月代ひろ
2001年日本
ダダダダッとマシンガンの音が耳をつんざく。
「はっはっはっ…」
弾のなくなったマシンガンを捨ててハンドガンを構えてガタガタの道を走る。
ドーン!と音がして、吹き飛ばされる。
「痛てて…」
すぐさま立ち上がり、駆け出す。
「はっはっはっ…痛っ!」
立ち上がって下を見ると血まみれになった男が横たわっていた。
「うっ…」
その手を見ると黒い薄汚れたハンドバッグをしっかりと抱えていた。
それを見て乾燥してボロボロに荒れた唇を舐め唾を飲む。
バン!とその場に音が響き渡る。
男の手がぐらりとハンドバッグから離れる。
すぐさまハンドバッグを奪い中をあさくると金があった。
それもかなりの大金。
そして、真っ黒い指輪。
それらを脇に抱えて急いで走る。
2036年日本
ダンダンダン!
人のようなフォルムをした白い何かがが大きな足音を響かせながら走る。
しかし、人ではない。
人の頭のような部分には口を目も鼻も無い。
それが大地を走る。
そして、廃墟と化したビルの前までくると立ち止まり人のようなものは拳を握り振りかぶる。
振り下ろそうとした時、ゴン!と鈍い音がする。
人のようなものの前にいたのは人のようなものの拳を握りしめた巨大な黒い西洋甲冑だった。
顔のような部分はマスクで見えない。
西洋甲冑は拳を握り潰し、腰に下げた剣で人のようなものの首をはねる。
白い人のようなものはビクンと痙攣した後、右手と首から血を噴き出して倒れる。
ジジジ…ジジジ…ジジジ…。
「はっ!…」
周りを見渡すといつもの部屋だ。
ガムテープで補強された窓。
錆だらけのキッチン。
「夢か…」
そう言ってダンボールの山から起き上がり冷蔵庫に向かう。
錆びた銀色の冷蔵庫に顔がうつる。
ボサボサの黒髪、よく女みたいだなとからかわれる顔。
そんな顔を無視して冷蔵庫の中から赤いカラカラの果実を取り出しグニャっとした音をたてながら咀嚼する。
「今日でこの家を最後か…」
そんなことを呟きながらダンボールの山に戻り山を崩していく。
「あった…」
ダンボールの山の奥にあった黒いハンドバッグを持ち上げ中を確認する。
「よし」
ハンドバッグの中から真っ黒い指輪をはめたネックレスを取り出し首にかける。
そして、ダンボールをコンロの上に置いて火をつける。
ボォッっと音がしてダンボールの山が崩れ始める。
それを横目で見ながら家を出て、家の前に停めてあったバイクにまたがりエンジンをかける。
ゴルンゴルン!と変な音を響かせながらがバイクを走らせる。
しばらくすると大きな壁についた。
「止まれ!」
壁の横にある小屋から男の人が銃を構えながら走ってくる。
「お前、通行証は持ってるんだろうな?」
「ちょっと待ってください…これです」
そう言ってハンドバッグの中から古ぼけた紙を出す。
「ふむ…なっ!こっこれは失礼しました!どうぞお通りくださいませ」
「ありがとうございます。あの…騎士訓練所はどこに…」
「あぁそれなら、あの大きい建物ですよ」
男の人が指すほうを見ると群を抜いて大きい建物が見えた。
「ありがとうございます」
そのビルに向かって真っ直ぐバイクを走らせる。
そして、ようやくビルの門についた。
「止まれ!許可証を見せろ!…よし行け!」
「あのすいません。駐車場は何処に?」
「あとでもって行ってやるからそこに置いてけ」
「ありがとうございます」
ここまで乗ってきたバイクを降りてビルの方に足を進める。
しばらく歩くと白髪のお婆さんが立っていた。
恐らく70はこえてるはずなのにしゃんと伸びた背すじに後ろで結ばれた長い白髪が尻尾みたいにゆらゆら揺れている。
「よく来たね。ガキ」
「ご無沙汰してます。え〜と…」
「忘れるんじゃないよ。堺 よしだよ。この学校の校長だよ」
「すいません。それで時間がかかっちゃいましたけどもってきましたよ」
そう言ってハンドバックを渡す。
「本当にこんな大金もってくるとわね。いいだろう。入学を認めよう」
「ありがとうございます」
「んで、あんた名前はどうすんだい?」
「その名前やめてくださいよ。いつのですか」
「そうだね〜んじゃ、あんたは今日から月代 ひろだよ」
「それって確か…」
「英雄の名前だよ。英雄と一緒の名前だなんてラッキーじゃないか?」
「はぁ…」
「テンション低いねぇ。若いんだからもっとシャキッとしな」
「…はぁ」
「はぁ…立ち話もなんだ。教室に行こうじゃないか」
「あの…この学校のこと僕まだ知らないんですけど…」
「んじゃ、歩きながら話そうかね。あんたこの国のことは知ってるかい?」
「いえあまり知りません」
「いいかいこの国、日本は今4つの勢力に分かれて戦争しているんだ。まず東北地方を拠点とする遠野連合、そして、関東地方を拠点とする日本騎士会…まぁあたしたちのことだね、そして関西地方を拠点とする日本愛国前線、そして今の日本最大の勢力、神州出雲
こいつらは四国、中国四国を勢力下に収めてる。
九州を勢力下に収める日本海賊団。
そしてこの学校、日本騎士会騎士育成会は日本騎士会が未来のエースを育てる為につくった学校。だいたいわかったかね?」
「だいたいは…」
「それでいいんだよ。ほら着いた。ここがあんたがはいるクラス1-Aだよ」
そう言って堺校長は教室に入っていく。
「ほら、お前ら静かにしな!今日は編入生がいるから紹介するよ。ほら、入ってきな」
教室に入ると皆の視線が一斉に僕に集まる。
「えっと…月代 ひろです。よろしくお願いします」
「んじゃあんたの席は…後ろの窓際の所で」
席に向かって歩こうとすると堺校長が小声で
「いいかいあんたが元囚人だということは秘密だよ…」
軽く頷き再び席に向かう。
よく見ると皆青い制服をきてる。
明日でも支給されんのかな?
そんなことを思いながら席に着く。
「あの…よろしくねっ!」
横を見ると女の子が頭を下げていた。
「あっ…よろしくお願いします」
若干引き気味で挨拶をすると女の子は顔を勢い良く上げる。
大きな眼鏡にクセの強いオレンジの髪の毛。
「あっ急にゴメンね。わたし後藤 ひなっていうのよろしくね」
「こちらこそ、月代 ひろっていいます。よろしくお願いします」
「ふふっ…さっきも前でやってたじゃん。君って面白いね」
「そうですか?」
「おい編入生」
「はい?」
後ろを見ると一人の男の子がたっていた。
きっちり整った黒髪にキリッとした顔。
「ボクへの挨拶はどうした?」
「え?」
困惑していると後ろから後藤さんが小声でフォローを入れてくれる。
「この人はね…貴族の近衛 ふみや君だよ」
「へぇー…あっ!えっと…月代 ひろです。よろしくお願いします」
「ふん…英雄と同じ名前か、お前の両親は卑しい身分でありながら英雄と同じ名前を付けたか…はっはっは!実に笑えるぞ!いいかよく聞け!お前らみたいな卑しい身分の奴らはボクたち選ばれしもの達の踏み台になるか、戦場で死ぬしかないんだよ!だから、お前が英雄と同じ名前だからって偉くなったり金持ちに慣れないんだよ!」
「…」
「はっはっは…実に面白かったぞ。して、お前はなんな為にここに入ったんだ?機嫌がいいからこの近衛 ふみやがきいてやろう!」
「…金が欲しいからです」
「金だと?そんなもんなにかしらの仕事をすれば手に入るだろう?」
「僕には大金が必要なんです。それで、まともな仕事をしていては一生たまらないと思ったので騎士になろうと思ってここに入りました」
「なんだと…貴様今なんと言った?騎士がまともな仕事じゃないだと…ふざけるな!騎士を馬鹿にするなよ!いいかお前ら愚民はボクたち騎士が守らなきゃ生きていけないんだよ!」
「人を殺す仕事のどこがまともだって言うんですか?」
「なに…?」
「人を殺す為に武器をとり人を殺す為に武器をつくり人を殺す為にオペレーションをする。いったいどこがまともな仕事なんですか…⁉︎」
「月代くん…」
「お前…いいだろう実戦練習でお前を潰してやろう!」
「はいはい!そこまでー」
声がした方を向くと眼鏡の男の人が立っていた。
「ほらほら君たちあんまり青春しすぎるなよー」
「先生違います。こいつがケンカを売ってきたんです」
「はいはいわかったから席付けー。ヨッす!編入生、俺の名前は舟波 しゅうやだ。よろしく」
「よろしく…お願いします」
黒髪に黒眼鏡の真面目感をピアスと喋り方が壊している。
「てことで早速授業始めるぞー。教科書の10ページ開けー」
「えっ…教科書?」
「はい」
後藤さんが教科書を見せてくれる。
「ありがとうございます」
「今日はヒューマノイドについてだ。ヒューマノイドって言うのはこんなものだ」
スクリーンに映し出されたものは、朝夢で見た白い人のようなものだった。
「え…?」
「どうした編入生?ビビったか?でもなお前らはこれを操縦するんだぞー。えーっ、ヒューマノイドには3つのタイプが存在する。まずtype-E」
スクリーンに映し出されたのは真っ白い丸いものだった。
「これはtype-Eといってヒューマノイドの砲撃タイプだ。動きもしない。要するに固定砲台だな。そして、type-Eがある一定の条件をクリアするとtype-Wになる。まぁ、それは稀なことなんだけどな」
スクリーンに映し出されたものはあの白い人のようなものだった。
「今の戦争で主に使われているのはこのtype-Wだ。type-Eの殻を強制的に割ることによってtype-Wを多く戦場に投入できるし何よりtype-Eと違って移動できるからな。そして今ではtype-Wに武装させ戦わせるのが主流になっている。そして、最後のタイプがtype-Bだ」
スクリーンには人のようなシルエットに?とかいてある画像がうつる。
「これはtype-Bが一様の姿をしていないということだ。type-Bはtype-Wがなんらかの条件をクリアするとtype-Wの内側から出現する。だからtype-Bはとても貴重なものなので一部のお偉いさん、もしくは相当の猛者しか操縦することは不可能だ。てことで、これから実戦練習にはいる。今回は全員type-Wを使ってもらう。地下練習場に移動しろ。揃い次第訓練を行う」
そういって舟波先生は教室を出て行く。
「絶対潰すからな!」
そんなことを吐いて近衛くんも数人の取り巻きと一緒に教室を出て行く。
「がんばろうね月代くん!」
「はい」
「ほら遅れちゃうよ。行こっ!」
後藤さんが僕の手をとってひっぱっる。
「ずいぶんお気に入りだなひな」
いつの間にか、男女が目の前に立っていた。
「あっゆうちゃん!」
ゆうちゃんと呼ばれた女の子は僕に視線を向けてきた。
長い黒髪に少し焼けた肌、真っ白な僕とは正反対のような人だった。
「へぇーひなはこういうのがタイプか」
「えっちょっ違うよ!月代くんかんちがいしないでね!」
「はぁ…」
「くっくっく…いやーからかってゴメンね。あたしは堺 ゆうよろしくね」
「よろしくお願いします。堺さん」
「やだなー!ゆうでいいよ!」
「えっ…ゆう…さん」
「おいおい編入生困ってんだろ」
わって入ってきたのは茶髪を短めに切った男の子だった。
「よっ!えっと〜ひろ!俺は鎌上 まひろよろしくな!」
「よろしくお願いします」
「相変わらずテンション高いな…」
「そういえば、地下にはやく行かないと!」
「よし!ほら行くぞ!ひろ!」
教室を出ようとしたとき、ゆうさんに声をかけられる。
「あんたが何者かあたし知ってるから」
「えっ?」
「あたし、あのババアの孫なんだよね。てことであんたの監視役あずかってるからよろしくね」
「ゆうちゃん!月代くんはやく〜!」
地下練習場
僕たちはパイロットスーツをきて並んでいた。
「よーし、揃ったなー。てことで実戦練習始めるぞー。じゃあここで操縦の仕方を説明する。操作は簡単だ。まず、あの球体…EGGの中にはいる」
舟波先生が指差した方を見るとそこには白く丸いものが並んでいた。
「えーっ、EGGの中に入ってスティックと呼ばれるものをセットする。すると、ヒューマノイドとの意識の接続が始まる。
これが終わるとお前たちの意識はヒューマノイドと同一になる。まぁ、詳しくは乗ってみりゃぁわかる。てことで、いまからスティックづくりを始める。お前らの後ろの方に機械があんだろ。それに手を乗せるとスティックが排出される。まぁ、原理について話すと日本騎士会の領地の地下には何千万というヒューマノイドが収納されている。そんな中からお前ら1人1人にあったヒューマノイドが割当たるようになっている。それと、スティックにはもう一つ大切な役割があってそれは、これがあればどのEGGでもヒューマノイドを操縦できるってことだ。てことでスティックつくりおわった奴から並べー以上」
その言葉をきいて僕たちは一斉に動き始める。
機械の後ろに並んでしばらくすると僕の番がきた。
機械に手を乗せた瞬間首から下げていた指輪がカタカタと振動し始める。
ガチャンと音がして取り出し口を見ると、そこには真っ黒なスティックがあった。
「おーい!ひろ、お前何色だった?俺は緑だったぞ」
鎌上くんが手を振りなが走ってくる。
鎌上くんのスティックを見ると白をベースにした薄い緑色をしていた。
「なんか薄い感じがするんですけど?」
「そうか?皆こんなだったぞ?んで、お前のはどうだったんだよ?」
「僕のは…黒でした」
「黒かいいな!」
「いえ…皆みたいなのじゃなくて…真っ黒です」
そう言いながら鎌上くんにスティックを見せる。
「なんだこれ…不気味だな」
「はい…」
「でも、まぁカッコいいじゃん。ほら、はやく並ぼうぜ」
「あっはい」
歩きながら、急に鎌上くんが口を閉じた。
「どうしたんですか?」
「あのさ…近衛っているだろ。あいつの父親は騎士団の3番隊の隊長なんだよ。だからあいつはこのクラスであんな風に威張ってられんだ。だから、あんま気にすんなよな。あいつが偉いんじゃなくてあいつの父親が偉いだけだ。だからあいつにあんなことをいう権利はないんだ。だからあんま気にすんなよな朝の話」
「はい。ありがとうございます」
「んじゃよかった」
そういって2人で列に並ぶ。
しばらくして
「全員終わったなー。これより実戦練習を始める。まぁ…いま話すのもなんだが、ヒューマノイドと意識を同一させるということは感覚も一緒に同一化になる。てことは、ヒューマノイドが殴られたら操縦者も痛みを味わうってことだ。
それにフィールドバックと違ってヒューマノイドの手が折れたら操縦者の手も折れる。大雑把に言うとヒューマノイドが死んだら操縦者も死ぬってことだ。わかったか?だから、ヒューマノイドは気をつけて扱え。そしてスティックは個人個人専用だから他人に貸したり無くしたりすんなよ。てことで実戦練習始めるぞー!最初は…月代 ひろ。もう1人は…」
「先生ボクにやらせてください」
そう言って手を上げたのは、近衛くんだった。
「よし、わかった。最初の実戦練習は月代 ひろと近衛 ふみやだ。2人とも頑張れよー」
歩きながら近衛くんは僕に話しかけてきた。
「朝の屈辱忘れないからな…!」
それを無視して僕は歩く。
でも、一つ気になることがあった。
それはあの白い人のようなもの…ヒューマノイドを前に見たことがある気がするということだった。
「あの巨人何処かで…」
一つ一つ記憶を探っていく。
だが、いつも同じ場所でキーンという音と共に意識ぐ記憶の海から引きずり出される。
「…なんなんだろう?」
そんなことを思いながらEGGに入る。
中にあるのはスティックを入れる穴だけ。
それ以外には何もない。
まるで、本当の卵の中みたいに。
「2人とも準備はいいか?スティックを入れてみろ」
穴に真っ黒いスティックをいれる。
「ロック解除。パスワード****。認証完了。ヒューマノイドNo.315起動」
このとき、僕は異変にきずくべきだった。
「…っ!」
一気に意識がもってかれる。
そして、キーンという音。
記憶の海に浮かび上がる一つの記憶…
真っ赤に濡れた手、身体、そして顔…
「あぁぁぁぁっ!」
頭がいたい!割れる!
「どうしたー月代?」
「…大丈夫です」
そのまま、意識が遠のいていく。
そして、目覚めると…広い部屋にいた。 前方には一体のヒューマノイドが手を握ったり開いたりしていた。
「…ここは?」
「やっと気がついたか?」
あぁ…僕はヒューマノイドと同一化したんだ。
「行くよー。よーいスタート!」
「…っ!」
意識がはっきりすると目の前には白い拳が迫っていた。
「がはっ!」
そのまま、僕の身体は吹き飛ばされる。
「弱すぎんだろ」
立ち上がろうと身体を起こそうとした瞬間、上から降ってきた踵に潰された。
「ぐはっ!」
そのまま、近衛くんに馬乗りにされる。
そして、顔を何度も殴打される。
「ほら!言えよ!オレに歯向かって悪かったって‼︎身分が低いのに英雄と同じ名前ですいませんでしたって‼︎」
「がっ…!」
「…もういいや」
そう言って近衛くんは僕の右腕を掴む。
「まさか…実戦練習は中止だ!2人とも接続を切れ!近衛!やめろ‼︎」
そして…ブチッ!
「あぁぁぁぁっ!」
僕の右腕は消えていた。
近衛くんの右腕にはその右腕が握られていた。
「あぁぁぁぁっ!あぁぁっ!」
「ははっ…ははっ…」
その頃、山形の某寺にて…。
「…むっ」
「どうした伊達?」
伊達と呼ばれた大柄の男は太い声でその質問に答える。
「…アレが目覚める」
「アレって?」
「…人が悪いな、津軽」
津軽と呼ばれた赤毛の男はニヤッと笑う。
「あんまりからかっちゃダメですよ」
「…最上か」
最上と呼ばれた黒髪の男は伊達と津軽の近くまで来るとどさっと座る。
「…英雄殺しだ」
「マジですか?」
「…本当だ」
「でも、記憶が封印されてたんじゃないですか?」
「…どっかの阿呆が封印を解くほどの衝撃を与えたんであろう」
「くっくっく…はっはっは!いいねいいねぇ!久々にあいつと戦えるんだ!負けんじゃねぇぞ!はっはっはっは!」
「…ここは?」
周りは真っ白い水。
そして、上には真っ黒の海面。
「…行かなきゃ」
僕は海面に向かって泳ぎ始める。
地下練習場
「なんだ…?」
そこに居た全員が見ていた。
腕を千切られ動かなくなった月代のヒューマノイドの頭部にひびがはいり始めていたのを。
やがて、それは、大きくなっていき…
「…ここから出なきゃ」
「あぁぁぁぁっ!」
叫び声と共に月代のヒューマノイドから出てきたのは、真っ黒で身体中に白い幾何学模様があしらわれた、ヒューマノイドだった。
「…ここは?」
急に視界が明るくなる。
手で光りを遮ろうとしたとき、初めて気づいた。
身体が黒くなっていることを、それと同時に記憶の海に黒い雫が落ちる。
それは、戦場を駆け抜ける僕だった。
雫が海面に落ち、それと同時に意識がはっきりする。
前を向くと白い拳が迫っていた。
首を傾けよける。
そして、白いヒューマノイドの顔面を掴み地面に叩きつける。
「がっ!」
すぐに顔面に拳を叩き込む。
衝撃で白いヒューマノイドの身体が浮く。
何発も何発も叩き込む。
白いヒューマノイドはピクリとも動きはしない。
その時、意識が引っ張られる。
そして、僕は血の匂いでむせかえるEGGの中にいた。
「大丈夫か⁉︎」
EGGの扉が開き、舟波先生が中に入ってくる。
「立てるか?」
「…ありがとうございます」
肩をかりてなんとか立ち上がる。
EGGから出ると、皆が僕の方を見ていた。
その時、パチパチと拍手が聞こえてきた。
生徒たちの間を通って、1人の男が歩いてくる。
綺麗になでつけられた白髪にパリッとしたワインレッドのスーツ。
「いやー!見事な実戦練習だったよ!初めまして、榊原 たかしだ」
榊原さんは僕の目をのぞきながら興奮気味に話す。
「何かご用意ですか?2番隊隊長殿」
舟波先生が榊原さんを睨む。
「いや、今日は1年生の実戦練習をぜひと学長殿に言われてきただけだよ。そうしたらこうな優秀な騎士に出会っただけさ」
「でしたら早々にお引き取りください。今日の練習は中止です」
「そう言うわけには行かないね」
そう言って榊原さんは僕を見る。
「君名前は?」
「月代…ひろです」
「ほぅ!英雄と同じ名前か⁉︎ますます気に入った!君、2番隊に入隊する気はないか?」
「…っ!榊原さん、こいつはまだ予備騎士ですよ!」
「だから、なんだって言うんだ?私だって予備騎士の時にスカウトされ、ここまでのぼりつめたんだ。何か問題でもおありか?」
「あなたとこいつとは訳が違う!あなたみたいな天才とは訳が違うんです!」
「まぁまぁ、ここで我々が色々いっていても埒が明かないだろう?きみはどうなんだい月代くん?」
「…もう少し考えせてください」
「ふむ…いいだろう。きみの初陣の時またくるとしよう。でも、一つ覚えていて欲しい。どこぞの馬鹿な隊に入るより2番隊に入隊した方が特だと思うよ」
そう言って、もう一つのEGGをチラッと見て榊原さんは背を向けて、去って行く。
その途端、どっと疲れが出て意識が遠くなって…。
「おい!月代!しっかりしろ!」
「…ん?」
「気がついたか?」
「…ここは?」
そこは、月明かりに照らされカーテンで仕切られた部屋だった。
「医務室だ。初めての操縦であんなことがあってしかも、隊長直々にスカウトされたとなりゃそりゃ疲れんだろ?ゆっくり休め」
「…ありがとうございます」
「腕大丈夫なのか?」
「…腕ですか?」
右腕を見ると服が肩から破れてるぐらいで怪我とかはしている様子はなかった。
「…大丈夫みたいです」
「…本当か?」
「…はい」
舟波先生は下を向いてブツブツと言い始める。
そして顔を上げて
「おい」
「…はい」
「お前、なんでスカウトを保留にしたんだ?金が欲しいんなら絶対入隊した方が得だろ?」
「なんでお金のこと知ってるんですか?」
「立ち聞きしてたんだよ」
「…随分正直ですね」
「まぁな、でなんでだよ?」
「…怖くなったんです。あの後、急に頭の中に死とか孤独感とかが急にぐるぐる渦巻き始めて!それで…!」
「やっと人間ぽくなったじゃねぇか」
「…え?」
「いやー俺な最初にお前見た時な人形みてぇだなって思ったんだよ」
「…それってどういう意味ですか?」
「特に意味なんてねぇよ。それより、お前に話さなきゃいけないことがある」
「…」
「お前らの初陣が一週間後に決まった」
「…え?早くないですか?」
「上の連中が早く早くって急かすせいで2ヶ月も早くなった。まぁ、昼間きたおっさんも1枚噛んでると思うけどな」
「…榊原さんですか?」
「あぁ、なに心配するこたぁないさ。お前らは俺たちがぜってぇ守るからな」
「…よろしくお願いします」
舟波先生はニッと笑い僕の頭をぐしゃぐしゃとなで医務室を出て行った。
医務室廊下
舟波が医務室から出ると1人の老婆が壁に寄りかかり煙草を吸っていた。
「あんた、なにが目的だい?」
「人聞きが悪いですね。堺校長」
「フン!とぼけるんじゃないよ。あんたが尻尾いや鼻の先を見せた瞬間、脳漿をぶちまける用意はできてんだよ」
「ふふっ気をつけますよ」
コツコツコツコツ…。
翌日、1年生全員に初陣が一週間後であることが発表された。
ソワソワする者怯える者泣き出す者…反応は様々だった。
そして…運命の日の前日。
僕たちは教室に円になって座らされていた。
舟波先生が真ん中にでてきて話を始めた。
「よーしお前ら明日はいよいよ初陣だ。初めての戦闘で緊張すると思うがこの一週間みっちりやっときたことを忘れなければ生き残る確率が高まる。そして、お前らに知らせておかなければならないことがある。それは、生還率だ。過去のデータからとった生還率の平均は95%。そして、万が一敵のエース級が出てきた合の生還率は25%だ。よく頭に叩き込んでおけこれが現実だ。以上!明日に備えてしっかり準備を整えるように!解散!」
その言葉を聞いたあと、僕たちはぞろぞろと席を立つ。
「…おい、ひろ」
まひろくんが僕を呼び止める。
「絶対、生きて帰ってこような…」
「はい」
そう言って、2人で寮に向かう。
僕とまひろくんは一緒の部屋になった。
なんでも、僕と1番仲が良さそうとの理由だそうだ。
男子寮102室
「あのさ…俺…あんなこと言ったのに…震えが止まんねぇんだよ…」
まひろくんは二段ベッドの下に座って足を手で押さえつけながらゆっくりと言った。
「大丈夫ですよ。先生95%って言ってたじゃないですか」
「でも!もし、エース級が出てきたら!俺たち…みんな…!」
「…そういうのやめましょうよ。もっと希望を持ちましょうよ」
「ははっ…そうだな。悪りぃ…よし!この際お互いのこともっと知り合おうぜ!」
「お互いのこと…ですか?」
「あぁ!だって俺たち互いのことなんも知らないんだぜ?そんな奴に背中預けられるかよ!だからなっ?」
「…やりますか」
「おう!じゃあ俺からな!えー鎌上まひろ16歳!3月4日生まれ!好きな食べ物は梅干しご飯!…くらいかな、なんか質問ある?」
「あのーここに来る前はなにしてたんですか?」
「んーバラックって知ってるか?ほら、木とからビニールシートとかで作った家のこと。俺、スラム生まれなんだよね。1年前の戦争で住んでたところ全部焼けちゃってさ…それで、あいつらに復讐してやろうと思ってここに入ったんだよね」
「なんか…気軽にきいてすいません…」
「いいって、もう昔のことだし。それよりもさお前の自己紹介しろよ」
「あっはい。月代 ひろ。ここに来る前は郊外に住んで死体から金品を奪ったりしてました。それより前のことは…わかりません…」
「えっ?」
「…すいません僕、昔の記憶がはっきりしなくて…気がついたら郊外の家に1人いたんです。そこに、1000万集めたらここに入学させてあるって置き手紙があったので頑張ってお金集めました」
「なんか…ごめんな…大変だったんだな」
「い…いえ…でもこれでおあいこじゃないですか?」
「そ…そうだな!よし!明日に向けて今日は寝ようぜ!おやすみ!」
そう言って、まひろくんはベッドに潜ってしまった。
「…おやすみなさい」
そう1人つぶやいてまひろくんのベッドの上のベッドに登り電気を消す。
このあとのこと深夜に音がし起きてみると窓辺でまひろくんが何かを握りしめながら1人泣いていた。
5月11日 第15次関東戦線防衛戦開戦
僕たちはパイロットスーツでトラックの荷台に乗せられていた。
トラックの出口には銃を持った兵士たちが待機している。
ガタガタと舗装されてない道をただひたすら無言で走る。
山形 某寺にて
「…騎士会が行動を開始したようだな」
「はっはっはっ!ついにか!早く闘いてぇ!」
「津軽さんテンション高いですね」
「あたりまえだ!俺は行くぜ!」
「…あれの支持を仰がなくていいのか?」
「んなもん関係ねぇ!」
「勝手な行動はやめてほしいなぁ。津軽ぅ」
「チッ!南部!引っ込んでろ!」
南部と呼ばれた眼鏡の男はニヤニヤと笑いながら津軽の前に立つ。
「それで引くと思ってるぅ?」
「2人共やめてくださいよ!」
「いいかぁ?ぼくにはぼくなりの作戦があるんだぁ。と言うわけでぇ、今回はお前以外に行ってもらうぅ」
「それって僕か伊達さんってことですか?」
「お前は絶対にだめだぁ。暴れたらぁ、津軽どころの騒ぎじゃなくなるからなぁ」
「じゃあ、伊達さんですか?」
「伊達の得意分野は防衛だぁ」
「でも、それ以外の人は皆出払っちゃってますよ」
「チィッ!しょうがないなぁ。津軽行けぇ」
「やっとか!おい!EGGの準備だ!はっはっはっはー!」
元栃木県矢坂市平野
僕たちは一列に並べられていた。
1人の騎士が前に出てくる。
「今回の作戦を発表する!今回の作戦は野営班、拠点班の二つに分かれて行動する!野営班は前線近くにベースキャンプをはっての戦いになる!くれぐれも気をつけるように!そして、君ら1年生165名は2番隊の支持に従って行動せよ!隊長よろしくお願いします」
そう言われて、榊原さんが前に出てくる。
「今回、指揮をとる2番隊隊長の榊原たかしだ。皆、初陣で緊張していると思うが精一杯頑張ってほしい。以上」
「ありがとうございます。これで、出陣式を終了とする!オペレーション班は飯塚副隊長の方へ戦闘班は冨田戦闘部長の方へ移動!以上、解散!」
「ついに来たか…生き残ろうなひろ」
まひろくんが噛み噛みしめるように呟く。
「おーい!」
声がした方を向くとゆうさんとひなさんが走ってきた。
「ひながどうしてもお前に会いたいって言うから来てやったよ」
そう言いながらゆうさんは僕を見てニヤニヤと笑っている。
「ちょっ!ゆうちゃん!違うからね月代くん!」
「はぁ…」
「まぁ、皆頑張って生き残ろうぜ!」
そう言ってゆうさんはひなさんの肩を叩いて拠点の方へへ行ってしまった。
「あー!待ってよー!それじゃね2人共!私はオペレーターだからまた後でね!」
そう言ってひなさんも走り去って行く。
「また後でね…か…生き残れたらいいな…俺たち」
「生き残れたらいいなじゃなくて…生き残りましょうよ…!死んだら元も子もありませんから」
「ははっ…そうだよな…生き残ろうぜ。絶対に」
「はい」
「んじゃ俺野営班だから後でな!」
「はい…絶対に会いましょう」
そう言ってまひろくんはトラックの方に歩いて行った。
「おい」
「はい?」
後ろを振り向くとそこにはふみやくんがいた。
「…ふみやくん」
「まだお前に負けたわけじゃない。勘違いするなよ化け物が」
そう吐き捨てて取り巻きと拠点の方に歩いて行った。
僕も拠点に向かって歩こうとすると肩を掴まれる。
「やぁ、月代くん」
肩を掴んだ人は榊原さんだった。
「決意は決まったかね?」
「…」
「まだなのか…まぁいい。今回の作戦で君は拠点待機だ。分かったかね?」
「…はい」
そう言って榊原さんも拠点の方へ歩いて行った。
榊原さんが少し歩いて立ち止まった。
「あぁそうだ。力が必要なら私に言いなさい。最高のモノを用意してある」
そう言うと再び歩き出した。
矢坂市平野付近寺川ダムにて
2体のヒューマノイドが銃を構えて歩いていた。
軽めの西洋鎧に背中には大きなバック、そして耳にはヘッドホンをしている。
「こちらポイント12異常なしってとこかな」
「あぁ、暇だなー俺だって戦いてぇよ」
「だよなーなんで俺たちこんなことしてんだろうな?予測ポイントは3のはずだろ?こんなとこに来るわけ…」
「おいちょっと待て…なんかおかしいぞ」
「…なんだこの熱源反応は?なんだ、一体だけじゃねぇか。ダムの方向か?」
「そうみたいだなよし行って…」
「…え?」
一体のヒューマノイドの首が飛んでいた。
ベシャっと音をたてながら地面に落ちる。
「はっはっはー!弱すぎんだろ!騎士会!」
そこにいたのは全身が血のような赤色、身体中に少し黄ばんだ幾何学模様、そして長くボサボサの黒髪に額には捻じれた二本の角がそびえ立つヒューマノイドがいた。
「type-B…鬼神種…捻じれた角…遠野連合の津軽か!」
「お前ら…弱いな。興醒めだ。消えろ」
そう言うと津軽は白いヒューマノイドの横を通ってベースキャンプの方に歩いて行く。
「…お前を殺せば…金…女…地位…なんでも手にはいんだよなぁ⁉︎」
そう言って白いヒューマノイドは津軽に銃の焦点を合わせて引きがねを引く。
「あ?おせぇんだよ雑魚」
次の瞬間、白いヒューマノイドの目の前に津軽がいた。
「死ねぇぇぇ!」
白いヒューマノイドは銃を捨て腰にさしてある剣を抜いて斬りかかる。
「痒いぃんだよ」
剣は折れていた。
「なっ…!」
津軽は白いヒューマノイドの顔を掴むとぐしゃっと握り潰した。
あたりに血が飛び散りさながら地獄絵図のような光景になる。
「ん?匂うな…くっくっく…待ってたぜ!早く戦いてぇ!はっはっは!」
そう言って津軽は走り去っていった。
ベースキャンプオペレーション室
2番隊副隊長の飯塚 さちこは悩んでいた。
「ポイント11異常なし」
「ポイント6異常なし」
「ポイント5異常なし」
「…おかしいな」
彼女の自慢である長い黒髪を後ろでしばり飯塚は部下から報告された情報を頭の中でパズルの様に組み合わせていた。
しかし何かがおかしい。
「予測ポイント8はどうなっている?」
「いまだ動きがありません」
ここまでくると作戦そのものが間違っていたという気になってくる。
予測ポイント全てが空振りなのだ。
野営班からの通信もない。
その時だった。
あの連絡が入ったのは。
「副隊長!野営班全滅との連絡です…」
「なっ…!」
ベースキャンプ隊長室
「隊長!」
「どうした飯塚?」
「野営班が全滅しました!」
「野営班が?ふむ…全騎士をポイント11に出撃させろ」
「ポイント11ですが⁉︎しかし、あそこは!」
「空振りだったんだろう?」
「…はい」
「空振りだったことは事実だ。しかし、君の作戦はただ一カ所を除いてその予測は当たっていたようだ」
「…どういうことですか?」
「相手のエース級が出てきたということだよ」
「…っ!それじゃ訓練生の初陣は中止に!」
「かまわん出撃させろ。人は遅かれ早かれ死ぬんだ、死んだらそれまで」
「…わかりました。失礼します」
一礼をして飯塚は隊長室を出て行く。
「さぁ、月代 ひろ…実力を見せてもらおうか」
騎士待機室
他の訓練生や騎士の人達を見送った僕は1人ベンチに座っていた。
「ふぅ…」
何気無く息をはいてみる。
???
「あ…」
俺が目を開けるとコンクリートの天井が目に飛び込んでくる。
「おにいちゃんおきたー!」
「おきたおきたー!」
横を向くと子供たちがはしゃぎまわっている。
「こらっ!あんまりはしゃがないの!」
そう言って部屋に入ってきたのは俺と同い年くらいの女の子だった。
後ろでたばねた黒髪に着古したエプロンをしている。
「ゴメンね騒がしくて…あっ!大丈夫⁉︎怪我痛まない⁉︎」
「…怪我?」
そう言われて腕を見てみると丁寧に巻かれた包帯に血が滲んでいた。
「…俺…どうしてここに…?」
「きみ、血だらけでこの建物の前に倒れてたんだよ。あっ、きみ名前は?」
「…鎌上…まひろ…あんたは?」
「わたしは猪井 ちさ。ここで孤児院やってるの」
「…孤児院?」
「うん。戦争で親を亡くした子供たちを育ててんの」
「…大変だな」
「うん。大変だけど、わたし子供好きだし毎日楽しいよ」
「…へぇー。…こんな世界にもあんたみたいな人がいるんだな」
「ふふふっ、こんな世界だからこそ私たちは生きてられるんじゃないですか」
「…」
「あっ、水持ってきますね」
そう言ってちさはパタパタと部屋から出て行く。
「…可愛すぎんだろ…!」
「…お兄ちゃん」
横を向くとおさげの女の子が俺の目を覗きこんでいた。
「おわっ!」
俺の声で驚いたのか一瞬で扉まで移動して廊下から顔だけ出して俺を見ている。
「驚かせて悪かったな。なんもこわいことしねぇって」
「…ほんと?」
「おう」
「…へへっ」
ニコっと笑うと女の子はベッドにちょこちょこと近づいてくる。
「…おにちゃんケガしてる。…いたそう」
「あ?こんぐらいなんでもねぇよ」
「…おにいちゃん強いんだね」
「いずれ騎士王になる男だからな!」
「…きし…おう?」
「あぁー要するに…この国で1番強い人だ。そして、俺はこの国を平和にしたいんだよ」
「…へぇー。…やっぱり、おにいちゃんはかっこいいね」
「ありがとな。んで…ここどこ?」
「…ここはねこじいんって言うんだって」
「そっか…君名前は?」
「工藤…しずか…」
「しずかか…いい名前じゃん」
「ほんと?へへっ…ありがとう」
その瞬間、ズシン!と建物が揺れた。
「…ひっ!」
「なんだ?…まさか」
再び揺れが来る。
「…おにいちゃん!」
「大丈夫だ…大丈夫」
そう言いながら、ベッドの側に有った松葉杖を頼りに立ち上がり廊下に出る。
すると、そこには窓から見える白い壁があった。
ベースキャンプオペレーション室
「訓練生の避難は終わったか⁉︎」
「オペレーション担当者は全員、待機室に移動させました!」
「11番との信号切れました!」
「12との信号も切れました!」
「くそっ…!どうなっているんだ⁉︎」
地形の利はこっちにある。
だが、そんなものはエース級一体でひっくり返される。
「そろそろかな…」
「何がですか?隊長…」
「英雄の登場だよ。この戦局をひっくり返すほどの…そろそろだな」
そう言って、榊原はオペレーション室を後にした。
騎士待機室
扉が開いて入ってきたのは榊原さんだった。
榊原さんは僕の前に立つと口を開いた。
「君と取り引きをしたい」
「…取り引きですか?」
「あぁ、もし君が私の隊に入るとすればこの戦局をひっくり返すだけの力をやろう。もし君が断われば、ここで友人が死ぬのを指をくわえて見て居ればいい。さぁどうする?」
「…僕は…僕は…僕は…あなたの下にはつきません」
「…そうか…ならばここで待機だ」
「…」
そう言って榊原さんは部屋を出て行く。
そして、僕は榊原さんが見えなくなったのを確認すると部屋を出た。
壁の標示を頼りにEGGルームへ向かう。
ベースキャンプEGGルーム
EGGルームに入るとむせかえるような血の臭いが漂っていた。
何人かの職員の人がEGGをこじ開け、中から腕や頭が無い遺体を運び出している。
「あの、すいません。EGGの準備お願いします」
「今からかい?んー…血まみれのならあるけど…」
「それでいいです。お願いします」
そう言って頭を下げる。
「わかったよ。ほら、入んな」
そう言って近くにあるEGGの扉を開けてくれる。
「ありがとうございます」
中に入るとそこらじゅう血だらけだった。
ポケットに入れてあるスティックを穴にいれる。
「ロック解除。パスワード****。認証完了。No.315起動」
引っ張られる感覚が訪れる。
それが終わり目を開けるとまっすぐな道に赤いライトが並んでいた。
「ふぅ…」
僕はゆっくり息を吐いた。
ベースキャンプオペレーション室
「被害機総数が70を超えました!」
「type-Eを出せ!なんとかくい止めろ!」
「榊原隊長!」
「どうした?」
「No.315が起動しています!」
「何?映像を出せ」
「はい!4番ハッチ映像出ます!」
大型モニターに映し出されたのは、黒い西洋甲冑だった。
「…月代か」
「強制停止しますか⁉︎」
「…いや、No.315にオペレーションを繋げ。同時に進路マップ及びAシステムのエネルギーを注入を始めろ」
「Aシステムですか⁉︎あれはまだ…!」
「構わん。続けろ」
「進路マップ及びAシステムのエネルギー注入完了しました!」
「よし。No.315出撃」
「ハッチオープン!進路クリア!発進どうぞ!」
4番ハッチ
扉が開いて光が差し込んでくる。
僕は横にあった鏡を見ていた。
黒い兜に黒い鎧。
夢で見た黒い西洋甲冑そのものだった。
(月代聞こえるか?)
「榊原さん…すいません」
(かまわん。処分は戦果を見て考える)
「…はい」
(そのヒューマノイドには自動アシスタントがついている。それでは、武運を祈る。以上)
「自動アシスタント?」
(進路クリア。いつでも出撃可能です。Aシステムを起動してください。足くびについているレバーを倒してください)
屈んで足下を探すと確かにレバーがあった。
それを倒すと
(Aシステム起動。3.2.1発射)
ブシューっと音がして身体が前に吹き飛ばされる。
「おわっ!」
(体制が不安定です。安定させてください)
僕は身体を地面に並行になるように調整する。
そう、僕は地面すれすれを飛んでいるのだ。
「何処に向かえばいいんですか?」
(進路データ確認中…前方1キロ先廃ビル付近に敵ヒューマノイド確認)
「ありがとうございます」
孤児院
「なんでヒューマノイドがここに…⁉︎みんな避難しろ!」
そう言って俺は屋上に登り、腰にさしてあった銃をヒューマノイドに突きつける。
それが小さな抵抗だと知っていて。
(お前、騎士か?)
ヒューマノイドから声がきこえてきた。
「あぁそうだ!俺は騎士だ!だけどこいつらは関係ない!ただの一般人だ!」
(ただの一般人というのは認めよう。だが、騎士会の騎士を介抱したんだ。同罪だろ?)
「お兄ちゃん…」
「まひろさん…」
「…っ!早く逃げろ!早く!」
(逃げられるわけねぇだろーよっ!)
ヒューマノイドが拳を振りかぶる。
「クソっ!」
銃を撃つが、ヒューマノイドの拳は止まることなく振り降ろされ…
「…っ!…え?」
そこにいたのは白いヒューマノイドの拳を受け止めるデカイ西洋甲冑だった。
「…生きてる」
「間に合った!」
(敵機確認中、識別番号データ無し。敵機確認。殲滅してください)
「なんなんだよお前は⁉︎」
「うぉぉぉ!」
そのまま、白いヒューマノイドの拳を握りつぶす。
「あぁぁぁぁっ!テメェ…ッ‼︎」
「あぁぁぁぁ!」
逆手に黒い剣を抜き白いヒューマノイドの首をはねる。
「はぁはぁはぁ…」
白いヒューマノイドはビクッと痙攣したかと思うと手首と首から血を吹き出して倒れた。
(民間人確認中、一名データ有り。訓練生鎌上 まひろと確認しました)
「まひろくん!」
「…その声…ひろか…」
「はい!これから救助隊がきます!」
「…あ…ありがとう…お前はどうすんだよ?」
「僕は…」
(前方800mに敵機確認。計三体。Aシステムを起動してください)
「すいません!また後で生きて会いましょう!」
「…ちょっ!」
足首のレバーを倒してAシステムを起動し、敵機に向かう。
(敵機付近に一機…データ出ました。訓練生 近衛 ふみやと確認しました)
「…ふみや君」
(敵機まで600m、赤外線データ確認、味方機の腹部に亀裂発生。至急援護してください)
「Aシステムフルスロットルでお願いします!」
(第五種現場権限において、Aシステム限界突破開始。スタートまで5.4.3.2.1スタート)
「おわっ!」
一気に前に引っ張られる。
(体勢が不安定です。ノーマルに切り換えます)
「いえ!そのままでお願いします!」
(わかりました。限界突破続行)
(目標補足。接触まで5.4.3.2.1)
「うわぁぁぁ!」
加速したエネルギーを剣にのせてヒューマノイドの首を切る。
「敵襲だ!」
「死ねぇぇ!」
刀を振りかぶったヒューマノイドのお腹に剣を突き刺し、後ろから切りかかってきたヒューマノイドの顔面にパンチを加え吹き飛ばす。
「大丈夫ですか?
「はぁはぁはぁ…なんなんだよ…その機体?」
「榊原さんから借りてます」
「ふざけるなよ…!このっ…バケモノが…!」
「…もうすぐ救護班が来ます。それじゃ…」
「このバケモノが…っ!バケモノ…!」
叫び続けるふみや君を無視してAシステムを起動し前線に向かう。
(3km先に強力な熱反応有り。注意してください)
前線
「はっはっはー!弱ぇ!弱ぇぞ‼︎もっと強い奴はいねぇのか⁉︎」
「数で押し返せ!相手は一機だけだぞ!」
「あめぇんだよ!」
声をあげたヒューマノイドの首がもぎ取られる。
「あいつは…あいつはどこだぁぁぁ‼︎」
「くそッ!援軍はまだか⁉︎」
「機動部隊に補給路が抑えられていてムリです!
「なんだと⁉︎…撤退は⁉︎撤退は可能か⁉︎」
「はい!てった…あぁぁぁ!」
「おい!どうした⁉︎返事を…うぁぁぁ!」
「弱ぇ奴に興味なんかねぇよ!」
この時、人々は死を覚悟した。
アレが来るまでは。
「…もうダメだ…どうせ死ぬんだ…」
「母ちゃんの飯食いてえよ…」
「誰か…」
「誰か…」
「誰か…」
『助けてくれよ…!』
「弱ぇ奴に興味ねぇんだよっ!」
ゴキン!という鈍い音が辺りに響く。
「はぁはぁはぁ…大丈夫ですか?」
「あんたは一体…?」
騎士団の兵士の前に立ったものそれは、黒く巨大な西洋甲冑だった。
「…匂うぞ」
「…⁉︎」
「はっはっはっはーっ!てめぇだな⁉︎オレが探してたヤツは‼︎」
「なんのことですか…!」
「とぼけんじゃねぇよ!」
「…っ!」
赤いヒューマノイドが一気に体重をかけてくる。
「オラオラオラーッ!本気出してみろよ!」
腹に蹴りを入れられ後ろに吹き飛ぶ。
「がはっ!」
「弱ぇ…弱ぇ弱ぇ弱ぇ弱ぇ…弱ぇんだよ!」
起き上がる間も無く頭を掴まれる。
そしてそのまま叩きつけられる。
「がはっ…!」
「オラオラオラーッ!」
「…っ!」
一瞬の隙をつき剣で切りかかるが素手で受け止められ、剣を投げ捨てられる。
「だからさ…弱ぇんだよ‼︎」
持ち上げられ頭を握られている手に力が入る。
「あぁぁぁっ!あぁぁぁ!あぁぁぁっ!」
「…興醒めだぜ」
そのまま僕は投げ捨てられた。
そして僕は意識を失った。
記憶の海
僕は海の底に座っている。
辺り一面血の海。
銃声
爆発音
悲鳴
笑い声
断末魔
…
一斉に頭の中に入ってくる。
「もう…やめてよ…」
生きたい
「やめてよ…」
生きたい
「やめてよ…」
生きたい
「やめてよ…」
生きたい
「やめてよ!」
「僕は生きたい」
「え?」
「君死にたいの?」
「死ぬのはいやだ…」
「じゃあ生きたい?」
「…うん」
「じゃあおいでよ…」
黒い目をした僕はゆっくりと僕に手を伸ばした。
「さぁ…一緒に行こう…惨劇の新世界へ」
「…うん」
ガラガラと海の底が崩れ始める。
僕は流れに身をまかせるまま海の底に沈んでいく
ベースキャンプオペレーション室
「No.315反応が消えました…!」
「何…?それは本当か?」
「はい…榊原隊長、どうしますか?」
「…ふむ」
「No.315に強力な熱反応が!」
「何⁉︎今すぐに接続を切れ!」
「駄目です!すでに神経接続が100%を超えています!」
「装甲内に巨大な圧力確認!このままだと装甲が弾け飛びます!」
「…装甲をパージしろ!同時にNo.315の半径500m以内からの撤退を命じる!」
「はい!全機につぐ…!」
「助けてくれ!」
「お願い!殺さないで!」
「止めろ!止めろぉぉ!」
「あ…あ…」
前線
「あ?何だ?」
「あ…あ…」
『あはっはっはっは!』
僕は闇に手を伸ばした。
前線
プシューと音がして装甲が崩れ落ちていく。
それを見たものは後に悪魔を見たと語る。
装甲の上に立っていたのは真っ黒で全身に幾何学模様がかかれたヒューマノイドだった。
「…type-B…だと⁉︎」
「データ無し⁉︎新種か⁉︎」
黒いのヒューマノイドは近くに落ちていたヒューマノイドの頭を持ち上げた。
「…何をする気だ?」
黒いヒューマノイドの顔にヒビが入り始める。
顔のヒビは次第に大きくなりそして口辺りが大きく裂け白い歯と赤い口内が露出する。
「…口…だと」
そして黒いヒューマノイドは頭を口まで持ち上げるとそのまま食いちぎった。
「ひっ…!」
「くっ…喰った!」
グチャっと咀嚼音を出しながら食べ始める。
黒いヒューマノイドは頭を食べ終わると何かを探すように辺りを見回す。
そして動きを止めるとケモノのように地面に手をつき、そのまま駆け出した。
それは赤いヒューマノイドが去った方向だった。