第三の犠牲者
殺人者を含む作戦の決行は翌日早朝となった。下山組が野宿する事無く任務を遂行するためだった。
みな与えられた部屋に収まり、朝を待った。僕は緊張のあまり、よく眠れなかった。
恐ろしいほどに静かな、夜だった。
開け放した窓から森の香りがする。涸沢はカビの一種の香りだ、と教えてくれたが、それだけではないだろう。
落ち着きと衝動の狭間が夜の闇に染み込み、僕の意識と共に消えた。
西島の死は翌朝、訪れた。発見したのは桜井だった。物音を聞いて突入してみたらしい。
「馬鹿な!どういうことだ!いったいどうしたっていうんだ。誰だ!誰が殺したんだ!出てこい!!」
驚いたのは、桜井が取り乱していたことだ。彼の精神状態はいち早く、限界を迎えていた。
「落ち着きたまえ、桜井部長。現場を検証しよう。
梶、煙草が吸いたい。ライターを…、いや、いい。死体がもってたよ。」
涸沢は死体の脇に例の如く落ちていたマッチをすり、煙草に火をつけた。
その死体はまさに異形であった。首から上が、プラケースに包まれていたのだ。
襟元はサイズの調整できる輪っかとなっており、さらにケース上部には開閉式の穴があった。
「死因は恐らく一酸化中毒だな。眠らされるかして、この箱に顔を突っ込まれたんだろう。
上の穴からマッチを掘り込み、酸素を奪ったんだな。
なんだってこんな回りくどい事をするんだろうね」
涸沢はこの事態に、どこか楽しそうな節を見せた。彼は事件をどう捉えているのだろうか。
「グループ変更をしようよ…」
進藤は飽くまで弱気だ。
「いや、犯人がここに来て殺人を犯すということは、恐らくグループ変更が目的だ。
このままでもよかろう。どうせ西島氏がいてもダメなときはダメだ。」
結局、下山組は荷物を整え、山を下ることになった。段取りはこうだ。
残留組が現場検証をし、状況をなるべく守る。
下山組は携帯の繋がるところまで出たら即座に電話で警察を呼ぶ。
僕は涸沢との別行動に、多大な不安を覚えた。