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こぼればなし  作者: やまやま
弐 最悪の黒
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最悪の黒-156_内勤魔術師の実情

 魔術書の新刊即売会――ではなく、搬出と積み下ろし作業はその日のうちに完了した。

 一度湖都の屋敷に戻って翌日の作業の準備をしつつ、四人の間には一仕事終えた後のゆるりとした空気が漂っている。

 ハクロの目測通り、昼前に一度、昼休憩後に一度、そして夕刻前に一度、湖都とギルド宿を行き来することにはなったものの、それぞれの作業は想定を上回る速度で片付いたのだった。

 一番大きな要因は勿論、文字通り狂気じみた熱量で群がってきた魔術師たちである。下ろした封印付き木箱を尋常ではない速度で奇声を上げつつ開封していき、中の魔術書を確認し、舌なめずりし、ハクロたちでは判断しかねたより専門的な分類法に則り細分していった。その様子は大きな虫を行列を作って解体していく蟻を彷彿とさせた。

「……勢いがすごかった」

 ティルダはその熱気に完全に尻込みしてしまい、荷台に隠れて一日使い物にならなかった。魔導具を前にしたお前も似たようなものだぞ、という言葉は静かに飲み込んだ。

 ともかく。

 しかしそれ以上に功績が大きいのがリリィの対応能力であった。

 本来門外漢の分野であるにもかかわらず、一覧表から箱の中身を判断し、待機する魔術師たちに割り振っていく。分からない内容ははっきりとした声音で近くの魔術師に訊ね、その魔術書を探していた者を見つけて声をかける。その一連の作業は洗練されており、司書として魔術ギルド(マグリナ=アカデミー)に潜むこともあるザラをして感心させる手際だった。

「リリィさん、図書館に勤めていた経験でもおありデスか?」

「いえ、私はどこのギルドも経由してない薬師ですけど」

「薬師という偉大な職についておられるリリィさんにこういった言葉を使うのは失礼かもしれまセンが、その才能は勿体ないデスですねえ。是非とも司書に欲しいところデスよ。本当に、司書をやってると変な魔術師が毎日毎日やってきて、無茶なレファレンスを依頼してきて大変なんデス……」

「レファレンス?」

「図書館でこういった本を探しているって聞くことだな。司書は利用者のリクエストに応じて本を探す手助けをしたり、その図書館になけりゃ取り寄せ依頼をかけるのも仕事だ」

「禁帯出の魔術書を平気で取り寄せ依頼してくる魔術師のなんと多いことか……! できるわけないデショウが!! 閲覧がしたければ王都本館に自分で行きなサイ!」

「恨みが深い」

「あと転写禁止魔術に弾かれたからって文句を言ってくる輩! 禁止だから封印してるんデスよ! 閲覧許可を出してるだけありがたいと思ってくだサイ!!」

「恨みが深い」

 珍しく獣らしい唸り声を上げるザラに苦笑する。どこの世界にも厄介な客というのはいるようだ。

「分かります。薬師をやっていてもたまに変な患者さんっているんですよね……」

「この話題はここまでだ」

 パンパンと手をはたいて切り替える。

 薬師(医者)の愚痴は大概碌な物がなく、正気度に関わってくる。

「傭兵やってるとそんな変な連中とはあんまりカチ合わんのだがなあ」

 魔術ギルド(マグリナ=アカデミー)に所属する魔術師など、実際は「太陽の翼」の関係者くらいしかいないが、エーリカにせよ、オデルとセスのどちらかにせよ(未だにどっちがどっちか忘れてしまう)、彼らは特殊事例が過ぎるため除外する。アレらは変な連中というよりヤバい奴らである。

「内勤の魔術師って基本的にコミュニケーション能力が欠如してマスからね。教導員や調査員(フィールダー)なんかは人と触れ合うことが前提デスから」

「さも自分は真っ当と言いたげだが、お前も大概だからな」

「オヤオヤ」

 表立った罪状がないというだけで盗賊ギルド(ゾルフ=コミュニティ)のコインを持ち歩いている尼僧兼司書兼飴屋とかいうわけのわからん存在である。なんなら叩けば他にも面の皮が出てきそうだ。常識枠に収まろうなどおこがましいにもほどがある。

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