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こぼればなし  作者: やまやま
弐 最悪の黒
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最悪の黒-039_スタンピード

 スタンピードとは本来、大型動物の群れが恐怖や興奮状態により突如として同じ方向に走り出すことを指す。有名なところでは、サバンナのシマウマやヌーの群れがライオン等の肉食獣に襲われ、一斉に走り出す現象が該当する。

 ここから転じて、魔物が突如として大量発生し人里へ向けて移動を開始する現象を突発魔群侵攻(スタンピード)と呼ぶ。


「規模と距離、方角は!?」


 飛び込んできたエルフの少年にジャンヌが声を張るように確認する。

「ぼ、(ボア)系の魔物を中心に50頭規模! 距離は20分前時点で約10キロ、方角は北東です!」

「ミラの姿がないけど、まさか足止めしてるんじゃないでしょうね!?」

「と、途中まで一緒だったけど、魔法陣トラップを置いてから逃げるって……!」

「だいじょーぶ、ミラちゃんの場所、確認とれたよー」

 手のひらに小さな蔦の塊を浮かばせながらアイビーが頷く。

「もうすぐ街に着くよー。群れとの距離も十分」

「……ならば良し! すぐに動ける者、衛兵隊舎と医薬ギルド(エミリア=グループ)に連絡!」

「動いてます!」

 受付で作業していたギルド職員に檄を飛ばすと即座に答えが返ってくる。そしてウェイトレスの一人が優雅な足取りで息を切らす二人の傭兵に水を運んで落ち着かせるのを確認すると、ジャンヌもまた意識して一呼吸挟む。

「ジョッシュ、アニー、報告ありがとう。状況を詳しく聞きたいから、奥の部屋に来て」

「「は、はい!」」

 二人に指示を出すとアイビーに向き直る。

「支部長。街の()()()()()をお願いします」

「うんうん、もう始めてるよー。それで、私も表に出ようかー?」

 蔦の珠を指先で転がし遊びながら、〝蔦の魔女(アイビー)〟は気だるげに笑った。

「不要です。あなたはいつも通り、部屋でふんぞり返って報告を待っていればよいのです」

「んふふー、たのもしーなー。ところで……」

 ふと、アイビーはテーブルに視線を移す。

「あの二人、いつの間に出て行ったんだろうねー」

「……え?」

 つい数秒前までそこに座っていた黒髪の男と老オーガの姿が消えていた。



「……聞いていたより数が多いんじゃないか?」

「道中におった関係ない魔物を巻き込んだのだろうのう。よくある話だ」

 蔦が絡み合い城壁の様相となった街境の隙間を抜け、二人は北東方向に視線を向けた。

 見上げるほどの巨躯を折り曲げるような猫背にし、柱のようなメイスを杖代わりに歩くオセロットが顎を撫でる。本来の体格よりも幾分視線は低いがそれでもハクロより高い位置から見渡すと、既に遠くの方で土埃が舞っているのが確認できた。

 ハクロも探知魔術を発動して動向を探るが、群れは既に100頭に届きそうな規模に膨れ上がっているように感じる。

「あの方角って、何があったっけ」

「小規模な農園がいくつかと、それに付随した施設が二、三。家畜を扱ったものではない故、この時間ならば人はおらぬだろうが、農地は踏み荒らされるだろうのう。全くの被害なしとはいかぬだろう」

「先に行く」

 トントンとその場で足に術式を施しながら調子を確かめる。今すぐにでも飛び出しそうなハクロを老練の傭兵は「待った」と止めた。

「君の実力を疑うわけではないが、一人で大丈夫なのかね」

「一人だからこそ使える手もある」

「……なるほど。まあ深入りはせぬよ、商売道具の秘匿は傭兵の常識だ」

 オセロットが頷くと、目の前からハクロが消えた。

 いや、消えたような速度で走り去ったのだ。


「さあて、討ち漏らしの処理くらいはさせてくれるとよいがのう」


 そうぼやきながら、〝山猫(オセロット)〟は背筋を曲げながらメイスを肩に担いだ。

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