確信
残留組にはただならぬ雰囲気が漂っていた。
最も、下山組も気持ちは同じだろう。
私、桜井は落ち着きを取り戻し冷静に状況を判断する事に専念した。
「涸沢副部長、昼食が終わったらちょっと書斎をもう一度一緒に見よう。」
「もちろんいいとも、桜井部長。」
私達は書斎にむかい、現場調査を行う事にした。
途中女将とすれ違い、夕食の案内をしてくれた。こんな時に、気丈な方だ。
遺体発見から4日たつが、浅香は別段、腐ったりはしていなかった。
硫黄の香りは、まだ残っていた。
「…桜井部長、女将をよんできてくれないか?」
私は頷くと、女将のもとへ走った。女将はすでに夕食の準備を手がけていた。
女将を連れて行くと、涸沢は藪から棒に質問した。
「女将村上氏、この家に酒はあるか?たとえばーウイスキーなんか…。」
「ああ、それなら浅香様のお気に入りが仕入れてありますよ。
確か…おくともあ?」
「オクトモアだな?」
「はい、ご用意しましょうか?」
「食後にいただこう。」
言うなり女将は、すたすたと去って行った。
「今の質問はなんだったんだ?」
「ウイスキー、特にスコッチの中には、強烈な香りを持つものがあるんだ。中でもオクトモアは、その香りを示す「フェノール」値が抜群に高いんだよ。」
「どんな香りなんだ」
「食後のお楽しみだ。のんびりやろうじゃないか。もう犯人はわかったようなものだよ。」
私は衝撃が走った事をここに告白しておこう。私には、全く犯人の検討がつかんのだ。
「重大ヒントをやろう。
薬の中に、酒との相性が悪いものがある。ジスルフィラムアルコール反応といって、強烈な頭痛や嘔吐をひきおこすんだよ。体調は最悪になる。」
そして食後に頂いたウイスキーからは、確かに強烈な香りがした。
そうー正露丸のようなー焦げた香りであったりーこれは…硫黄……?