最悪の黒-009_地方の実情
考えても見てくれ、とカーターが肩を竦める。
「フロア村は辺境の山村としてはそこそこの規模だし、王都から衛兵隊が派遣される程度には交通の要所でもある。だがそうは言っても衛兵隊は待機も合わせても五十人規模の中隊程度だ。村の周囲には危険な魔物も少なからず出ることもあるし、護送にあまり大人数は裂けんのだ」
「……ははあ、なるほどね」
ハクロは少しずつ話の全貌が見えてきたのか、苦笑を浮かべる。
「要は護送中に報復とメンバーの奪還のために襲われたらひとたまりもないと」
「話が早くて助かるぜ」
「しかも相手は腐っても元Bクラス傭兵団の上位メンバーです。フロア村駐在の衛兵隊全員で護送に当たってようやく追い返せるかどうか」
「情けない話だな」
「うるせえや、相手が悪い相手が」
「こればかりは仕方がない話かと。フロア村の衛兵隊の練度が低いのではなく、相手が化物過ぎるというだけです」
まったくもって頭が痛いと、ロックが首を振る。
「じゃあ近くの街から衛兵隊なり傭兵なり援軍を呼べばいいじゃねえか」
「簡単に言ってくれるな、ここがどんだけ辺境だと思ってやがる。……ああ、いや、あんたは知らねえのか……あー、近くのでかい街まで片道で十日はかかる。そんな長期間あの馬鹿どもを拘束してたら村の方が襲われちまう」
「……ロック。あんたはこの地区のギルド担当者なんだよな。この辺りに上級傭兵がいるかどうかは」
「既に調べてあります。しかしフロア地区で活動している傭兵団及びギルドメンバーに『明星の蠍』は荷が重い」
「八方塞か」
「なので頭が痛いのです」
「で」
と、ハクロが切り込む。
頭が痛くなる状況は十分に理解できた。では何故自分がここに呼ばれたのか――それを理解できないほど、愚かであるつもりはない。
「俺に力を貸せと」
「ええ、まあ。下っ端とは言え『明星の蠍』のメンバー十五人を単身圧倒したという貴方の実力は、間違いなく傭兵ギルド基準でもBランク以上。私どもの尻拭いにさらに手を貸せと言うようなものなので心苦しい限りですが」
「ま、乗り掛かった舟だしな。別にいいぞ」
それにそういう荒事は慣れている、とはカーターの手前、口にはしなかったが。
と、今度はロックがぽかんと口を開けているのに気付いた。
「どうしたよ」
「……まさか即決されるとは思わなかったもので」
「言っとくが、タダ働きはしねえぞ」
「それはもちろん。B難易度護送任務としての正規の報酬を用意いたします」
「……いいや」
ハクロは首を横に振る。その口元には、軽薄な笑みが浮かんでいた。
「用意してもらいたいのは討伐任務相応の報酬、それと俺の身元証明だ」