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こぼればなし  作者: やまやま
弐 最悪の黒
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最悪の黒-161_再会と

 三か月ぶりの傭兵ギルド(ロベルト=ファミリー)ハスキー州都第一支部は相変わらずの喧騒だった。

 この支部を利用している傭兵のほとんどがドワーフということもあり、怒号のようながなり声の受付対応、依頼報告、そして酒の注文が飛び交っている。床も相変わらず脂と酒でギトギトとしており、靴底をニチャアと引っ張ってくる。

 その中をハクロはオセロットを連れて掻き分けるように進み、そうしてようやくカウンターまで辿り着くと、顔馴染みの受付が声をかけてきた。

「ああ、アンタか! やっと戻って来たんだね!」

「よう。代理はいるか?」

「もちろんさね! 今日アンタが戻ってくる予定って聞いてたからずっと首長くして待ってるよ!」

「報告書はまだできてねえぞ」

「そんなもんは明日でいいから! ほら、行ってやっとくれ!」

 言いながら彼女はカウンターの奥の扉を指さす。他にも依頼報告に戻ってきている傭兵たちが後に閊えているため、案内なしで勝手に入らせてもらう。

 扉の奥へと進み、階段を上った先の執務室へと向かう。

 そしてノックをしながら中の気配を軽く探ると、さすがに支部長室の扉だけあって探知妨害の術式に阻まれて詳細までは掴みきれなかったが、妙に人口密度が高いように感じた。

 ほとんどは知っている気配だが、何人か知らない者もいるようだ。

「入りたまえ」

 ゴツゴツと二度、鉄製のノッカーを打ち付けるとすぐに返事があった。それに対して「失礼」と軽く返しながら扉を開けた。

「久しいな、ハクロ君。そして〝山猫(オセロット)〟翁も息災で何より」

「戻ったぞ。……知り合いか?」

「長いこと傭兵をやっとると、否応なしにのう。支部の数だけ()()よ」

「害虫かよ」

「聞こえているぞ、君たち」

 表情はピクリとも動かさず執務机から立ち上がり、病的に色白な肉付きの薄いエルフーーハスキー州都第一支部を実質的に統括しているヒューゴ・ブランシュはハクロとオセロットを招き入れた。その几帳面にしゃんと伸ばされた姿勢は一度しかまともに対話もしていないのに妙に記憶に残っていた。

「おっす、ハクロさん」

「なんだかすごい久しぶりな気がしますー」

 そして応接席に腰かけていたのはバーンズとエーリカの二人。言葉通り久しぶりに顔を突き合わせたわけだが、これが拠点だったら二人とも飛びついてきそうなにこやかな表情をしていた。再会の場が支部長代理の執務室で良かった。

 さらにもう二人――壁際に立っていたそちらに目を向ける。


「おう、貴様がハクロじゃな!?」


 声で殴られたかのような衝撃が全身を通り抜けた。

 たった一人で受付フロア全体の喧騒に匹敵しそうな声量に面食らう。

 少し視線を横にすると、バーンズやオセロット、ヒューゴやもう一人の見知らぬ傭兵の全員が無表情のまま耳を手で覆っていた。エーリカも塞いではいたが、彼女の肉の薄い手の平では完全に打ち消すことができなかったようで「ふにゃ」と小さく悲鳴を上げた。


「ヴァーンズから聞いておるぞ!! 想像よりも随分と細っこいのう!! もっと肉を喰え!! そして鎧を纏い大地を駆けるのじゃ!! 儂のようにのう!!」


 ガハハ!! と大気を震わせ笑ったのは、深いしわが顔に刻まれた禿頭の老人だった。

 黒光りする鋼鉄の甲冑で覆った彼はそれを差し引いても背丈に対し体に厚みがあり、脚が短いが腕は長く、何よりも胸当てを覆うほど長く伸ばした豊かな髭の特徴から、ドワーフなのだろうとは見て取れた。だがしかし、ハクロは本当にこいつはドワーフなのかと咄嗟の判断ができなかった。

 それほどまでに、ドワーフにしては上背があった。

 流石にハクロほど背が高いわけではない。しかし少なくともバーンズよりは確実に上回っている。

 ドワーフ特有の重心が低くがっちりとした体格にドワーフ離れした背丈、さらに着込んだ鋼鉄の甲冑の圧迫感――さながら、鉄の崖を彷彿とさせた。

「ジジイ、ジジイ! 声がでけえ! あとヴァーンズじゃなくてバーンズな!?」


「あぁ!? なんじゃって!?」


「声がでけえ!! ってかまた魔導具オフってんのか!!」

 そしてもう一人――巨漢の老ドワーフの後ろで獣の耳を塞いでいた赤毛に黒い縞のような模様が入った毛色の獅人族の男が歩み寄り、鎧の首回りを指先で小突く。するとそこに仕込まれていたらしい術式が起動し、老ドワーフの耳から口元に魔力が流れ始めた。

「これ煩わしいんじゃ!! 首辺りがぞわぞわして好かん!!」

「うるせえジジイ、文句垂れんな」

 魔導具を介して比較的良識のあるボリュームに調整された老ドワーフの声量と言葉に溜息をしつつ、赤縞の獅人の男がハクロに向き直った。

「……つーわけで、なんか出鼻挫かれちまったが、一応お初ってことで。俺はレナート・クルス。Aランク傭兵第参拾捌位階の〝焔蜥蜴(サラマンダー)〟だ。呼ぶときゃどっちでもお好きなように。んでこっちのジジイが――」

「儂は第弐拾壱位階〝鉄の断崖(クリフ)〟・ディアスである!!」

 ルネ率いる「太陽の旅団」が抱える七名のAランク傭兵のうち、〝爆劫(バーンズ)〟を含めた三人が集まっていたのだった。

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