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レイ愛!  作者: ゆき
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「梨花子…」

「ん…」

突然頬に氷が触れたようにヒヤッとした感覚が走った。

「冷たい!」

梨花子は驚いて起きた。

「梨花子、眠るなら寝室行けよ」

目の前にはスキンヘッドの色男。ノリは梨花子が起き上がるのを確認すると、隣に座り、テレビのリモコンを操作し始めた。

バイトから帰宅した梨花子はテレビを見ているうちに眠ってしまっていた。冷たいものの正体はノリの手だった。

ノリと暮らし始めて一ヶ月経った。分かったことは、幽霊は会話できるし、テレビも見る。しかし、食事や睡眠は必要ない。触ることができるのは、物と梨花子だけ。他の人間にはノリは見えないし、触ることもできない。

「ノリ、びっくりさせないでよ」

「寝てるの起こしてやったんだ。風呂入って寝ろよ」

お前は親か。梨花子はノリが被っているハットを叩き落とすと、寝室に着替えを取りに向かった。

「お風呂覗かないでね」

梨花子はそう言って、シャワーをあびに向かった。

「ふぅ」

一ヶ月か。シャワーを浴びながら、ふとノリと出会った頃を思い出す。最初は怖くて仕方なかったが、それも慣れ、今はただの居候のようになっている。

「ま、死んでるんだけどね」

ポツリと呟く。そう言えば、ノリは記憶がないと言っていた。しかし、未練があるから幽霊としてこの世に留まっている。もしかして、ノリが成仏できないと、一生付きまとわれるのでは…。

梨花子は急いでシャワーを終えると、ソファでくつろぐノリの上に馬乗りになった。

「あんた、記憶本当にないの?未練って何?このまま成仏できないと、どうなるのよ!?」

「おい、梨花子」

ノリは冷静に梨花子の頬に自分の手を当てた。

「冷たい!」

梨花子は驚いてノリの上から降りた。

「女の子なんだから、やたら男の上に乗らない」

ノリは呆れてため息を吐いた。梨花子は床に座り込んで、ノリを見上げるように睨み付けた。

「あんた、頑張って成仏するって言ってたけど、何もしてないじゃない。あと、ノリは死んでるから男としては見てない!」

そういう問題じゃないんだけどなぁ。ノリはポツリとそう言うと、ハットを脱いでソファの空いている場所をポンポンと叩いた。梨花子はムッとしながらも、ノリの隣に腰をおろした。

「俺、本当に自分が何者か分からないし、何で死んだのかも思い出せない」

「じゃぁ、どうすんのよ」

「でも、この町で目覚めたのには、何か意味がありそうだ。だから、」

「だから?」

「この町を散策してみようかなぁ」

ノリの真剣な表情とは逆に梨花子の顔はひきつっていた。

「そ、それだけ?」

「梨花子、まずは出来ることからやらないと」

ノリは梨花子の頭をぽんぽんと優しく叩く。梨花子は冷たい手をどけると、

「一生私に付きまとう事になったら、本気で祓ってやる!」

と、怒鳴った。

「なんでそんなに怒りっぽいかなぁ」

ノリは呆れたのか、またテレビを見始めた。

梨花子はそのまま寝室に駆け込むと、ベッドにダイブした。

「ムカつく」

自分の事なのに、あんなに不安だったくせにどうしてそんなに飄々としていられるんだ。私がいつまでも置いてあげるとでも思っているのか。早く成仏して、また一ヶ月前の生活を取り戻したいんだ。

梨花子はノリ対する怒りを頭で考えているうちに、眠ってしまった。


朝目覚めると、ノリの姿はなかった。おそらく本当に散策に出かけたのだろう。

「そんなことで成仏できるなら、最初からそうしろよ」

まだノリへの怒りが収まらない梨花子は文句を言いながら遅めの朝食を食べた。今日の授業は2限からなので、ゆっくりできる。梨花子は朝食を済ますと化粧をして、洗濯を回した。

「いってきまーす」

梨花子は誰もいない部屋にそう言うと、鍵を閉めて出かけた。

「何だろう」

違和感を感じた。いつもと同じ朝だ。ノリがいないくらいなのだが…。

「あ、ノリがいないからだ」

いつもなら、いってらっしゃいと言ってくれるノリが今日はいなかったのだ。ノリがいることが日常になっていることに、梨花子はまた腹を立てた。

「嫌よ、幽霊がいることが当たり前なんて」

「何が嫌なの?」

「わぁ!」

梨花子は驚いて振り返った。いきなり後ろから声をかけられたのだ。

「茉奈か…」

「おはよ、梨花子」

友人の一人、日下部茉奈だった。茉奈とは入学以来ずっと仲良くしている。

「梨花子、独り言しゃべってたよ」

「あ、考え事!」

梨花子は適当に誤魔化すと、話しを反らした。

「茉奈、旅行の計画そろそろ細かく立てない?」

「あ、そうだね!宿泊先とか決まってるから、後は観光どこに行こうか」

来月から始まる夏休み。梨花子は茉奈を含めた友人の五人で伊豆に温泉旅行に行く予定だった。

「今日バイトないなら、授業のあと梨花子の家に行って決めない?」

「え?」

墓穴か?梨花子は断る理由を必死に考えた。

「うち、今散らかってるし、その、電気壊れてて付かないの!」

「暗くなる前には帰るし、なんなら電気買って行こうよ!あ、散らかっててもへーきだよ」

茉奈はにこっと笑って答えた。

「え、っと…」

「じゃぁ、梨花子の家に行くねー!久し振りだなぁ」

梨花子は乾いた笑顔で、

「そ、そうだねー…」

と、だけ答えた。

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