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マッチ箱殺人事件  作者: 松永 幸治
一章 侵食
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第三の犠牲者

殺人者を含む作戦の決行は翌日早朝となった。下山組が野宿する事無く任務を遂行するためだった。

みな与えられた部屋に収まり、朝を待った。僕は緊張のあまり、よく眠れなかった。


恐ろしいほどに静かな、夜だった。


開け放した窓から森の香りがする。涸沢はカビの一種の香りだ、と教えてくれたが、それだけではないだろう。

落ち着きと衝動の狭間が夜の闇に染み込み、僕の意識と共に消えた。


西島の死は翌朝、訪れた。発見したのは桜井だった。物音を聞いて突入してみたらしい。


「馬鹿な!どういうことだ!いったいどうしたっていうんだ。誰だ!誰が殺したんだ!出てこい!!」


驚いたのは、桜井が取り乱していたことだ。彼の精神状態はいち早く、限界を迎えていた。


「落ち着きたまえ、桜井部長。現場を検証しよう。

梶、煙草が吸いたい。ライターを…、いや、いい。死体(こいつ)がもってたよ。」


涸沢は死体の脇に例の如く落ちていたマッチをすり、煙草に火をつけた。

その死体はまさに異形であった。首から上が、プラケースに包まれていたのだ。

襟元はサイズの調整できる輪っかとなっており、さらにケース上部には開閉式の穴があった。


「死因は恐らく一酸化中毒だな。眠らされるかして、この箱に顔を突っ込まれたんだろう。

上の穴からマッチを掘り込み、酸素を奪ったんだな。

なんだってこんな回りくどい事をするんだろうね」


涸沢はこの事態に、どこか楽しそうな節を見せた。彼は事件をどう捉えているのだろうか。


「グループ変更をしようよ…」


進藤は飽くまで弱気だ。


「いや、犯人がここに来て殺人を犯すということは、恐らくグループ変更が目的だ。

このままでもよかろう。どうせ西島氏がいてもダメなときはダメだ。」


結局、下山組は荷物を整え、山を下ることになった。段取りはこうだ。


残留組が現場検証をし、状況をなるべく守る。

下山組は携帯の繋がるところまで出たら即座に電話で警察を呼ぶ。


僕は涸沢との別行動に、多大な不安を覚えた。




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