訪問者2
梨花子はドキドキしながら部屋のドアを開けた。
「ただいまー…」
「お邪魔しまーす!」
茉奈は梨花子より先に部屋へ入っていった。
「ちょっと、茉奈!」
梨花子も急いで靴を脱いで部屋に入った。茉奈はソファに座り、テレビをつけていた。
「いやー、梨花子の家のソファって座り心地いいよねー!」
「旅行の計画立てるんでしょー」
梨花子は部屋を見渡しながら、そう言った。ノリはまだ帰って来てないようだ。梨花子はほっとして、キッチンでコーヒーを入れた。
「茉奈はどこか行きたいところあるー?」
「んー、ここは?結構長い時間遊べるし」
梨花子と茉奈は二人でパソコンの画面を覗き込みながら計画を立てていた。行き先もだいたい決まり、これで安心して旅行に行ける。梨花子はほっとして、ふと時間を見た。
「りーかこ!」
「わぁ!」
時計を見上げると、背後にノリが立っていた。
「梨花子?」
心配そうに茉奈が梨花子の腕を掴む。梨花子ははっと我に返ると笑顔で茉奈を見た。
「何でもないよ。茉奈、そろそろ帰らなくて大丈夫?」
「え?あ、やばい!」
茉奈は別の友人と食事の約束があると、急いで支度した。
「じゃぁ、梨花子また明日!」
「はーい」
茉奈を見送り、梨花子はふぅっと息を吐くと、玄関に座り込んだ。
「梨花子、大丈夫?」
「あんた、いつ戻って来たの?」
顔をあげ、睨みながらノリを見た。ノリも座り、梨花子と同じ目線で答える。
「ついさっき」
「びっくりしたじゃない」
梨花子はぷぅっと頬を膨らませた。ノリはそれを人差し指でつつくと、
「ごめんね、梨花子」
と、言って梨花子の頭を撫でた。
「で、何か見つかったの?」
コーヒーを入れ直し、テレビを消してソファに座る。ノリもその隣に腰をおろした。
「んー、特に?やっぱりどこ見ても見覚えもないし、ピンとも来ないんだよねー」
「だめじゃん」
梨花子は呆れたようにそう言うと、コーヒーを一口すすった。
「今日来てたのら梨花子の友達?」
ノリは梨花子の顔を覗き込みながら聞いた。
「そ。来月旅行行くから、計画立ててたの」
「いいなー」
ノリのその言葉は重い。梨花子はちらっとノリを見る。ノリは幽霊なのだから、旅行に行けないし、友達とも遊べない。梨花子としか会話ができないのだ。だから、ノリのその言葉は梨花子にとって重く聞こえた。
「早く成仏して生まれ変わりなさいよ」
梨花子はぼそっとそう言った。
「何?」
「何でもなーい。さ、夕飯つくろー」
梨花子は誤魔化すと、コーヒーを飲みきり、キッチンへ向かった。
「梨花子ー」
キッチンへ向かう梨花子を追いかけるように、ノリが呼ぶ。
「んー?」
「俺が生まれ変われたら、お礼するね」
梨花子は顔が赤くなるのが分かった。
「聞こえてたの!?」
「梨花子、ありがとう」
ノリは梨花子に近寄ると、コツンと額と額を合わせた。
「俺、早く成仏できるように頑張る」
梨花子は赤くなった顔を隠そうと、ノリの目をふさぎながら額を離した。
「分かったからあっち行ってて」
ノリの顔は冷たいので、長い時間触れることはできない。梨花子はすぐに手を離すと、逃げるようにキッチンの奥へ向かった。
「かわいいねー」
ノリはからかうようにそう言うと、大人しくソファに戻った。梨花子はノリに負けた気分がして、むぅっとむくれたまま夕飯の支度を始めた。