第0話
それは木の葉も散り始める初秋のこと。処刑台の上の少年に近づく影が一つあった。
「ねぇ、貴方死にたいの?」
いきなり突き付けられた言葉に少年はおもわず顔を上げる。
「…は」
顔を上げると目の前にいたのは小さな少女で、少年は一瞬戸惑った。先程の言葉はこの少女から出たものなのだろうか。
「聞いてるの!貴方、死にたいの?」
「……お前誰だよ」
言葉の意味が分からず答えとは別のことを呟くと、突然後ろから首根っこを掴まれた。
「ぐ……」
「お前!このお方になんて口の利き方をしてるんだ!謝れ!」
後ろにいた衛兵が言う。実はこの少年ついさっきまで公爵の屋敷に忍び込み公爵を殺そうとしていた暗殺者なのだ。しかし初めてなのか少年はあっさり衛兵達に捕まってしまって、今暗殺未遂で処刑されようとしている途中である。
「な…んで…だよ……」
「このお方はな!公爵様の娘、ベルナルダ様なのだぞ!」
「ベルナルダ……?」
そういえば聞いたことある名前だと少年は思う。だが今の少年にそんなことはどうでもいい。
「言葉などどうでもいいわ、ねぇそれよりどうなの?」
ベルナルダは話を戻す。そしてもう一度少年に問うた。
「貴方は死にたいの?」
ベルナルダは優しく、しかしはっきりと言う。小さいながら威厳のある少女に少年はたじろぐ。
「…………………………」
「どうなの?」
「…………………死にたいわけないだろ」
ようやく出た少年の答えを聞くと、ベルナルダはにっこりと可愛らしい笑顔を浮かべた。
「決めた」
ベルナルダは立ち上がり少年の目の前まで来ると、少年の埃だらけの頬に手を添え、こう言った。
「今日から貴方は私のモノよ」
その日から名も無き少年は少女のモノになった。