表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

第18話 真実


 人間界の夜は明るい、この電気と言うものはケイコウトウを光らせていると佐波が言っていたな。

 オレ、スミスは不安でいっぱいな自分を慰める様に人間界を眺めていた。


「もう少ししたら夜明けですね」


 ルベスは正座をしながらお茶を飲んでいた。


「飲みませんか? 美味しいですよ」


「いらん」


 お茶って奴は独特で変な味がする。初めて飲んだ時は吐き出した事があった。

 あんなもの二度と飲むか!


「ルベス、皆川はいつ目覚めるんだ?」


「さあ? それは彼女次第です」


 佐波はベットで眠り、皆川はその横に顔をベットにうずくませて眠っている。寄り添う様に。


「そうか……なぁ、一つ聞きたい、なぜ皆川の記憶を封印したんだ?」


「それは彼女の“罪”だからです」


「罪? 何をしたんだ?」


「教えません」


「全く、いつもお前は意地悪だ。どうせ自分で考えろと言うんだろう?」


「もちろんそうです……まあ、私は意地悪ではありませんのでヒントだけ教えましょう」


「ヒント?」


「はい、皆川 真は……」


 何かを言い掛けたがそれを辞めてしまった、穏やかだった表情は厳しさに染められ眉間にしわを寄せていた。


「どうした、急に怖い顔をして?」


「はぁ、やってしまいました。どうやら後一匹、このマンションにいる様です」


「何! ……オレには何も感じなかったぞ?」


 信じられない気持ちが先行するが神経を研ぎ澄ませ、辺りの気配を探る。

 集中、すると微かにだが住人の存在を感知する。

 力を隠すのが上手い、オレ達が居なくなったら出てこようとしているのだろう。


「一匹ならオレ一人で大丈夫だな」


「気をつけて下さいね、恐らくS級でしょうから」


「オレを誰だと思っている!」


「はい、死神で一番強いスミスさんです! それではいってらっしゃい、私はこのおせんべいを食べるのに忙しいので」


 たく、呆れた奴だな。オレは横になっている佐波と皆川に目をやる。

 今、どこの記憶を見ているのだろう。


 部屋を飛び出す。夜の風が頬を掠める。

 人間界の風はそんなに気持ち良くないが、なんだか心地は良かった。


「よし、行くか」


 背中から翼を出現させ広げる。出す時は、背中がむずむずしてこそばゆい。

 翼は空気を叩き、空へと舞う。


「さて、この小さい反応は一番下の階か!」


 一階まで落下する様に風を切った。

 すると住人が居た、こいつか。 

 目の前にいる奴は全身鎧を纏ったかの様な皮膚、その皮膚は銀色に輝いている。

 長い尻尾、竜の様な顔、目は紅い。


『ふん、やっと気付いたか』


「コソコソしやがって、雄(男)らしくないぞ!」


『何とでも言え、死神スミス』


 驚いた。こいつ、オレを知っている様だ。


「お前、オレの名前を知ってるのか?」


『ああ、死神スミス……死神達の中で一番の力を持つ死神』


「へぇ、いろいろ詳しそうだな」


 オレは鎌を出した。鎌は翼を出す要領で、手の平から生まれる。身体の細胞を鎌の形に造形し、それを固める。

 生まれた鎌を掴み、奴に向けた。


「切り刻んでやる!」


『できるのか?』


「馬鹿にするな!」


 翼を広げ一気に奴のふところへと接近する。鎌を上から下へと線を描きながら切り付ける。

 鈍い音が木霊する、鎌の刃は奴の皮膚に食い込まずに止まっていた。


「何! くそ、なんて堅い皮膚だ!」


『そんなものじゃ切れないぞ』


 奴の指が伸び、鋭くとがったカギヅメになってこちらを襲う。流血が綺麗に飛び交う、それはオレの右肩からだった。

 走る痛み、くそ、こんな傷を受けるとは情けない。


「テメェ、殺してやる!」


『ふははは、お前じゃあ無理だ』


「貴様!」


 痛む肩をむち打って鎌を振りかざす。無数の閃光となって、牙を向かせる。

 数多の場所を切り付ける。奴の右側、下、左、上と様々な場所を切付けた。

 しかし、鈍い音だけが虚しく響くのみ。


「くそ!」


『だから言っただろう、お前には無理だと』


 どうする? この皮膚は堅い、ならば、狙う場所は一点だ。

 オレの指を奴の目へと向かわせた。

 唯一剥き出しとなっている身体の柔らかい場所、そこなら固くはないはず。

 空間を拒絶させながや指先を向かわせる。

 その時、手に違和感を感じる。

 奴がオレの手を掴んでいた。


「くっ……放せ!」


『ふん、遅い』


 ギリギリと手を軋ませ、骨が悲鳴を上げる。

 痛みが手から全身に流れ込む。


「ぐ、うう……があ!」


『痛いか? なら、これは?』


 奴の足は大きく後ろに移動し、そして勢い良くオレの腹を蹴りあげ激痛を与える。


「があっ!」


 くそ、痛い。


『ふははは、いい格好だ!』


「お前、殺す……必ず!」


『ふん、死ね』


 再度奴の爪は胸の辺りに狙いを定め、攻撃を放つ。真っ直ぐに向かう爪、当たれば即死は確実だった。


「オレを舐めるな!」


 掴まれている手を開放するために蹴りを奴の手へ放つ。オレの手は奴から解放された。

 奴はそれに怯む。

 その瞬間を見逃さなかった、翼を広げ、一気に空へ急上昇。


『ふん、無駄な足掻きを』


「はぁ、はぁ……」


 息が切れる。強い、あんなに強いとは。

 油断しない様にしなくては。


『死神、良い事を教えてやろうか?』


「何?」


『ヘルズゲートが開いてしまった時、お前達はおかしいと思わなかったか? あんな大量に住人共がヘルズゲートが開いた事を知っていた事を』


 そういえば、こんな緊急事態は秘密裏に処理するのが普通だ。

 あんな大勢の住人共が知っているのはおかしい。


『開いた事を口外し広めたのはこの俺だ!』


「何だと!」


『偶然だった。開いた瞬間を見ていた。ふふふ、お前達が慌てる姿は滑稽だったぞ!』


「お、お前のせいで佐波はあんなに傷付いたのか!」


『ふふふ、あははははははは! 愉快だった、ただの暇潰しで噂を流してやった、ははははははは!』


 こんな奴のために、佐波は、皆川は、危険なめにあったのか!

 あの二人は人間だが、良い奴等だ。

 あの二人を苦しめた事が許せない、こいつだけは許せない!


「お前は殺す! 必ず殺す!」


 激怒。この言葉に支配された。鎌を強く握り、奴目掛けて落下を開始する、雄叫びを上げながら。

 空中の風は顔に触れて抵抗感を感じさせる。それに負けない様に加速をつけ、鎌を振りかざした。

 閃光は真っ直ぐに奴を捕らえ、鈍い音が響く。

 落下の速度を味方につけた一撃は、右腕を切り落とし、苦痛を耐えてやった。


『ガアアアアアア!』


「ふははは、オレの鎌に切れないものがあってたまるか! 死神一の切れ味だ!」


 緑色の体液が吹き出し、辺りがその色へと染まって行く。ふらふらになりながら、液が吹き出る発生源を残りの手で押さえ、後退りをしている。惨めに。


「ぐぅううう、おのれぇ!」


「逃げるのか?」


「逃げるなんて、ダメですよ」


 不意打ちする声、いつの間にかルベスが奴の背後から姿を現してた。

 奴は驚愕し、ルベスを睨む。


『な、貴様はケルベロス!』


「これはこれは、いっぱいお世話になりましたね!」


 ルベスの顔はにこやかで涼やかだが、あの顔は相当怒っているな。付き合いが長いから分かる。あいつは本気で怒ると顔にその色を見せようとはしない。


「さて、お礼をしないといけませんね」


 ルベスの右手から碧い光を放ち始める。これは佐波に貸し与えていた力、結晶の碧。


「さて、峻から返してもらったこの力、あなたに味あわせてあげますよ?」


『ぐ、くそがああああ!』


 奴が突進して来る。


「結晶の碧……始動!」


 光が輝きを増して行く。

 碧い光は更に碧さを増す、佐波の時より鮮やかな色だ。


「いきますよ」


 とルベスの掛け声、人差し指を向け、閃光を放つ。


『がああああ!』


 奴の足が結晶化していく。

 佐波は離れた場所には氷を作れなかったが、ルベスは自由自在だ。あらゆる場所に作る事が出来る。

 ゆっくりと近付いて行く。その度に奴は怯えている。


「ゆっくりと、じわじわと、カチンコチンにしていきますね?」


 そして、閃光は幾度と苦しめていく。


『ガアアアアアアアア!』


 これが最後の咆哮だった。


「終わったな、ルベス」


「そうですね、こいつは向こうに帰します」


 帰還の紅を始動し、地獄へとあっけなく消し去った。


 これで本当に終わった。


「……ふぅ、これで本当に終わりです」


「ああ、……あ! ルベス、さっきの話!」


「ああ、ヒントでしたね、皆川真には“特別な力”があった。本人は気付いていませんでしたが。……はい、ヒント終わりです」


 皆川は一体どんな力を持っているんだ?


 謎がオレを突き放す。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ