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こぼればなし  作者: やまやま
弐 最悪の黒
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最悪の黒-079_試し撃ち

 森の十数メートル手前で止まった一行は改めて魔導具の包みを解き、地面に並べた。

「もう少し近付けるんじゃないか?」

「飛距離ごとの威力のデータも取っときたいからな」

「……ッ! ……ッ!」

 コクコクとハクロの言葉に同意するティルダ。そして彼女が手元に手帳と携帯用の木炭ペンを取り出したのを確認すると、並べた魔導具の右端を手に取る。

「まずはこれだ」

 構造としてはかなりシンプルで、筒部分の内側にも溝は彫り込まれておらず、最初の試作品に最も近い形状をしていた。それをボウガンのように筒部分を左手で支え、初めて手にする魔導具のはずなのに妙に手慣れた操作で引き金に指をかける。

 その瞬間、持ち手に施された術式に沿って大気中の魔力が吸収され内部の魔石を一度通った後、筒部分の持ち手側に攻撃魔術が滞留する。なるほど、攻撃の意思を持って構えることで装填される仕組みになっているらしい。

 そして引き金を引く――それを文字通りのトリガーとして筒内部で滞留していた攻撃魔術に発射の概念が付与され、それと同時に撃鉄が後方から打ち据えることで魔術が発動した。


 ――ズドン!


「うおっ!?」

 想像以上の爆音にバーンズが思わず両耳を手で塞ぐ。

 火薬の破裂音ではなく狭い筒の口から高速の魔力弾が放たれたことによる衝撃音のようだ。まあこれに関しては筒部分に別の術式を彫り込むことで如何様にも調整できるだろう。

 タズウェルも若干顔を顰めながらも筒の口から放たれた魔術弾を見据える。

「……一番手前の樹木(ウッド)系種に命中」

「…………」

 ハクロも狙い撃った魔物に目を向ける。

 初級魔術ということで威力としては期待していなかったのだが、幹の中央に被弾した攻撃魔術は樹木(ウッド)系種を大きく穿ち、バランスが崩れて上半分が地面に転がっていた。

 さらに当たり所が悪かったのか、たまたま中核器官(コア)を破壊してしまったらしく、数秒とかからず魔力となって霧散を始めている。それを周囲の樹木(ウッド)系種は見逃さず、蔓や枝葉を伸ばして霧散する魔力をかすめ取っていった。

「な、なあ、アレって本当に初級攻撃魔術か……?」

「……ああ。ギルドの新人でも扱える初歩も初歩の攻撃魔術だが……」

「ふふ……二人とも、速さは力なんだよ……?」

 むふー、と息を荒くしながらティルダは自慢げに語る。

「……ちっちゃい子供がとことこ走ってくるのと、大人くらいの全力で走ってくるのと、受け止められるのはどっち、って話と同じだよ」

「それと同じ話でいいのか……?」

 いまいち釈然とできない風のバーンズはとりあえず置いておき、ハクロは魔導具の使用感をティルダに伝える。

「とりあえずこいつを威力、命中精度、術者への負荷について10点評価中の5点として基準にするぞ」

「今の威力を5点基準に!?」

「うん……それじゃあ、次はこれだね」

 外野は無視してハクロは次の魔導具を受け取る。

 今度は筒部分が先ほどの倍の長さがあり、内側に溝が彫り込まれていた。どうやら飛距離と貫通力に特化した構造になっているらしく、やや重量を増した魔導具をしっかりと左手で支える。

 そして先程の爆音で学習したらしいバーンズとタズウェルが両耳を塞ぐのを確認すると、ハクロは引き金を引いた。


 ――ズドン!


 先ほどよりも強い衝撃が筒口から放たれ、目視できない速度で魔術が森目掛けて飛んでいく。

 そして圧し折れた樹木(ウッド)系種に蔦を伸ばして貪り食っていた隣の個体に命中し――小さな穴を穿ち後ろの2個体分をも貫通した。

「「…………」」

「うーん、8、5、3かね。つっても威力はあっても貫通力が高すぎて的を抜けちまう。図体がでかすぎる魔物相手だと決定打に欠けそうだ。ただし魔獣や対人戦でなら十分に使える。命中精度に関しては個人的には8点でも良いと思うが、取扱いの癖が強いから万人受けじゃねえってことで控えめにしとく」

「な、なるほど……」

「次」

 熱心に手帳にメモしていくティルダに代わってバーンズに魔導具を押し付け、次の一本を拾い上げる。受け取ったバーンズが顔を青ざめさせながらワタワタとし、タズウェルも何か言いたそうにしていたが、とりあえず無視する。

「次は……ほう、基礎部分がかなり短いな……」


 ――パン!


 もはやノータイムで引き金を引く。

 先程とは違い控えめな衝撃音と共に放たれた魔術は狙いがやや反れ、幹ではなく枝先を弾き飛ばすに留まった。

「……ふむ」


 ――パン、パン、パン!


 それを見たハクロは続けざまに引き金を引く。

 すると引いた数だけ連続で攻撃魔術が装填され、筒口から発射された。

 今度は幹に命中したが、多少抉れただけで貫通や中核器官(コア)の破壊には至らなかった。

「3、4、10だな。威力は低いが片手で撃てて携帯性能が高いのが良い。命中精度も慣れたらもう少し上げられそうだ。連射性能が高いのがなによりも嬉しい」

「そうだね……屋外での戦闘よりも、屋内とか、市街地での扱いに向いてると思う……」

「何を想定しているんだ……」

「次」

 タズウェルが呆れて何やら呟いたが、やはり無視してバーンズに押し付け次を拾う。

 今度は筒部分は短めだが、持ち手の他にももう一つ取っ手のような部分が取り付けられていた。

「そ、それ……ちょっと自信作……! 引き金を押し続けてみてほしい……ただ、衝撃と言うか、反動が大きいと思うから両手でちゃんと支えて……」

「なるほど。つまり、こうだな」

 先程までは目線に合わせて狙いを定めやすいように高く持ち上げていたが、今度は腰の高さで保持する。左右の手でしっかりと二つの持ち手を支えると、引き金を長く押し込んだ。


 ――ダラララララララララララッ!!


「なんだぁ!?」

「…………」

 バーンズが頓狂な声を上げ、タズウェルがあんぐりと口を開けたまま呆然とする。

 しかしハクロは気にせず引き金を押し続け、その間、絶え間なく掃射される魔術は森へと放たれる。筒口を横薙ぎにするとその通りの軌跡を描いて魔術が飛んでいき、幹にはほぼ一列の弾痕が奔っていた。

「3、4、3。ただし威力は一発当たりの評価であり、この連射性能を総合した場合は8から10だ」

「うふふ……! どう、どう……!?」

「使用感としては一番『楽しい』な。ただこの速度でぶっぱなし続けると基礎部分がオーバーヒートしないか?」

「……そこがネックなの。もう一方の持ち手に冷却術式を付与して全体を冷やせば解決するかもだけど……そのためにもう一個魔石を使うのもどうかなあって」

「いや、この感じなら魔石機構を増やしてもなお釣りが出る。その方向で行こう。次」


 その後もハクロは試作の魔導具を撃ち続けた。


「次」


「次」


「次」


 一通り触ったら今度は距離を変え、ハクロ以外でも扱えるかどうか確認しながらバーンズとタズウェルにも撃たせ、その使用感を一つ一つメモしていく。

 そうしているうちに魔物の森は少しずつ外側から破壊されていき、ハクロたちから見て手前側がどんどん削られていった。


「う、うひゅひゅ……! こ、これが最後だよ……!」


 そうして森との境界十数歩手前で、満を持してティルダがずっと背負っていた包みを解いた。

 これまで試し撃ちをしてこなかったが、どうやら連射特化の魔導具の上を行く「とっておき」らしい。

「じゃじゃーん……!」

 彼女にしては珍しく浮かれ切って自らファンファーレを口にし、ハクロに魔導具を差し出す。

 大きさとしては貫通力特化の魔導具と同等だったが、筒の太さが一回り大きい。厚さもそうだが、内径もかなりのサイズとなっていた。

「うん?」

 受け取ってすぐに違和感に気付いた。これまでの試作品と異なり、持ち手に施されていた攻撃魔術が存在しない。その代わりに発射性能に特化しているようだ。

「こ、これをね……こうすると……」

 ティルダが横から手を伸ばす。

 すると持ち手の部分がカチンと音を立てて曲がり、撃鉄部分が開いた。

「それで、これを入れるの……!」

 言って差し出したのは、円錐型に加工された小さな緋色の魔石を金属製の薄い筒にはめ込んだ物だった。

「こ、これはボウガンの原点に一回立ち返って、魔術じゃなくて物質を発射する魔導具……! 飛距離と貫通力を術式で補填して、これまでの試作品と同等の威力が出るようにしてみたの……!」

「……おいおい」

 流石にこれにはハクロも呆れ果てた。

 もはや完全に火薬の代わりに魔術を応用した銃火器である。

「最高だな」

「えへへ……!」

「「…………」」

 ハクロが軽薄に笑うと、ティルダもまた屈託なく笑う。後ろの二人はただ茫然としているだけの置物と化していた。

「ところで、弾を魔石にしたってことは」

「う、うん……! ちゃ、着弾地点で魔術が起動できるんだよ!」

「はっはー。おい、バーンズ」

「……はい」

 振り返り、置物その一に魔石を放る。

「こいつにお前の術式をありったけ込めろ。そうだな、この森を焼き払うくらい強烈にぶち込んでやれ」

「……はい」

 ハクロとティルダがそれぞれテンションが爆上がりしている中、バーンズはただただ無感情に、淡々と言われた通り魔石に魔力を込め、術式を施す。

 すると元から赤みの強かった魔石がより紅く、煌煌としたきらめきを放ち始めた。

 はやり退いたとはいえ元Aランクの〝爆劫(バーンズ)〟の術式は一味違うようだ。なんかテンション低いが、こんな楽しいことを前にしてどうしたのだろうか。

「はっはー! 装填!」

「くふふ……! は、発射ー!」


 ――ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!


 引き金が引かれたと思った次の瞬間には魔石は森の奥深くへと飛んでいき、どこかの樹木(ウッド)系種の幹に被弾。そしてもはや爆音と言う名の別次元の衝撃と共に炸裂し、小さな魔石から放たれた魔術とは思えない威力の火柱を上げた。


「はっはー! いいねえ! バーンズ、やるじゃねえか!」

「…………」

「ふ、ふひひひ……! ウチの計算通り事故なしで試運転完了……! この機構を応用して大出力化が実現したら、ルネちゃんの夢に一歩近づくよ……!」

「…………」


 ごうごうと音を立てて燃え上がる魔物の森を眺めながら、バーンズとタズウェルは無言で立ち尽くしていた。

 放たれた大火は魔物の保有する魔力を変異させ、炎属性魔力へと塗り替えながら倍々に威力を増していく。


 森が完全に焼失し炎が完全に消え去るまで約半日ほどの時間を有したが、その間、ハクロとティルダの笑い声交じりの魔導具構想議論が絶え間なく続いたという。

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