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第10話 訪問者


 休日の朝はどうして機嫌が良くなるのかな? いっぱい寝れるから? 今日は何をしようかワクワクするから?

 早朝、世界は光で満ちていく。そんな中、私、皆川真は目が覚めた。


「う~ん……今何時?」


 ベットの上で時を刻んでいた時計は私の手の中に包まれ、時を知らせる。


「何だ、まだ、六時じゃないか……」


 予想外の時間にホッとする。いつも家では休日だろうと、七時半に起きる事になってる。ママが休みだからと寝ていたらだらけてしまうから駄目だと言うのだ。

 さて、つまり後一時間三十分も時間があると言う訳だ。何故かその時間が嬉しくって仕方ない。


「もうちょっと寝れるぅ……クゥ~」


 何処の場所が居心地が良いと聞かれたら、私は迷わず布団の中と答えるだろう。我ながら変だ。そう言えば中学の時そう言ったら笑われたっけ。


「ん……んん?」


 あれ? 変な感じがする。

 誰かもう一人布団に入っている、そんな感じ。


「あれ、……ん? 何?」


 変な感じの方向へと手を伸ばす。すると手は何かに当たる。

 何これ? 柔らかくて、温かくて、人間みたいな物体?

 はっとする、すぐに目を見開いた、それは目の前にいた。


「おはようございます、お久し振りです!」


 誰かがいた。


「きゃあああああああああああああああ!」


 勢いよく布団を吹き飛ばしながら起き上がった。


「な、何してんの、って言うか、何で一緒に寝てるのよ!」


 そこに居たのは知った顔、ルベスさんだった。彼はにこやかに微笑んだ。


「真、朝から元気ですね!」


「誰のせいよ!」


「ふふふ、怒らないで下さいよ。それにしても、真の寝顔、とってもキュートでしたよ!」


「こ、このバカー!」


 腹に一発正拳突きを食らわせる。見事にミゾにはまり、顔を真っ青にしながら苦しんでいた。さすがにつらいみたいだ。ざま見ろ!


「どうしてくれるのよ! 目が覚めちゃったじゃない!」


「良いじゃないですか! 早起きは何とかの得って言いますよ!」


「これは早起きじゃなくて、早起こされよ! ああもう! 許さない、私の祝福の時を邪魔して!」


 そう言うと彼に飛び掛かった。


「痛い、痛いですよ~!」と叫んでいたけど気にせず続ける。

 彼の服は乱れ様がお構いなくだった。こいつの髪の毛を引っ張る。


「ハゲます、ハゲちゃいます~!」


 ふん、こいつめ、ハゲてしまえ! 私は彼に跨がり、髪の毛を強く引っ張る。すると彼は痛がりながら何故かニヤニヤしている。気持ち悪いな。


「これは、なかなかヤバイですね~! いろんな意味で」


 その時、下の階から足音が近付いて来る。そして、部屋のドアが勢いよく開いた。


「まことさん! どうかしましたか!」


 ママの登場だ。丁度良かった、この変態を退治してもらおうかなって、ってあれ? ママは動かなかった。いや、私達を見て固まっているんだ。

 どうしたのかな?


「ま、まことさん……何しているの?」


「へ?」


「すごい展開になりそうですね!」


 えっと私は、こいつに跨がっていて、こいつの服を掴み、はだけさせている。

 この状況って、つまり? しばらくの沈黙の後、私は理解する。

 これって、まるで私が彼を襲ってるみたい。


「ひゃあ! ち、違う、ママ違うの!」


「何が違うんですか? まことさん、あなたには峻さんが居るはずなのに……まさかそんな事を!」


 そんな事って、どんな事?


「ち、違うの! こいつが悪いの! 私は何も悪くない!」


 あれやこれやと言い訳を放つが、無意味だと知っている私がいた。


「モンドウムヨウです!」


「待って、グーはやめて……へ? 今日はもっとひどい?」


「にゃはははは~」


 こいつはゲラゲラと爆笑しているし、ママは睨みをきかせながら怒るし。私は……。


「ぎゃああああああああ!」


 吠えていた。






 ママのお仕置が終わり、彼が事情を話した。何とか色々誤魔化しながら納得させママを退室させる。

 良く納得させられたね? そこは感心するよ。


「それで? 何か用なんでしょ?」


「いえ別に、ただの暇潰しです!」


「出ていけーー!」


 力一杯腹の底から叫んだ。何だその理由は! そんな事のために私の幸福の時を邪魔したのか!

 何だかまた腹が立って来たよ。


「嘘ですよ、虚実ですよ!」


 疲れる。この人といると疲れ果ててしまうよ。もう分かったから、なんで来たのかを問い掛けた。


「いやですね、あなたはどんな人か、どんな日常を送っているのか、知りたいと思いましてね」


「それはどういう事?」


「オホン、つまりですね、本来ヘルズゲートは普通の人間が見てはならないのです。この世界と向こうの世界には、その世界の秩序があります……秩序ってわかります?」


「馬鹿にして、それくらい分かるわよ! いいから話の続きしてくれる?」


「おや、怒らせてしまいましたね。申し訳ありません、は何もの続きをしますね? こほん、向こうの世界のものがこちらに現れるのは、普通有り得ません。それを見てしまったあなたはどんな人間か、前に見せていただきました」


 そっか、そうだよね、普通知らない事を知っている人間って、どんな奴か見たくなるよね。


「あなたは秩序を乱すか、乱さないか……そこを見ました」


「そ、それで? 私はどうなの?」


「答えは前回、伝えましたよ?」


 前回? 何か言ったっけ?


「私は、あなたに惚れたと。あなたは素晴らしい人間です。私が保証しますよ! 今日私が来たのは、あなたに自分の立場を忘れないで欲しいからです。知らない事を知っている人間……言うなれば異端なる存在。秩序を狂わせてしまう可能性があります。……難しい話ですね、簡単に言うと、知らない事を知っているから、世界のルールを壊さないようにって話ですよ」


 世界のルールに従って行動しろって事ね。彼はそれだけですよと笑って語っていた。


「あの……壊すってどうやって?」


「さぁ? 私の話は、心得って事ですよ! そのうえで、これからを過ごしてください」


「はぁ……」


 彼の真面目な話は何となく言いたい事が分かった。

 特別な状況の私は、異端だと言う事。それを忘れるなって事何だと。


 世界のルールに従って行動しろって事ね。彼はそれだけですよと笑って語っていた。


「さて、これからどうしましょうか?」


 これからって帰らないつもりなの? はぁ、もう少し寝たかったけどもう起きる時間だ。


「一緒にお風呂入りますか?」


「アホ! バカ! スケベ!」


「何ですか、冷たいですね~」


 本当、話してたら、頭痛くなるよ。

 何だか身体の力が抜けていく感じがした。いや、実際に抜けていると思うよ。そんな中、ルベスは妙な事を言い出した。


「なら、人格を変えましょうか?」


「へ? 人格を変える?」


「私はケルベロスです。頭が三つあり、それぞれに人格があります……じゃ、いきなり二人めの私が登場です!」


 すると、体が一回り大きくなりルベスの顔が険しく、彫り深い顔に変化した。髪は短髪になり顔が怖くなった。


「ふ~、出て来たぜ! よぉ、女、俺はゲイズだ」


「え、えっと、ゲイズさん?」


「おうそうだ。……へへ、お前良い体してんな!」


 目がやらしい。私を上から下まで舐める様に眺めてきやがる、あんまりジロジロ見ないでよ、気持ち悪い! 腕で身体を隠す。


「がはは! 良いじゃね~かよ……な?」


 そう言うと、いきなり私を押し倒して来た。


「何するのよ!」


「女何て、何百年ぶりかな~」


 更に嫌らし目付きになっていく。ゲイズは「いただきまーす!」と叫んだ。何がいただきますだ、いい加減にしろ!

 勢い良く足を彼の男の急所へ、おもいっきり蹴飛ばす。すると奇声をあげ、涙目になり、ピクリとも動かなくなった。

 そのまま床に落ちた。


「こ、この女~」


「何よ、また蹴られたい?」


 すると、顔が元に戻り、スッと立ち上がった。どうやら元に戻った様だ。まったく、なんなのよ!


「いや~、すいませんね、彼はすごい女たらしでしてね」


「最初に言えー!」


「じゃ次ですね」


「もういい!」


「遠慮しないで下さい!」


「誰が遠慮よ!」


 また彼の顔が微妙に変わっていく。今度は子供の様に可愛くなっていった。


「あ、あの、僕スルル、……仲良くしてね?」


「あ、はい、どうも……」


 何だか気が弱そうな奴だった。


「あの、僕の事、スルルちゃんって呼んでよ」


「男がちゃんって」


「ぐすっ、僕、女の子だもん」


 え! 女の子? 涙目になる彼女、すぐにごめんなさいと謝った。だって、ルベスさんが男だったから、てっきりまた男だと思ったから。


「僕達はね、人格が変わると身体の構造も変わるの……ほら」


 そう言うと服を脱ぎ捨て、上半身だけ裸になった。うわ、私よりでかい! ま、負けた。


「僕だって、胸があるんだよ」


「スルルちゃんね、分かったから服を着てよ」


「うん」


 服を取りに歩き出したが、足が足に引っ掛かり、勝手に転んで私の上に落ちてきた。痛いなもぉ。


「うえ~ん! ごめんなさい~」


「謝らなくていいから、早くどいて?」


 起き上がると、手に何やら柔らかい感触がする。手を見るとスルルちゃんの胸を鷲掴みしていた。


「ひゃん!」


「あ、ごめ……」


 その時、部屋の扉が開いた。ちょうど良くママが入って来たのだ。


「まことさん、お茶とケーキ……」


 また固まっている。何でこうタイミングがいいんだろう。


「は! 違う、違うの!?」


「ま、まことさん、あなたにそんな趣味が……うそ、私、育て方を間違えたのかしら?」


 この後はお約束ですが、さすがにママの顔が青ざめていた。

 事が済み、何とか誤解は解いたけど。

 ルベスさんは逃げるようにいなくなっていた。


「アイツら、もう二度と来るなーー!」


 私の声が天に響いた。

 

 

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