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マッチ箱殺人事件  作者: 松永 幸治
一章 侵食
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僕は辛抱たまらず涸沢に言い寄った。


「涸沢副部長、僕には何が起こっているのかわからん。

どうかこの馬鹿にもわかるよう、説明してくれ。」

「もちろん、いいとも。この事件…事件だ。これは、事件なのだ」


涸沢はひとつひとつ、確認するように話しだした。

釣りあがった細い目つきが、より一層鋭くなった。

書斎で話そう、と促すので、無言でついていく。


「まずこの遺体の状態だが、自殺にしては穏やかでない。この散乱したマッチ。

さらに口にもたくさん咥えてる。こんなこと、する必要がない。

そしてこの遺書。さっきも言ったが、僕は浅香氏とそれほど親睦が深いわけではない。


おそらく…、これは他殺で、犯人が脅して書かせたものなんだ。」

「まてよ、涸沢副部長。

今から殺されるってのに、その準備を自らするかね?」

「ふむ。そこのところは調べてみる必要があるな。

遺体に拷問された後はないし、だがしかし文字は震えている。精神的な種の脅しなのかもしれない。」

「香奈は?彼女は大丈夫なのか?」

「それは明日になってみないとわからんね。僕は十中八九、明日香奈氏は現れないと思うがね。

遺書を見たまえ。おそらく犯人は、僕と浅香氏が極めて親しい関係だと信じたんだろう。


だがそれは浅香氏の嘘だ。なぜ嘘をつく必要があったのか。


この「警察嫌い」の単語だが、僕は確かに浅香氏とむかし警察の存在意義について語ったことがあった。

警察が介入することで、返って迷宮入りとなる事件もあるだろう、と」

「ではこれは嘘に隠された真実なんだね?」

「いかにも。おそらく浅香氏は、警察を呼んでほしくないのは本当なんだろう。

こういった裏のメッセージを読み解いていくと、香奈氏への想いに疑いがかかる。

田辺氏も公認していた仲だ。そこに恋愛感情があったとは思えん。

つまりこれは、「そばにいる」というのがキーワードだと思う。

香奈氏は、浅香氏と近い立場におかれてるんじゃなかろうか…。」


涸沢の予想は、…少なくとも香奈については、おそらくあたっていることを次の日到着した桜井達の人数によって明かされた。


彼らは、3人しかいなかったのだ。


「事情はさっき船橋さんから聞いたよ。大変な事になったな。」


かつて部長だった桜井は、昔と変わらず冷静だが、顔色はさすがに良くなかった。

進藤は桜井の影に隠れてモジモジしていた。

こいつも、相変わらずだ。昔からいつも、正義感が強く優しい桜井にひっついてまわり、モジモジしていた無口な男である。


「お、おい!香奈ちゃんは!どうなってんだ!?

俺たちなんの連絡も受けてねぇんだよ!

ヒツジが聞いてさっきなんだ!!」


この西島も相変わらずで、慌てん坊の野蛮人である。だが根は優しく、まあ少し馬鹿だったと記憶している。

彼が1番、読書倶楽部にそぐわないが、読書は間違いなく好きらしい。


「これはこれはみな一様に久しぶりの顔ぶれだね。

元気にしていたか、桜井部長。相変わらず面白くない顔つきだね。絵に描いたような男前だ。

そこに隠れているの進藤氏だね?いやあ、実に懐かしい。君も相変わらず面白くない様子だね。隠れていても事件は解決しないよ。


西島氏、面白い顔だね。人語を話したまえ。」


涸沢は一通り皮肉の賛辞を述べたが、後ろにいる田辺は今にも倒れそうになっていた。

どうやら難解な西島語を解読したらしい。

一応解説しておくと、「さっき執事から聞いたんだ」といいたいらしかった。


僕は状況を整理し、ごくごく当たり前で、ごくごく月並みな発言をした。


「警察に報告しよう。これ以上犠牲者を出すわけにいかない。山をおりるんだ。」


言うが早いか、轟音が轟いた。僕はー

少なくとも、ミステリを愛好する僕と涸沢(生きていれば浅香もだろう)は、何の音か予想がついた。

車が、爆発したんだろう。

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