五話:爆竜と激突
すいません、タイトルを「最終世界の神位争奪戦~序列一位~」から、「最終世界の神を」に変更しました。長いしダサいですからね、旧タイトルは。
新タイトルがスタイリッシュかはともかく、どうぞ!
追伸:あとがきにイラスト貼ってますが、鬱陶しい人は先にイラスト表示OFFでお願いします。
まだまだ下手っぴです……。
というか塗りつぶしパターンってそのまま投稿しても良いのだろうか……。
“それ”は、白銀の光条と暴力を持って現れた。
横ではなく縦に裂けた口からは極太の光線が発射され、村を焼いた。
「キュルルルルルリィィィィィィィィィィイイイ!」
その爪は畑や家畜をなぎ払い、その羽の羽ばたきは地面を抉ったが、時折あげる咆哮は、皮肉であるかのように美しかった。
最高級の鈴を転がしているかのような美しい澄んだ音。
その音は、建造物を吹き飛ばした。
やがてそこにあった街は全壊し、皆死んだ。
馬も豚も牛も、赤子も幼児も少年少女も男性も女性も老爺も老女も、皆等しく命を散らせた。
彼らは代々龍を殺すことを生業にしていた「龍殺しの一族」であり、その髪は美しい白色をしていた。
「キュルルルルルリィィィィィィィィィィイイイ!」
しかし、敵わなかった。まるで歯が立たなかった。
それほどまでに“それ”は――龍王種神龍科霊聖目・白銀龍皇は、圧倒的なまでの強さを誇った。
幼子がアリを踏みつぶすのと同じ――人間のことなどまるで見えていない。
当初こそ、村に五人いた序列八十桁台の「龍殺し」のおかげで前線ラインが持っていたが、長くは持たなかった。
龍殺しは、己が倒した龍を自分の力にすることで戦う。
まず、炎龍狩に特化していたバカ力が自慢の「紅の龍殺し」レイが死んだ。
次に、霊龍狩に特化していたオカルト専門、「血の龍祓い」ウドが死んだ。
また、地龍狩に特化していた美貌の女丈夫、「力の龍崩し」ホルが死んだ。
四番、龍精狩に特化していた最年少の龍殺し「碧の龍殺し」シンが死んだ。
最後、爆龍狩に特化していたベテラン龍殺し「爆の龍殺し」ネロが死んだ。
一瞬だった。
レイは白銀の爪に貫かれ、ウドは羽の羽ばたきだけで地面に叩きつけられ、ホルは尻尾に薙ぎ払われ、シンは咆哮で死んだ。最後まで粘った六十歳の高齢ながら序列最高位のネロはしかし、白銀の光線に焼かれて死んだ。
「キュルルルルルリィィィィィィィィィィイイイ!」
その街――タネチコの街南東八キロメートルにあったその街は、壊滅した。
ただ一つの生命でさえ、存在を許さぬかのように白銀は破壊の限りを尽くした。
しかし、その縦に裂ける大きな口――明らかに大破壊力がありそうな口で噛み千切るようなことはしなかった。つまり捕食ですらない。
これは、単純な暇つぶしだ。縦に避ける大顎が笑ったように思えた。
そして最後に。
村の外れにある家が残った。まず羽ばたきで、家の屋根瓦と構造材が、一階部分の床を残して全て吹き飛び、中にいた美しい白髪の一人の少年――否、まだ二、三歳の幼児だ――を、その双眸で睨めつけた。
そして一度、一際大きく咆哮をあげた。
「キュルルルルルリィィィィィィィィィィイイイ!」
縦に裂けたその口が、これでもかと大きく開く。
その幼児には、それが牢獄のように見えたはずだ。囚われれば生きて出ることはできない死の牢獄。底の見えないはずの奈落の底を覗き込んでしまったかのような気分になってくる。
白銀は不思議なことに、これまで一度も使わなかった大顎を、その幼児に使った。
紛うことはない、捕食だった。
白銀の喉が大きく嚥下され、幼児は丸呑みされる――。
☆☆☆
「うあぁぁぁぁぁ!?」
赤メッシュの入った白髪の少年ユウ=クロドアは、山腹に立てた、人が二人入ったら狭いようなテントの中で悲鳴を上げた。それと同時に、目が覚めた。
嫌な夢を見た。
小さい頃によく見た、悪夢だ。最近はだんだん見る頻度が少なくなっていたが、それでも半年に一度くらいは夢に見ることがあった。
夢の中ではいつも、ユウは幼児で、最後はああやって白銀に食べられて終わる。
嫌な夢だった。
寝汗も尋常じゃない。脂汗だ。夢を見ている最中はこれが夢だと分かっていても、それでもまるで本当のことのように感じられる。
とりあえず気持ち悪い汗をどうにかしようと掛け布団を捲り上げると――
「うわぁっぁぁぁあああああ!!!?」
悪夢を見た時よりもむしろ大きい悲鳴を上げた。
「んむ……なに……もう朝なの……?」
全裸のファゴッドが、ユウの体に抱きつくようにして眠っていた。
「…………」
全裸のファゴッドが、ユウの体に抱きつくようにして眠っていた。
「…………」
全裸のファゴッドが、ユウの体に抱きつくようにして眠っていた。
「……あら、おはよう、ユウ」
「う、うん、おは……よう?」
視覚神経が拾った情報を、脳が視覚情報として捉えることを拒否したがために上滑りしていた情報が、ファゴッドから声をかけられたことで急速に脳に入ってくる。
「昨日は激しかったわね。疲れは取れた?」
「ちょっと!? 記憶の捏造が入ってるよ! 昨日は簡単な夕食を摂ってすぐに寝たはずだし……」
「そう。覚えてないのね。……まあ、あれだけ激しくしたし、それも無理はないかもしれないわ」
大変なことだった。
大変なことだった。
脳が思考を放棄してしまった。同じ言葉が脳内でリフレインし続ける。
「ちょ、え、待って、ホントの話なの?」
「…………」
「ちょっと!? 人間ってそんなに顔が真っ赤になるんだね!」
ファゴッドは、見つめ合っていた顔を背ける。
だが、ユウには抱きついたままだ。
そして今気づいたが、ユウは下着しか身につけていなかった。ってことは本当に致してしまったのだろうか。その、アレ的なことを。というかやばい、む、胸とか、その、せ、せせ先端とか! あ、当たってる! 下は考えない! てか多分ファゴッド下の下着もつけてな――考えない! 俺は何も考えない!
ユウが、強敵との戦闘で身につけた高速思考で無駄にテンパっていると、急速にファゴッドが動いた。
「!?」
唇を奪われた。
なにげにファーストキスだったような……。
かすかな甘味と、ファゴッドの髪の匂いが濃厚に香る。
「ん……。私、これがファーストキス……だか、ら……」
ユウの意思に反して、その両腕はファゴッドを抱きしめた。暖かい。細かく震えているのはなぜだろうか。緊張だろうか。
「ん……ちゅ……ちゅぷ……」
舌が入ってくる。
恋人同士でもあまりしないような熱烈で深すぎるキスは、その後も続き――。
口が離れる。
まるで癒着したかのように絡んでいた、ユウとファゴッドの舌の間に唾液の橋が架かる。
そしてファゴッドはユウの耳元に唇を寄せた。甘噛みされた。
そのままファゴッドは言う。
「襲ってくれるのを待ってたのよ……?」
ユウは吹き出した。そのまま咳き込む。どうやら間違いは犯していないようだった。
その後は、なんとなくそんな空気じゃなくなったため(珍しいことにファゴッドから引き下がった)、互いに服を着て、テントを畳む。ちなみに、ファゴッドはさも当然のような顔をして全裸の上からユウのコートを羽織っただけだった。
目が覚めたときはまだ真っ暗だったというのに、今はもう北の空が白み始めている。最終世界では、太陽は北から登り、南に沈む。それに、この星の周りを回っている太陽は八つもあり、場所によってはずっと昼間というところもあるらしいが――少なくともここはちゃんと夜と昼がある。
「よし、行こうか。今日はもう山頂まで行くから」
「う、うん。わかったわ」
ユウは、自分の身長よりも大きい二枚の双楯『神龍燐の双壁』を背負う。ファゴッドは手ぶらだ。
テントなどはユウが持った。
ざわ、と早朝の澄んだ爽やかな風が、木立の木々を揺らした。
その風は、白銀龍皇の咆哮を連想させた。
☆☆☆
「何もいないね……?」
「ええ、そうね。爆竜は確か夜行性だったはずよ。今はマグマの中に眠っているのではないかしら」
火口だ。
山頂にはもう少しあるが、ほぼ山頂だと言って間違いではない場所に、家屋にして二つ分くらいの大きさの穴がある。
山から見下ろすと木群があり、ここらはちょうど地肌と森の境目である。
第一の太陽はとうに沈み、今は第二の太陽が頭上にある。もうすぐ第三の太陽と重なるはずだ。
時刻で言うと午後十時。夜は午前一時から午前八時までだ。
「ファゴッド、ちょっと下がってて」
そう言うなりユウは、背負っていた馬鹿でかい一対の楯を下ろす。
それを革のベルトで前腕部に固定する。下から一メートル半、だいたい四分の三ほどの場所に肘が来る形で、両の手は楯から内側に突き出している取っ手を握っている。
表面は白銀の鱗に覆われているが、先端――ユウの手の方、つまり楯上部――には、白銀龍帝の鋭く尖った爪が生えており、真ん中からは龍皇の太い背骨が鋭く削られたものが突き出していた。
彼はその楯を大きく振りかぶると、裂帛の気合とともに、地面に叩きつけた。
火山が割れる。
消し飛んだ、とそう表現しても差し支えがない。
マールの大口火口付近の地肌が吹き飛ばされ、マグマが顔を見せる。あまり派手にやりすぎると噴火しそうなものだが、ユウは気にしなかった。否、そこまで考えていなかった。
はたして噴火することはなかったが、かわりに、マグマを割って一体の竜が首を持ち上げた。
竜の鱗の表面をマグマが伝い落ちる。
「…………? なんだ……? ……人間、お前か? 俺の眠りを覚ましたのは」
顎を伝いこちらに飛ぶマグマを、ユウは楯で払いのける。
十五年前、神が気まぐれで始めた神位争奪戦の影響で、世界の公用語は「日本語」に変更された。これまであった言語は全て消え、日本語しか存在しない世界に改変されたのだ。
以来、どの大陸の言葉を話していた知的生命体は日本語を話し、さらに、人間には理解できない言葉を持っていたモノ――虫に魚に獣に竜なども、日本語を話している。
それは、神の「誤変換」によるものだが、世界の生命体は全て、最初からそういうものだったというふうに記憶が改竄されているため、疑問に思うことはない。
ゆえに、爆竜が日本語を話しても、なんら不思議なことではないのである。
「ちょっと討伐されるか、それともどっか別のところに行ってくれないかな」
フ、と、爆竜は鼻から息を漏らした。マグマが散る。
「なぜこの俺が、人間ごときの指図を受けねばならん」
大きい。普通の爆竜の都合四倍はある巨躯を震わせて、爆竜が笑った。
「いや、爆竜、君がいるおかげでこっちは街に被害が出てるんだよね。そっちがマグマの中で身動きするたびに起きる噴火のせいで、こっちは壁外の畑が全部ダメになった」
「フン、知らんな。ともあれ、俺の寝床を破壊してくれた罪は、貴様の命であがなってもらうぞ、小僧ォォォォ!」
言って、爆竜はマグマを吐き出した。指向性を持った灼熱が、ユウの周囲一体に真上から降りかかり、蒸発させた。
「ほぅ、俺の体内で生成したマグマを受けて無傷とはなぁ!」
爆竜は、体内にマグマを溜め込む器官と、それを原料により高純度、高温なマグマを生成する器官を持っている。余談だが、マグマに含まれる鉱石は体内に吸収され、体表の鱗を作っている。
ユウは、両の楯でマグマを防いでいた。長いタワーシールドは、ぴったり合わさって一つの壁になっている。
「そりゃあまあ、こっちは白銀龍皇――、本物の「龍」だし。ニセモノの「竜」の攻撃ごときでは傷つかないよ」
地面を蹴った。
左の楯を前に突き出して防御とし、右手の楯は後ろに振りかぶる半身の姿勢で飛び上がり、爆龍の鼻先を殴りにいく。
「ぐぉォォォォォォっ!?」
当てた。
衝撃に爆竜の鼻が炸裂する。
まるで血の入った水風船だ。鼻っ柱が飛び散り飛散する。爆竜の体が一ミリもずれていないことから、まるでバターを削るように楯が打撃部分を削り取ったのだ、ということが窺えた。
「うん、まあ、こんなもんか」
着地したユウが、右肩を回しながら言った。
「グッ……! ガホ、ゲェ……、ゼ=ゴーディ=エン! 《治癒》!」
爆竜が魔法を発動させる。
初歩の初歩、回復魔法だ。削られた鼻が元の形に戻る。
「ご、小僧ォ、……貴様、序列何位だ……!?」
「うん? 91桁だけど」
「ふ……ふざけるな! 序列81桁の俺をそうも容易く傷つけられる奴が、91桁だと――!?」
「へえー、10桁違いか。通りで」
ホラ、とユウが楯を構える右手と左手を掲げる。
震えていた。
自分より序列が高いものに対する通常の反応だ。
普通なら抗おうなどとも思うことができない、絶対の差。
「な……。どうやら、本当に91桁らしいな」
言って爆竜は、あるものに注意を向けた。
「小僧ォ……。その楯、序列は?」
「ふふ、気づいた?」
楯を揺らす。
「92桁だよ、一応」
だけど、と一度区切り、
「まさか本物の白銀龍皇の鱗や爪が、92桁なんて低序列で存在するなんて思ってないよね」