがそこにいた。


「ルベスさん、スミスちゃん……」


 まこちゃんの驚きの声、ルベスはやれやれという態度で近付き、スミスは頬を赤くして、まこちゃんに抱き付く。


「また会えたな、皆川!」


「痛たた……スミスちゃん、痛いよ!」


 と言っているが、まこちゃんの顔は笑っていた。


「なんでここにいるんだ?」


 そう言うと、ルベスは咳をして、説明し始める。


「暇潰しです」


「「はい?」」


 俺とまこちゃんが声をそろえて惚ける。

 暇潰しって?


「いや~、門が開いてしまった責任で私は休みなく門を守っていました。やっとそれが終わり、長~い休みが出たんです」


「そうか……で、どうして俺の部屋に?」


「言ったじゃないですか、暇潰しと。そう言う訳でしばらく厄介になります!」


「何~! ……で、スミスはなんでだよ!」


「今は仕事の合間なんだ、そう言う訳でときどき来るからな!」


「……マジ?」


「なんだ、嫌なのか佐波!」


 ギロリとスミスの目が俺を捕らえる。そして、指をバキボキと響かせながら迫ってきやがった!


「い、いえいえ! どうぞ! スミス様!」


 まこちゃんがいつもの様に呆れていた。

 そんな時、ルベスが話し出した。


「峻、お腹がペコペコなんですが?」


「知るかそんなの!」


 そう言うと、ルベスはスミスの方を向いた。なんだ一体? 何をしようとしていやがる!


「峻がさっき馬鹿にしてましたよ、スミスさんを」


「何?」


「な、なんて事を言うんだ! ああ、怖い顔で近付いて来る! 待て、話を聞け! そんな事一言も言ってないんだぞ! ち、ちが……ぎゃああああああ!」


 スミスが俺に思いっきり抱き付いて来た。

 ギリギリと鈍い音を発生させながら意識が飛びそうだ。

 あ、肋が……折れそう。


「にゃははははは!」


 ルベスが笑う。


「し、死ぬ……」


「峻、どうします?」


「分かった……好きなだけ居ろ……だから……助けて!」


「あ! しゅーが白目むいて来た! スミスちゃんやり過ぎ!」


「さ~な~み~!」


 ドタバタな非日常がまだまだ続く。


 この日々が続いて行く事を願う。


 非日常の世界が続いて行く……。

 

 


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