僕と僕
2036年
ベースキャンプオペレーション室
「No.315の映像でました!」
「よし。映せ」
「はい!…うっ!オエッ!」
映像を出した職員は走って部屋を出ていく。
「何だ…あれ…?」
映像に映っていたのは口の周りを赤く染め手を地面につき走る真っ黒なヒューマノイドだった。
「…バケモノ」
「…ふっ。面白いな…この映像を観覧禁止五十九番に保存し、このことは禁句令とする。
承諾するものには臨時手当をやろう。飯塚」
「はい。わかってます。1.5.0ですね」
「あぁよろしく頼む。さて…問題は事後処理だな…どうやって馬鹿貴族を黙らせようか…」
「貴族よりも大変な人がいるんじゃないですか?」
「あぁ…あの狂博士か…骨が折れるな」
前線
どんどん力がみなぎってくる。
弾を避け銃を撃っていたヒューマノイドの喉もとを食いちぎる。
ヒューマノイドを投げ捨て前を見る。
いた。
赤いヒューマノイド。
僕はそれに向かって走る。
赤いヒューマノイドが振り向くと同時に拳を叩き込む。
「ぐあっ…!」
「あぁぁぁぁぁぁ!」
吹き飛んだところをジャンプで追撃する。
顔面を掴み地面に叩きつける。
「がはっ…!」
「あぁ…」
「…っ!匂うぜ…濃ぉい血の匂いだぁぁぁ‼︎」
バキッと音がする。
赤いヒューマノイドの身体が地面から浮き始める。
「あぁぁぁぁぁぁ!」
パンチを叩き込もうとしたその時拳が何かに受け止められる。
それは5つの手だった。
「…?…っ!」
それに気を取られている間に首を絞められていた。
それもいくつもの手で。
「はっはっはー!久々に本気出せるぜ!」
よく見ると手は赤いヒューマノイドの背中からでているようだった。
そのまま投げ捨てられる。
起き上がって赤いヒューマノイドを見てみるとさっきまであった左腕の手錠はなくなり手首は焼けただれていた。
左肩からは何本もの手が生え一部が赤いヒューマノイドの身体を支えていた。
「はぁはぁはぁ…始めようぜ…」
そのまま、こっちに向かって走りだす。
何個もの拳を向けて。
腹、顔、脚、様々なところに拳を叩きこまれる。
「あああああっ!」
「はっはっはっはー!いいねぇいいねぇ!」
なんとか一本を掴み喰いちぎる。
「ぐああああっ!くそが…っ!」
怯んだ隙に喉元に噛み付く。
「あああああーっ!」
更に力を入れる。
「あああああーっ!くそっ…がっ!」
何本もの手が引き離しにかかるが、そのまま噛みつき続ける。
「離…せっ!」
次の瞬間強い衝撃で吹き飛ばされる。
立ち上がろうとすると肩に鋭い痛みを感じる。
手を当てるとヌルッとした感触があった。
前を向くと赤いヒューマノイドの後ろに武装したヒューマノイドたちが立ち、こっちに銃口を向けていた。
ベースキャンプオペレーション室
「多数の熱反応確認!No.315の12時方向です!」
「ついにきたか…」
「隊長…なんなんですか?その…熱反応って」
「遠野連合の本隊だ。おそらく、津軽直轄の精鋭だ。飯塚、近くに味方のヒューマノイドはあるか?」
「左腕部無しなら一体」
「よし。それに音声接続だ」
「はい。周波数確認…出ました。いつでもできます」
「よし。接続だ」
前線
「あっ…あ…」
「こいつまだ息があるのか…⁉︎」
「化け物だな…」
「そこまでにしていただこうか」
「何者だ⁉︎」
「日本騎士会2番隊隊長榊原だ」
「日本騎士会の猛者がなぜこんなところに?」
津軽の後ろにいた日本甲冑を着たヒューマノイドの一人が答える。
その津軽は首、右手、両足の手錠から伸びた鎖を後ろにいる部下たちに握られ、組み伏せられていた。
左肩から伸びた腕は枯れたように肩から垂れ下がっている。
「今回の戦。退いていただけないだろうか?」
「何をおおせか?大将をこのような姿にされ、しかも今の戦場の戦況は我が方が優勢。これを退けと仰せられるか?」
「だからこそだ」
「は?」
「だからこそ退けと言っている」
「それは…」
「先ず、こちらが劣勢なのはまだ本隊を出してはいないからだ」
「それは、はったりであろう?初陣の者が多数いるなかで本隊を出さぬとはその者たちを殺す気か?」
「そうだが、何か?」
「…は?」
「今回の戦はtype-Bを得るための戦でもある。type-Bと訓練生100余人どちらを取るか?私だったら迷わずtype-Bを取るがね」
「貴様…っ!それでも武人か⁉︎」
「そうだが何か?」
「貴様…っ!」
「落ち着け。坂野、みっともないぞ。相手の口車に乗ることはない」
そう言って津軽の後ろにいた一人のヒューマノイドが坂野と呼ばれたヒューマノイドの肩に手を置く。
「確かにそちらの言うとおりだ。こちらの大将の損傷も激しく、早めの治療が必要だ」
「…わかった。全軍撤退!しんがりは13部隊頼む!」
その言葉を残し、津軽を巨大な箱に詰め去っていく。
ベースキャンプオペレーション室
「ふぅ…なんとかおさまったか」
「ふふっ…すごいハッタリですね」
「あのぐらいじゃなきゃ退かないだろ?」
遠野連合大型輸送艦 我者
「くそっ…!どうしても納得いかん!」
「恐らく、あれは、はったりだろう。あれだけの虚偽をスラスラと並べられるとは、あれは、ただの隊長ではないようだな」