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第12話 その女再び来たりて


 一時の時間、一時の静けさ、一時の安らぎ、それを邪魔する者がいた。

 そいつは突如として現れる。


「起きろ~! 佐波!」


 勢い良く、俺が寝ている布団の上に飛び掛かって来た。肺の中の空気を無理矢理絞られたように口から吐き出す。

 コノヤローめ、布団の上を見ると、ニコニコしているスミスが居た。何がそんなに楽しいんだよ。


「起きたか? 腹減ったぞ! 何か作れ!」


「て、てめ~、殴ってやろうか!」


 そう言った途端、スミスは睨みを利かせながら布団の上から抱き付いて来た。

 そう、おもいっきりだ。

 骨の軋む音がギリギリと鳴り響く。


「うぎゃああああ!」


「もう一度言う、俺は腹が減っている」


「が、頑張って、作らさせていた……だきます」


 スミスが来て以来、毎日死にそうだ。しぶしぶ起き上がり、飯を作る事にした。

 窓越しに外を見て見ると、夕日で染まっていた。はぁ、まだ眠い。


「それで死神さま、何がお望みで?」


「何かむかつくな、殺すぞ?」


「ごめんなさい」 


 くそ、こいつにいつかギャフンと言わせるぞ。さて、何を作るかな?


「う~ん……なぁ、納豆ご飯でいいか?」


「なっとう? うまいのか?」


「うまいぞ、日本人なら納豆だ!」


「俺は死神だぞ?」


 ご飯は昨日の残りがあるし、納豆は混ぜてご飯にかけるだけだ。手軽に出来て、なおかつ旨いときている。納豆のフタを開け、箸でグルグルと混ぜて見せた。


「ほれ、こうやって混ぜるんだよ」


「おー! 何だこれは、ネバネバだ!」


 スミスは頬を赤らめて興味津々だった。納豆を混ぜて、ご飯にかけてやる。

 うまそうだ、やっぱり日本人は納豆食わないとな。ま、スミスは死神だけど。


「ほい、おまち」


「おー……ん? なんだ、腐ってるんじゃないのか?」


「そう言う食べ物なんだよ! いいから食ってみろ」


 恐る恐る口に納豆を運ぶスミス。すると、どうやら気に入った様子だった。

 スミスは食べ続けているのだが、納豆の糸が気になるらしく、食がなかなか進まない。


「佐波、何だこれは? ……う~」


 指で糸を切ろうとするが、また指に付き、困っていた。


「う~、いやだ~……きゃ!」


 突然、女らしい声をあげ、不覚にもスミスを可愛いと思ってしまう。


「おい、佐波! 何を笑っているんだ!」


 口に納豆の糸を付けて、すごまれても怖くないな。


「佐波、首を飛ばすのと、心臓を引きずり出す、どっちがいい?」


「すいませんでしたー!」


 いつもの様に土下座をして謝った。しかしその時、ドアが突如開き、見知った顔が現れた。

 そこに現れたのは姉の佐波葉子だった。


「峻ちゃ~ん! お姉さまだよ~!」


 スミスは姉さんを見るなり「誰だこいつ?」と訊いて来やがる。どうやら知らない奴には警戒するらしい。

 姉だと説明しようとしたがその前に姉さんが話し出した。


「……峻ちゃん、この女誰よ? あなた、うちの峻ちゃんに土下座させて、何してんのよ!」


 何だか空気が乾いていく様だった。


「ちょっと待ってくれ、これは違……」


「あんたは黙ってなさい!」


 と姉さんに俺を睨らまれた。怖い、情けなく、何も言えなくて気まずい。


「そうか、佐波2号だな!」


「何で2号なんだ?」


「俺が最初に会った順番で決めるからだ! お前に最初にあったから1号、次に会ったのがこの女だから2号!」


「あんたは峻ちゃんの何なの?」


「佐波は、オレの下僕だ」


 誰が下僕だ! そう言いたいが、言ったら殺されるな。

 下僕と聞かされ我が姉が震えて怒り狂っている。


「何だと、私の峻ちゃんを……許せない」


「何だ、殺るのか?」


「二人ともやめ……」


「「テメェは黙ってろ!」」


 息ぴったりに二人は声を揃えた。あれ? 俺被害者なのにな。情けなく返事するしかなかった。二人共目が怖い。

 意外にも似た者同士かもしれないな、この二人。

 修羅場になるところだった。しかし、この状況を打破できる救世主が現れたのだ、その人物はさっきから開けっ放しの玄関に立っていた。


「峻くん、来たよ……どうしたの?」


 そう、まこちゃんだ。二人は彼女に気が付き、挨拶を交わす。


「あら、まことじゃない、久し振り」


「あ、葉子さん、こんにちは」 


「おー皆川!」


「スミスちゃん、こんにちは……峻くん、何で土下座してるの?」


 あはは、話せば長くなるな。簡単に姉さんとスミスがケンカしている事を伝える。


「ダメだよ、ケンカしちゃあ!」


「皆川は関係ない」


「まこと、ちょっと入ってこないでね、こいつとは私が決着つけるから」


 二人は睨み合う。まこちゃんは話しを訊いてもらいたくて話し掛けるが、無視される。二人には彼女の声が聞こえない様だ。

 いつ死闘が勃発するか、分からない状況。

 まこちゃんは幾度も呼び掛けているが無視されている時だ、この部屋に寒気が走る。


「私の話を聞けって言ってるでしょ?」


 遂にまこちゃんがキレた。

 怒り狂うまこちゃんを見た二人は同時に悲鳴をあげながらガタガタと震えている。

 姉さんがおびえる。

 スミスもおびえる。

 久し振りに見るな、本気に怒ったまこちゃんは、やはり想像以上に怖い。死神をびびらせるとは……すごい。


「あなた達、そこに正座しなさい! 早く!」


「「は、はい!」」


 姉さんとスミスは息ぴったりに正座。そして静けさが部屋の中に充満していく。重い、この静けさ、嵐の前の静けさと言える。


「ケンカはダメなの、分かる?」


 ギロリと恐ろしい目で見下ろす。二人は震えている。そう言えば、まこちゃんのママって、もっと怖いんだろ? どんだけ怖いんだ?

 それから一時間近く説教をしただろう。聞いている俺も参った、恐ろしいしから俺もつられて正座して足が痛い。

 余談だが、これ以降二人は仲良くしていた。まこちゃんは怒らせてはいけない。


「おいしい~、まことの料理は旨いわ!」


「このニクジャガは最高だ!」


「えへへ、ありがとう!」


 あれから仲良く4人で食事を始めた。よく仲良くなれたな、まこちゃんさまさまだよ。


「聞いてよ峻ちゃん、私、今度映画に出るのよ!」


「本当かよ、すごいじゃん!」


「でも、脇役だけどね」


 脇役でもすごい事だ、姉さんがスクリーンデビューか。


「どんな映画なんですか?」


「ホラー映画よ」


「え! 私、ホラー映画大好きなんです! 絶対見に行きます!」


 まこちゃんの目は輝いていた。そんなに好きなんだ。


「見に来なさい、見に来なさい! 峻ちゃんと一緒に……あ、峻ちゃん~、ホラー苦手だったね~」


「な、そんな分けないだろうが!」


「佐波、顔が青いぞ?」


「うるさい!」


「あ?」


 スミスが睨みをきかせ俺を見る。すいませんでしたと、また謝る俺、はぁ、情けないな。

 そんな時突然、奴らの気配を感知。


「ちょっと行って来る!」


「あ、待て、佐波!」


 二人が勢いよく飛び出す。そんな様子を姉さんが、ぽかんと見ていていた。


「何よ、あの二人」


「えっと、きっと大変何ですよ、いろいろ」


「まぁいいわ、まこと、酒に付き合え!」


「え? あの、私は未成年」


「固い事はいいの!」




 




 ◇


 マンションの階段の場所で俺とスミスは異常な事態を感じていた。


「佐波、三匹はいるぞ!」


 何かが蠢く音がする。この嫌な感触はマンション全体に響いている。


「佐波、俺は下に行く!」


「分かった、俺は上だ!」


 二人は別れ、蠢きの発生源へと向かう。

 階段を上ろうとした時、上の階から何かが降りて来る音がする。何だ? 今回はA級だな、結晶の碧を発動し、奴を待った。長い、この待つ時間が長く感じる。

 そして、奴は姿を曝す。全身が白く、両腕は大きな鎌だ。身体全体に目が無数に付いている。つまり、カマキリ見たいな奴。


『パオーン!』


「何でこんな鳴き声なんだ? ……まぁ関係ないな!」


 身体の周りに氷の結晶を無数に発生させ、一気に放つ、風を切る音が浸透していく。すると奴は鎌を振りかざし、結晶を切り落とす。


「やるな!」


『パオーン!』


 奴は俺に切りかかる、空気を切り裂く音がビューっと響き、目標に落とされた。

 紙一重で攻撃をかわした。危なかった、後数ミリでもずれていたら身体が切れていたな。


「ヤバイなこりゃ、こうなったら……」


 精神統一。この階全てを碧い霧で包み込み、その霧の中に自分の姿を消す。

 奴は俺の姿が消えた途端、頭をキョロキョロとして不思議そうにしている。そして、奴の周りに結晶を作り、一気に放つ。


『パオーン!』


 結晶を鎌では全てを防げず、激しい抵抗のすえ、ようやく奴は結晶と化した。


「ふう、じゃあ地獄に帰れ!」


 紅の帰還を発動し、カマキリの身体を紅い光が包む。すると、あっけなく消えて行った。

 さて、スミスはどうしているんだ?

 急いで下の階に降りて行く。降りて行くにつれて、激しい音が近付く。


「スミス!」


「何だ、もう片付けたのか?」


 駆け付けて見ると、スミスはさっきと似ている奴を、バラバラにしていた。


「……こんな事していいのか?」


「いいか佐波、こいつらは罪人なんだぞ? もともとヘルズゲートはこんな奴等は使ってはダメなんだ。通った時点で罪人になる。死刑にしても何の問題も無いんだぞ」


「……じゃあ、今まで俺が送って行った奴等は?」


「ああ、ルベスから聞いたが、氷づけにしてそのままにしているらしいぞ」


 何故か嬉しそうに話す。ルベスのヤツはそう言うの好きだもんな。あいつ腹黒いし。

 スミスはあと一匹いると言葉を放つ。その途端に寒気を感じる。俺とスミスは背中をくっつけて様子をうかがう。


『バオーーン!』


 奥の空間から姿を現わす。今までの奴より倍の大きさをしたカマキリが出て来た。こいつがボスか。


「佐波、オレは上から、お前は突っ込め!」


「お前、俺に死ねってか!」


「オレを信じろ佐波!」


 スミスの背中から、翼が現れ、空中を飛翔し、奴に向かう。

 たく、分かったよ。

 俺も身体全体に結晶を発生させ、真っ直ぐに突っ込んだ。カマキリは両腕の鎌を天高く上げ、振り落とした。激しくぶつかる音が鳴り響く。


「いい鎌だ。だが、俺の鎌が一番だ!」


 スミスは自分の鎌で奴の攻撃を受けとめ、片腕を切り落とした。

 すると苦しみの声を叫び、カマキリがひるむ。


「今だ、佐波ーー!」


「分かってる!」


 右腕に結晶が集め、カマキリ目掛け指を伸ばす。咆哮する俺の声、奴の身体に触れ、碧い閃光を放ち始める。

 カマキリの身体は結晶に覆われていき、完全に沈黙。


「ふぅ、やったな」


「偉いぞ佐波!」


 不意打ちだった、スミスは俺の頭をなで始める。ハニカミながら。


「お、おい、やめろ」


 ハニカムを直視する、こいつ、やはり美人だな。見惚れてしまったのは内緒だ。


「ん、どうしたんだ佐波?」


「な、何でもない」


 ヤバイな、笑うとこいつ可愛いし美しい。だけど、俺が好きなのはまこちゃんだ。この気持ちは変わらない。

 俺達はカマキリを向こうに帰し、部屋に帰って来た。「ただいま」と言って、入って行こうとしたが、部屋の光景に俺は固まってしまい、止まる。後にいたスミスは俺の背中にぶつかる。


「痛! どうした佐波、立ち止まるな!」


 変な光景に呆気に取られていた。その光景とは……。


「あら、おかえり~……ヒクッ、峻ちゃん~一緒に飲も!」


 姉さんは焼酎ビンを片手に酔っ払っていた。これだけならいつもの事、だがしかし、それだけならまだいいのだが。


「あははは~! 峻くんお帰りぃ~! ……ヒクッ!」


 まこちゃんも酔っていたのだ。


「皆川、何を飲んでるんだ?! 俺も飲むー!」


 スミスが駆け寄って行く。そして、酒をカブ飲みし始めた。ちょっと待てよ、えっと。


「な、まこちゃん、飲んだの?」


「葉子さんがぁ~、おいしいってぇ~、言うからぁ~……ヒクッ、あははは~!」

 あのバカ姉! 姉さんに文句を言ってやろうとしたのだが、まこちゃんが上目で潤んだ瞳が俺を見詰める。


「峻くん~、何だか身体が熱いの~、脱がせて?」


「のわああぁあああぁぁあああ! だめだ! まこちゃん正気に! わ! 脱ぐなー!」


 それから大変だった、スミスも悪酔いして意味無く俺を殴るわ、姉さんは大の字で寝るし、まこちゃんは……脱ぐし。

 俺って女運、無いのかな?

 そんな事を考えながら夜が更けていく。




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